PR

 これから数回にわたり,筆者の顧問先企業で行なっている「プチ勉強会」の一部をご紹介します。

──さて,今日は,コスト管理における重要な概念を説明することにします。変動費と固定費です。
「CVP分析で,よく登場しますね」
よく知っているじゃないですか。では,CVPとは何の略か,ご存じですか?
「Cは"Cost",Vは"Volume",Pは"Profit"でしたね」

 CostとProfitは費用と利益,Volumeは販売数量のことであり,これら三者の関係から損益分岐点(BEP:Break Even Point)を求めることを,CVP分析といいます。最近の会計ソフトはとても優秀で,月次決算をしっかりと行なっていれば,きれいなCVP図表を画面に映し出してくれます。例えば,ポピュラーなCVP図表として図1があります。

図1●CVP図表の例
図1●CVP図表の例

 この勉強会では,図1を基に「損益分岐点とは…,変動費とは…」などといった抽象論を開陳するつもりはありません。筆者オリジナルの手法を使って,CVP分析とはどういうものなのか,変動費や固定費はどのような働きをするのか,それがコスト管理にどのような影響を及ぼすのか,といったことを探っていくことにします。

ところで,そこのパソコンの横に置いてあるプリンタは,どこのメーカーのものですか?
「ああ,これは京セラ製ですね。今年の春,奮発して買ったものですよ」

 よし,これも何かの縁ですから,京セラ(注1)のコスト構造を調べてみることにしましょう。同社の業績を『日経会社情報』で調べたところ,過去3期分のデータを得ることができました(図2)

図2●京セラの制度損益計算書
図2●京セラの制度損益計算書

 図2は証券取引法や会社法などの制度に基づいて作成される損益計算書なので,「制度損益計算書」と呼ぶことにします。図2の中段にある「総コスト」は,「売上原価」に「販売費及び一般管理費」を加えたものです。売上高から営業利益までは,よく見る損益計算書の上半分の構造です。

「ははぁん,売上高に占める総コストの割合を求めようというのですね。それでは『お子様ランチの経営分析』ではないですか」
具材は同じでも,料理の仕方によって味は変わりますよ。図2をベースに図3を作ってみました。

図3●京セラの変動損益計算書
図3●京セラの変動損益計算書

 図3の様式を,「変動損益計算書」と呼ぶことにします。中段に「変動利益」の行があることから,損益計算書の頭に「変動」を付け加えることにしています。その変動利益は,「売上高」から「変動費」を控除したものです。さらに固定費を控除すると営業利益を求めることができて,これは図2の「制度損益計算書」の営業利益と一致する…。

「ちょ,ちょっと待ってくださいよ,タカダ先生。普通,変動費や固定費といったものは,企業内部の人間しか知り得ないデータであって,外部の人間は入手のしようがないものです。ま,まさか,京セラの会計システムに侵入して……」
その「まさか」を実現するのが「ITの実力」なのではないですか?
そうはいっても,企業のサーバーに侵入するのは犯罪ですからね。ここは知恵の絞りどころです。

 現在,京セラをはじめとする上場企業では,四半期ごとの業績開示が義務付けられており,第1四半期から第4四半期(期末)までの売上高データなどが決算短信などで公開されています。そのデータを基に「回帰分析」という統計学的手法を使うと,図3の変動損益計算書を作ることができるのです。

 これを視覚的に説明してみましょう。2006年3月期の1年間に開示された決算短信のデータに基づいて,横軸に売上高,縦軸に総コストを設定すると,図4の散布図を描くことができます。

図4●京セラ:2006年3月期に係る四半期データの散布図
図4●京セラ:2006年3月期に係る四半期データの散布図

 CVP分析では,図1のように横軸を販売数量(Volume)とするのが基本ですが,さすがに販売数量データを入手するのは困難なので,ここでは売上高としています。

 図4に描かれた4つの点を結ぶと,ほぼ右上がりの直線を描くことができます。これは,売上高に比例して増減するコスト,すなわち変動費が存在するためです。右上がりの直線ABの傾きを調べると0.638となり,この傾きが図1においてマーカーで表示した「変動費率」となります(注2)。右上がりの直線ABにおいて,A点のところを左下へ延伸すると縦軸にぶつかります。その縦軸にぶつかったところを,年間ベースに引き直すと,図3で背景を着色した固定費3241億円を求めることができます。これは図1の縦軸においてマーカー表示した「固定費」が当てはまります。京セラでは,たとえ売上高がゼロになっても,3241億円のコストが固定的に発生する。それが固定費たる所以です。

 このような方法で固定費と変動費に分解する方法を,「固変(こへん)分解」といいます。データ数が4件しかないので解析精度に難がありますが,おおよそのコスト構造を知る手がかりにはなるでしょう。四半期データを使った固変分解の手法については,回帰分析の計算式を含めて,拙著『ほんとうにわかる株式投資』(PHP研究所)の105頁以降で紹介していますので参考にしてください。

「タカダ先生,こういう事例分析を公にするのって,まずくないですか?」
四半期開示は法定の制度ですし,回帰分析は統計学の一手法です。筆者の主観はどこにも反映されていませんよ。まぁ,四半期データを使った固変分解のアイデアは,拙著が嚆矢(こうし)でしょうが。

 これからも変動費と固定費の性格を明らかにするために,随時,様々な上場企業のデータを取り上げる予定です。次回は3期分のデータ(図3)から,京セラのコスト構造がどのように変転しているかを解き明かすことにしましょう


(注1)このコラムでは,敬称を略させていただきます
(注2)2006年3月期の売上高1兆1815億円に変動費率0.638をかけると,変動費7542億円が導き出されます


→「ITを経営に役立てるコスト管理入門」の一覧へ

■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/