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山崎 元氏(写真左) 奥井 規晶氏(写真右)
 
山崎 元氏(転職12回)
経済評論家
楽天証券経済研究所客員研究員
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奥井 規晶氏(転職4回)
UFDホールディングス株式会社 代表取締役

終身雇用制が崩壊し、転職そのものは珍しくなくなった。今やビジネスの世界で転職は常識の1つになっている。その転職を成功に導くには、どのように考え、どう行動すべきだろうか。金融界で12回の転職をした山崎元氏とIT業界で4回の転職をした奥井規晶氏が語り合った(司会:日経ITキャリア編集長 平田 昌信)


―― 新卒で入社した会社を辞め、転職した動機は何でしょうか?

山崎 大学を卒業して入社したのは三菱商事です。財務部に配属されましたが、ファンドマネジャーを目指して26歳のときに投資信託会社に移りました。

 当時の三菱商事では、入社後10年くらいの間に2~3カ所の部署を経験させ、本格的な仕事はそれからといった人事制度があり、若い頃の貴重な10年間を無駄に過ごすような気がしたのが転職を考えた理由の1つです。

 また、財務部で金融関係の仕事をしていたので、マーケットに関わる仕事に興味を持ったことも影響しています。三菱商事の中だけで通用するのでは面白くない、どこでも通用する実力を付けたいと思うようになりました。

奥井 私の場合、新卒で日本IBMに入社し、SE(システムエンジニア)からスタートして、30歳の頃にコンサルタントになりました。IBMでの仕事は大変面白く、勉強にもなりました。仕事に不満はありませんでした。

 にもかかわらず、36歳のときに転職したのは、コンサルタントとしての自分の実力を試してみたいという思いが日増しに強くなったからです。コンサルティングの分野で力を持つ外資系コンサルティング会社でも自分の力は通用すると生意気にも思い、ボストン・コンサルティング・グループに転職したのです。

アビーム コンサルティング 代表取締役社長 西岡 一正氏
ネガティブな理由であっても転職すればいいと思います。「今の勤務先は嫌だ」というのも1つの動機としてカウントすればいいのではないでしょうか。山崎氏

―― 初めて転職された年齢が随分と違います。山崎さんは当時としてはかなり若い頃に転職していますね。

山崎 就職活動中の学生に「自分が好きな仕事をするのがいちばんよい」とアドバイスする年輩者がいますが、自分に向いた仕事、自分の適性を生かせる仕事を学生時代に知ることは、そう簡単ではありません。実際に就職してみると、学生時代にイメージしていた仕事とかなり違う「実感」を持つことが多いはずです。

 ですから、とりあえず就職してみて、それから自分に向いた仕事を探すことも必要になることがあります。その結果、今の会社では「自分の仕事」に就けないとわかったら、早く転職したほうがいいと思います。28歳くらいまでは職種の転換はでき、全く異なった仕事で活躍することは難しくありません。ただ、それ以上の年齢になると、これまでと同じ仕事か近い分野では活躍できますが、全く新しいことをやろうと思っても、少し適応力が落ちてくることが多いようですし、残り時間の問題もあります。

―― IT業界には「SE35歳限界説」という言葉がありますが、やはり30 歳前後は大きな節目になりますね。

奥井 開発現場で指揮を執るマネジャーを見ていると、年齢を重ねた人のほうがマネジメント能力が高いという傾向はありますが、エンジニアとして1つの技術を習得しようと思えば、やはり若いほうが有利です。30歳代半ばでは最先端の技術を覚えることは難しいでしょう。1つの技術を5 年くらいやっていないと一人前として扱ってくれませんから、20歳代のうちに見つけておく必要があります。

 IT業界で生きていこうと思えば、コアスキルを持つことが極めて重要です。私の場合、技術面でのコアスキルはIBMで習得したメインフレームの技術です。時代遅れの技術と思われるかもしれませんが、そのコアスキルがあったからオープン系の技術もわかったと思います。コアスキルが1 つあると、応用力が生まれ、似て非なる技術でも意外と理解しやすくなります。

 コアスキルが求められるのはエンジニアだけではありません。例えば優秀な営業マンを見ると、顧客のニーズを汲み取ることにたけているとか、プレゼンテーションがうまいとか、他人にはない何かを持っています。

山崎 業界によって事情は少し異なるでしょうが、35歳くらいまでに「自分にはこの仕事ができる」と他人に言えるような仕事を確立しておくことは大切ですね。 単純に他人と比較されるのではない自分独自の「商品」を持つ必要があります。それには「自分にできる仕事はこれだ」と言えるような形で、キャリア、知識、スキルを積み重ねておくべきでしょう。

 私は転職を12回しましたが、年齢によって主な目的が異なっています。20歳代の頃の転職では、自分の仕事と決めたファンドマネジャーの仕事を覚えることに目的がありましたが、30歳代に入ってからは「自分がやりたい仕事を気分よくできる」とか「必要な権限を与えられ、仕事がしやすい」という視点で会社を選びました。つまり「仕事の場」の改善が主な目的です。そして40歳を過ぎてからは、時間の自由と発言の自由が得られるかどうかという点を重視しました。金融機関に勤めていると、実名で原稿を書いたり、発言したりすることに差し障りがあるので、そういうことができる会社を探しました。

―― 転職しようと思えば自分の商品価値を高めておく必要があるわけですが、転職したことで知識やスキルが向上したという経験はありませんか。

奥井 IBMを辞めて転職したボストン・コンサルティングでの経験を超えるものは、いまだにありません。周囲で働いているのは米国有名大学でMBA(経営学修士)を取得した人ばかりでした。年上の私よりも明らかに優秀で、かなわなかった。コンサルタントとして自信があって転職したのですが、想像以上の厳しさに1年間は入社を後悔したこともあります。その後2つの会社に転職しましたが、ボストン・コンサルティングで勤務した3年半の間に身に付けた能力だけで転職したようなものです。

山崎 資金運用が私の仕事です。自分なりに勉強してファンドマネジャー向けの専門書を執筆しましたが、もし1つの会社にずっと勤務していたら、そこまで勉強したかどうかはわかりませんね。2社目でこの仕事の基本を覚えた後、いくつかの金融機関に勤務し、ある会社で少しまとめて勉強する機会を得られました。この会社で勉強ができたことが、後の仕事のベースになっています。

UFDホールディングス株式会社 代表取締役 奥井 規晶氏
「どうしても今の会社の上司が嫌いだから辞める」というネガティブな理由で転職を考えている人には「いちど冷静になって考えてごらん」とアドバイスしています。奥井氏

―― キャリア形成につながるポジティブな動機から転職する人がいる一方で、現在の勤務先に不満だから会社を移りたいというネガティブな動機から転職する人もいますね。

奥井 私はポジティブな動機から転職するならどんどん勧めるんですが、「どうしても今の会社の上司が嫌いだから辞める」というネガティブな理由で転職を考えている人には「いちど冷静になって考えてごらん」とアドバイスしています。転職した会社にも、嫌なやつは必ず1人や2人いると思ったほうがいいですよ。

山崎 私はネガティブな理由であっても転職すればいいと思います。「今の勤務先は嫌だ」というのも1つの動機としてカウントすればいいのではないでしょうか。ネガティブかポジティブかというのは主観的な問題です。結果として、例えば40点の会社から50点のところに移れるのなら移ればいい。そこはドライに考えていいと思います。

 転職を考えるときは、その会社に限界を感じているとか、人間関係に苦労しているとか、何らかの原因 があるはずです。それなら、問題を解決する手段として転職を使うことも、事態が改善するのであればいいのではないでしょうか。

奥井 もちろん、私もネガティブな転職をすべて否定するわけではありませんが、逃げる前に「なぜだめだったか」をよく考えるべきだと思いますね。その結果、「自分はエンジニアに合わない。営業職に向いている」とか「IT業界ではなく、金融界で働きたい」という結論に達したら、転職すればいいのです。

 転職を考える前に、今の職場で全力でぶつかったかどうか振り返ってみるべきでしょう。やるべきことをやった上で転職するなら大いに賛成ですが、今の職場でやるべきことがあるのにやらず、単なる現実逃避の手段としての転職には賛成しません。しかし、そんな人が少なくありません。中には、次の就職先が決まっていないのに逃げるために勤務先に辞表を出す人もいます。

山崎 転職の基本は「猿の枝渡り」と私は思うんです。猿は次の枝をつかんでから今つかんでいる枝を離し、枝渡りをします。転職でも、次の会社への入社が確実になってから、現在勤務している会社に退職の意思を伝えるべきです。そうしないと、会社を辞めて仕事をしていない期間に自分の価値はどんどん落ちます。

 転職する際の年収の交渉でも不利になることがあります。会社に勤務しているのなら、そこでの年収を基準に収入が決まりますが、いったん会社から離れてしまうと相手の言い値になってしまいます。収入面だけではありません。キャリアに空白期間ができるというマイナスもありますし、精神的なプレッシャーを受けて気が滅入ってきます。

―― ほかにアドバイスはありませんか。

山崎 少しでも転職を考えているのなら、人材紹介会社やヘッドハンターに接触し、マーケットの様子を聞いてみないと始まりません。ネットで調べればかなりのことはわかりますが、それでも調べきれないことはあります。とりあえず話を聞きに行くという気持ちで会って相談してみればいいと思います。それと、できれば同じ業界の他社で働いている人との関係は大切にしたほうがいいでしょう。同じ会社の中だけで飲みに行ったりしていると、やはり世界は開けてきません。

奥井 人間ドックを受けるような気持ちで人材紹介会社やヘッドハンターに会えばいいでしょう。初めて転職しようとする人の場合、自分の価値がわかりませんが、ヘッドハンターに尋ねれば、教えてくれます。自分の実力が客観的にわかってくるので、その上で判断すべきでしょう。大企業にいるから評価を受けているのに、それに気付かず、自分は実力があると勘違いしている人がいます。それでは転職に失敗します。自分の価値を正しく把握しておくことが転職の大前提です。

―― 年収アップを狙って転職する人も少なくありませんね。

山崎 仕事に費やす時間は長いですから、転職先を決める条件のうち最も大切なのは仕事に関するものになります。仕事が快適にできそうもない会社や、意に添わない仕事をしなければならない会社であれば、高い年収を提示されても避けたほうが賢明でしょう。

 収入が不足していれば、別のことをして稼いでもいいのではないかと思います。もっとも、若い頃に副業ができる人や、ほかから収入を得られる人は少ないかもしれませんが、若い頃に仕事を覚えておけば、後で年収を増やす手段は結構あります。

 金銭的条件に関しては、後から納得できないことが見つかると、仕事の意欲に悪影響を及ぼすので、給与やボーナス、年金などについて念入りに確認しておくべきですが、転職ではやはり仕事の内容がいちばん大切です。

奥井 私も年収アップを求めた転職にあまり賛成しません。20歳代の頃の転職では、あまり年収にこだわらないほうがいいと思います。20歳代の頃は、年収にそんなに差はありません。エンジニアからコンサルタントになるというように職種転換したら話は別ですが、同じ職種であれば400万円の年収が500万円になるとか、その程度の差でしょう。

 転職活動中、受け入れるというオファーをいくつかの会社からもらうとどこに入社するか最終決定しなければいけませんが、結果として私はいつも年収が少ないところに入社していました。年収ではなく、仕事で選んだからそうなったわけですが、今から思うと正解でした。


山崎 元(やまざき・はじめ)氏
1958年北海道生まれ。81年に東京大学経済学部卒業。三菱商事に入社後、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券、UFJ総研などを経て、2005年楽天証券経済研究所客員研究員に。転職は12回。著書に「年金運用の実際知識」(東洋経済新報社)や「転職哲学」(かんき出版)などがある。「日経ビジネスアソシエ」に連載中
奥井 規晶(おくい・のりあき)氏
1959年神奈川県生まれ。84年に早稲田大学理工学部大学院修士課程修了。日本IBMに入社後、ボストン・コンサルティング・グループに転職。その後、シー・クエンシャル社代表取締役、ベリングポイント代表取締役などを経て2004 年4月に独立。UFDホールディングスを設立し社長に。「日経SYSTEMS」に連載中