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海外修行で国内の認知度アップ


●クイックレスポンス(QR)システムで納期を短縮
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 とはいえ、卸中心の流通網が確立した国内市場で中小メーカーのブランドが認められるのは難しい。そこで池内社長は海外のトレードショーに積極的に出展を重ねた。2002年には「ニューヨークホームテキスタイルショー」で日本企業として初の受賞を果たし、米国での販路を開拓した。

 「米国のトレードショーは単なる見本市ではなく、取引の場。ここでバイヤーに認められなかった商品には何か欠点がある。それを必死に探り、商品の見直しを重ねた」と池内社長は振り返る。例えば日本のタオル市場では、コンピュータ技術を駆使した精巧な柄織が評価されるが、「米国のバイヤーは口では“ノーブル”と褒めるものの、内心では“田舎っぽい”と思っている。それが徐々に分かってきたのでデザインも大幅に見直し、シンプルな柄で色のバリエーションを重視した現在のラインアップにたどり着いた」という。

 トレードショーでの成功は日本の顧客開拓にも結び付いた。日本の美容業界の草分けであるメイ・ウシヤマ氏を会長とするハリウッドビューティサロン グループ(東京・港)の牛山大専務は、ニューヨーク在住中に、高級インテリアショップで池内タオルの製品と巡りあった。女優や政府要人などいわゆるセレブリティの顧客が多いことで有名なその店で「風で織るタオル」を手に取った牛山氏は、「タオルのように付加価値がつけにくい商材で、権威ある賞をもらうタオルとはどんなものかと思ったら、今治のメーカーだったので驚いた」と話す。六本木ヒルズにある同社のフラッグシップ・サロン「メイズ・ガーデン・スパ」ではタオルやバスローブを採用した。

 IT(情報技術)の活用にも積極的に取り組んだ。米国市場での健闘が日本のマスコミで取り上げられると、池内タオルのウェブサイトへのアクセスが増加してきた。池内社長は自らのメールアドレスを公開し、問い合わせや意見を直接自分にぶつけるよう呼びかけた。環境に関心が高い顧客と池内社長を結ぶコミュニティーが形成され、「民事再生法の申請時には、こういったファンが金融機関などにメールを送り、支援を嘆願してくれたと聞く。価値観を同じくする人を結び付けるネットの力を改めて感じた」(池内社長)という。

ネットを介して取引が広がる

 染色加工や刺しゅう、縫製などを請け負う地元の加工業者との間で、90年代の後半からクイックレスポンス(QR)システムを導入。生産計画や加工作業の進ちょく情報などを共有することで、45日の製造リードタイムを28日まで短縮した。

 民事再生過程の現在も、サイトの掲示板や池内社長あてのメールを商品開発のヒントにする。例えば顧客から寄せられた「風で織るタオルをA社の石けんで洗うと柔らかくなる」という情報をきっかけに、A社との共同商品開発が実現するなど、機動的な事業展開に役立てる。LOHASやスローライフといった価値観で結ばれる顧客と企業が、情報を交換して新たな価値創造を目指す。

 販路の拡大や他企業との連携により、「風で織るタオル」の売り上げは、予定通り3億円を超え、再生計画は順調に進みつつある。米国でも取り扱い店舗が今年中に200店に達する予定だ。


池内 計司 社長
いけうち けいし氏●1949年生まれ。71年一橋大学商学部卒業後、松下電器産業入社。83年に池内タオルに入社し、現職

顧客は方針デザインに付いてくる

 1997年から「風で織るタオル」ブランドの育成を始め、海外の展示会などに投資を重ね、いよいよ収穫が得られそうになった矢先に取引先の破綻に見舞われた。この時に多くのファンが金融機関にメールを出すなどしてくれたことが民事再生できた理由の1つと考えている。このファンは、「風で織るタオル」というブランドというよりは、環境を重視してものづくりをするという当社の方針デザイン、すなわち経営のコンセプトを支持してくれた人なのではないか。

 日本のタオル産業にとって喫緊の課題は中国に対する優位性をどう確保するかにある。商品デザイン面では日本に長があるが、追いつかれるのは時間の問題だろう。しかし、企業としての方針デザインを打ち出せる中国企業はまだ少なく、ここにこそ日本企業の強みがある。

 方針デザインは顧客とのコミュニケーションから生まれ、練られていくものだ。当社の場合、顧客からのメールは私が集約し、顧客からの意見、提案を検討しながら方針デザインを決めていく体制を採っている。顧客の中には企業に勤める人もいるし、ここから企業間の有力なコラボレーションが生まれることも少なくない。個人が得ることのできる情報は限られている。ネットを活用して有益な人脈を掘り起こす重要性は、今後ますます高まるだろう。(談)