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 第55回第56回第57回と,KDDIで起きた個人情報漏えい事件について取り上げてきた。

 2006年9月13日,警視庁捜査1課と麹町署は,すでに恐喝未遂で逮捕された2人とは別に,KDDIの協力会社の元社員ら2人を著作権法違反容疑で書類送検した。これを受けてKDDIは,4役員の報酬返上などを含む社内処分を発表した(「お客様情報流出の調査結果及び社内処分について」参照)。同社に限らず,顧客の個人情報管理と退職者を含めた従業者や外部委託先社員の個人情報管理との連携,紙や電子ファイルを含めた文書管理のあり方など,情報システム部門の領域を越えた問題が噴出しており,コーポレート・ガバナンス(企業統治)や内部統制における経営トップのリーダーシップが欠かせない時代になっている。

 さて今回は,商品リコールなど消費者安全対策と個人情報の関わりの観点から考えてみたい。本連載では,第6回第24回第25回第26回第27回でも取り上げているので参考にしていただきたい。


松下電器温風機リコール事件の教訓

 リコールで忘れてならないのは,2005年末に起きた松下電器の温風機事件である(「松下電器産業株式会社に対する消費生活用製品安全法第82条に基づく緊急命令について」参照)。この事件を通じて改めてわかったのは,個人情報の有益性だ。10年以上前に販売された製品の所有者を捜し当てて回収することは容易でなく,松下電器は対象製品の回収活動を現在も継続中である(「20年~14年前(1985年~1992年製)のナショナルFF式石油暖房機を探しています」参照)。車検制度などを通じてディーラーがユーザーをフォローしている自動車や,直販主体でメーカーがユーザーの個人情報を把握しているノート・パソコンのリコールに比べると,該当者に接触するまでの時間,労力,費用が膨大にかかっている。

 生涯顧客価値向上を目的としたマーケティング活動を前提として,顧客情報管理に取り組んでいる企業の場合,個人情報ライフサイクルの長い顧客情報ほど資産価値が高まっていく。とりあえず顧客から情報を集め,後付で利用方法を考えるのではなく,最初から顧客情報を資産として有効活用できる仕組みを構築することが必要だ。そうしなければ,個人情報が集まれば集まるほど,情報漏えいのリスク要因が拡大するだけである。

 また,リコール社告で個人情報管理に触れるのが当たり前になった。メーカーと販売店間における購入者情報の提供など,「過剰反応」を生みがちな製品リコール時の個人情報の取り扱いについても,この事件を契機に広く認識されるようになった(「「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」等に関するQ&A」の番号49参照)。温風機リコール事件への松下電器の対応を教訓に,消費者安全対策や緊急時の個人情報管理体制を見直した企業は多いはずだ。


製品リコールを左右する顧客情報の価値

 今年の夏,新聞報道で大きく取り上げられた問題に,パロマ工業製ガス瞬間湯わかし器による一酸化炭素中毒事故がある。2006年7月14日,経済産業省は,この問題を公表(「パロマ工業(株)製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故の再発防止について」参照)。8月28日には,パロマ工業に対し,消費生活用製品安全法に基づく対象製品の緊急命令を出した(「製品安全対策に係る総点検結果のとりまとめについて」参照)。緊急命令は,上記の松下電器に次いで2例目である。

 パロマ工業の場合,リコール対象機種は1980~89年に製造されたものだ。松下電器と同様に難作業が想定されるが,「不正改造」をめぐる問題などで,販売店との連携が後手に回った感は否めない。非上場企業であっても,要求されるコンプライアンス(法令遵守)のレベルは変わらないはずだ。一般消費者から松下電器とリアルタイムで比較されていることを,経営トップは認識しているのだろうか。

 製品事故が相次ぐ中,日本の「ものづくり」の真価が問われている。9月12日にはキヤノンが,1987年から1997年にかけて製造・販売された小型複写機約14万台に発煙・発火の恐れがあるとして製品リコールを発表した(「キヤノン製小型複写機「PC7」,「PC80」および「PC100」をご使用のお客さまへ」参照)。報道によると,国内では,連絡先が判明している顧客に電話で修理を申し入れるほか,新聞紙上で不具合を通知するという。顧客情報をITできちんと管理していれば対策費用は抑えられるはずだが,キヤノンのケースはどうだろうか。

 次回は,筆者が実際に遭遇した製品リコールを事例に考えてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/