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 経験を織り込んだ新製品への深い自信が、真のニーズを見失わせた。そのために日立製作所は顧客からノーを突き付けられる。挽回の鍵は、直後に出会った別の顧客からの一言にあった。

=文中敬称略


 「売り手の思いを持ち込むだけでは、顧客の問題を解決できるわけがない。分かっていたはずだが…」。サッポロ飲料が、ブログとRSSリーダーによる情報共有システムを立ち上げた2005年12月。このシステムを納入した日立製作所ブロードバンドサービス本部コラボレーションウェアビジネス部BOXERグループの松本匡孝主任技師は、自戒を込めてつぶやいた。

 松本は最初、サッポロ飲料にブログだけを紹介した。グループウエアと比べた操作性の良さや価格の安さで、商談を押し切れると踏んだからだ。ところが製品に対する自信は、サッポロ飲料の強いこだわりを見逃す要因になった。加えて「このツールはこう使う」という先入観が提案の幅を狭め、物別れに終わった。

 その松本がサッポロ飲料に再提案したのは、RSSリーダーを社員共通のポータルに使う、当時としては珍しい構成だった。社員はこれを起点とし、ブログに書き込まれた最新の社内情報を1つの画面の中でチェックできる。さらにこの画面から基幹系システムへアクセスする。「最新の社内情報を全社員へ周知徹底したい」という企業ユーザーとしての基本的なニーズに特化し、一度は失注した商談をたぐり寄せた。

 この商談の発端は、サッポロ飲料が物流・会計・勤務管理など基幹系システムの刷新に着手した2004年11月である。人事総務部長の宮川徹と経営戦略部グループリーダーの石原睦、経営戦略部副課長の笹沼典史らが集結し「業務革新プロジェクト」を立ち上げた。

 それまで同社は、社員間の業務連絡に、社内ポータルとメールを使っていた。業革プロジェクトのチーム(業革チーム)は社内ポータルに対し、積極的にアクセスしない社員への情報伝達に時間がかかると感じていた。またメールも、多数のメッセージが飛び交ううちに、どれが重要か分からなくなると考えた。

 そこで2005年1月、まず商品情報などの蓄積とメールの基盤としてExchangeの採用を固めた。その上で「社内に散在する業務ノウハウを集約する」「最新情報を即座に伝える」「社員間で双方向のやり取りを促す」といった要件を定義。2005年3月から別途、グループウエアを検討し始めた。

操作の簡単さを前面に売り込む

 業革チームは製品検討に当たって、ホストコンピュータの納入実績を持つ日立HBM、Exchangeの運用を担当する丸紅情報システムズから情報を収集していた。ここで日立HBMから聞きつけ、乗り込んできたのが松本である。

 松本が所属する部門はグループウエアを販売していたが、2004年から情報共有ツールのラインアップにブログ構築ソフト「Movable Type」を加えてビジネスを拡大していた。イントラブログソフト「iB」は、この経験を通じて得たユーザー管理機能などの法人ニーズを盛り込み、新たに開発した自信作である。当然ながら松本は初回の訪問で、グループウエアと比べて情報入力がしやすいといったメリットを前面に押し立てた。

 「テストでも何でもいい。一度使ってくれればこっちのものだ」。松本には勝算があった。宮川や石原がサッポロビール出身と聞いていた。サッポロビールではNotesを利用していたため、その独特の操作性に触れていたはず。そうした相手には、ブログのシンプルさが受け入れられるとみていた。





本記事は日経ソリューションビジネス2006年8月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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