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 家庭にもインターネットが行きわたり,毎晩寝不足の人も多いことでしょう。昼も夜もパソコンの画面と睨めっこする様は,ジャズの名曲「ナイト・アンド・デイ」を思い起こさせます。

 画面と睨めっこと言えば,その筆頭は「デイ・トレーダー」と呼ばれる人たちです。彼らは,乱高下する株価を時々刻々チェックしながら,売買を繰り返しています。ただ,その時間帯は主に東証がオープンしている日中(デイタイム)だけでした。

 ところが,これからは個人の株取引にも「ナイト・アンド・デイ」が流れ始めます。9月15日に夜間取引をスタートさせるカブ・ドットコムを皮切りに,主要ネット証券会社は夜間取引の導入を発表しています。カブ・ドットコムの夜間取引は午後7時30分から午後11時まで。東証と同じようなオークション方式(売買注文の需給状況で約定価格が変動する取引)を採用するため,売買注文が多く集まれば日中と同じネットトレーディグが可能になるのです。

 このように一企業であるネット証券会社が取引所と同様のサービスを提供する仕組みを「PTS(私設取引システム)」と呼び,次の点で株式市場に絶大なインパクトをもたらすと考えられます。

 まず,パソコンに釘づけで株取引に熱中するのは,デイ・トレーダーだけでなく,日中は仕事や家事に忙殺される人にまで広がるでしょう。「ナイト・トレーダー」が登場するわけです。次に,複数のネット証券会社がPTSを開設すると,それらの間で競争が起こります。個人投資家は複数のPTSの中から一番有利な条件を選んで売買注文を出せるようになるのです。同じPTSで利ざやを狙うだけでなく,PTS間の価格差を利用した裁定取引で利益を確保することが可能になります。このようにして,日本の株式市場が量的にも時間的にも拡大して流動性が高まれば,海外の投資家から見ても魅力的な市場に映るはずです。

 ここまでは良いことばかり書いてきましたが,実際には蓋を開けて見なければなんとも言えません。

 まず,本当に活発な売り買いの注文が約定して出来高が膨らむのか。出来高が読めない以上,ネット証券にとってシステムの手当ては極めて難しい経営課題になります。想定以上の注文が殺到してシステムがダウンすることだけは,避けなければなりません。その一方で,PTSは証券業が営む「取引システム」であり「取引所」ではないため,1日の取引量は取引所の1%未満に制限されています。したがって,単純に取引量が増えたからといってシステムを増強すればいいというものではないのです。この辺りのさじ加減が,ネット証券の信頼性と利益を左右するでしょう。

 決済に関しては,同じネット証券の会員の間で行われるため,理屈上は特に問題はありません。しかし,日中も夜間も取引のオンライン・トランザクション処理を実行するとなると,決済のバッチ処理に要する時間と処理能力が厳しくなるのは想像に硬くありません。オンライン処理を優先するあまり,バッチ処理が犠牲なるのは世の常です。

 証券界のガリバー,野村證券のトップセールスマンはかつて,松井証券の台頭を歯牙にもかけませんでした。それがあっという間に個人市場で逆転負け。野村をリタイヤした彼はいま松井証券のネットトレーディングに熱中しているといいます。プロでも読めないのは株価だけでなく,ITによるイノベーションなのです。