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 「部下に目を光らせるべき部長がなぜ」「できる営業だから信頼していたのに」――。
 今年に入り、IT サービス業界を揺るがした架空取引事件。関係者に衝撃を与えたのは、金額の大きさだけでなく、部長職や優秀とされた社員が不正に手を染めたことだった。
 ソリューション営業に脚光が当たり、「提案から見積もり、仕入れの手配までこなせて、一人前の営業」という風潮は強まった。しかし「現場まかせ」「管理が弱い」というITサービス業界の“個人商店”的な体質が、結果的には不正の温床になった。
 突然に表面化する不採算案件なども問題の根は同じだ。今こそ、システムで営業の現場を規律する、内部統制を整備すべき時だ。内部統制に取り組むことで、不正に負けない営業、利益を守る営業を作れる。その成果は、日本版SOX法を実践する立場、ソリューションを提供する立場としても生きてくるはずだ。



 富士ソフトが、今春からSI 部門の管理強化に乗り出した。特に強い“締め付け”を受けているのが営業だ。業務フローを洗い出し、見積もりや受注、仕入れといったフェーズごとに、上司や第三者による何重ものチェックを経る仕組みを取り入れたからだ。

 「見積もり作成が遅れ、商談に支障をきたしている」「業務負担が膨れ上がり、もう限界だ」。営業サイドからはこんな悲鳴が上がっているという。

 しかし、本社機能を統括する生嶋滋実常務は「不満を承知で、あえて振り子を“徹底管理”に振った」と意に介さない。「SI の採算向上を達成するには、必要な通過点だ。顧客選別の方針にもかなう」と語る。効果と代償を見極め、管理強化が行きすぎた部分は今年下期に見直すつもりだ。しかし、「SIをガラス張りにする」という基本方針は揺るがない。

 こうした“ショック療法”の狙いは、「経営改革への意思を現場に轟かせ、不採算案件を早急に撲滅させる」(野澤宏会長兼社長)ことにある。そして、「今回の取り組みは現場による不正防止にも効果がある」と生嶋常務は語る。問題の根は同じところにあるからだ。

「何でもこなせて一人前の営業」

 会計基準への抵触も含めて、唐突に決算を修正するIT サービス企業が後を絶たない。2006 年には、日本システムウエア(NSW)やネクストウェアなどを舞台にした架空取引事件が相次いで発覚し、業界は揺れた。

 メディア・リンクスのような、ベンチャー経営者による粉飾決算が問題になった過去の事件に対して、最近の事件は、現場の社員が不正を主導していた点が特徴だ。

 NSW の事件で、架空取引に手を染めたとされるのは若手社員。今となっては盲点だったが、「上司が信頼を置いていた『できる営業』だった」(田代昭臣常務)。一方、ネクストウェアの架空取引事件で容疑を持たれている元社員は、他社での実績を引っ提げて事業部長に迎え入れられた「凄腕」だった。

 こうした不正の背景として、業界の環境変化を指摘する声もある。一部ベンチャーの粉飾決算は、2002 年ころからのIT 不況期に、右肩上がりの業績を演出しようとした経営者の主導で行われていた。 それが、ここに来て現場の不正が相次いだ。「IT 不況期から強まった自主営業の強化も遠因ではないか」とある関係者は指摘する。元請けや親会社などに依存せずに独自で顧客を開拓する。あるいは自社製品の販売にこだわらず、商社的な役割であっても積極果敢に顧客を開拓する。こうした営業スタイルを強化した結果、IT営業の役割と裁量は拡大し「見積もりから仕入れ、協力会社の手配までこなせて一人前」(NSWの田代常務)という風潮が強まった。売り上げのプレッシャーが強まる中、営業の権限が拡大するアンバランスな状況が強まっていたわけだ。

現場まかせから決別する

 企業としての未熟さも問題の背景にある。つまり、企業としての管理体制がまるっきりできていないのだ。簡単に不正ができてしまったり、なかなか発覚しなかったりするから、「自主営業の強化」といった現場に強いプレッシャーがかかった際に、不正への誘因が働いてしまう。

 大塚商会経営企画室の金子修一次長は「(不正を)やろうと思えばできてしまう状況こそが、社員にとって不幸だ」と言い切る。「現場の反発は当然ある。しかし不正やあいまいさを許さない仕組みを作ってこそ、社員のためだ」(金子次長)。つまり、現場と案件を「ガラス張り化」する、内部統制システムの導入である。

 大塚商会も、かつては「現場まかせ」「管理の仕組みが弱い」といった“個人商店”の体質を引きずってきた。しかし、2000 年の株式上場に向けて、90 年代後半から、不正やあいまいさを排する内部統制の強化に乗り出した。真っ先に着手したのが、業務フローを統一し現場をガラス張り化すること。そして「営業が兼ねていた役割を、徹底して分けていくこと」(金子次長)だった。

 実は、不採算プロジェクトの問題も根っこは同じだ。誰も取りに行かない危ない案件を平気で受注したり、コストをほかの案件に付け替えるといった粉飾が行われていたりするのも、内部統制の未熟さゆえからだ。IT サービス業界にとって、現場の不正と不採算案件は、同じコインの“裏表”ととらえて取り組むべき課題である。

J-SOX 商談のノウハウにする

 IT サービス業界が、内部統制に取り組むべき理由はほかにもある。実は、業務フローや商談進ちょくのガラス張り化は、営業の強化にもつながるのだ。

 ガラス張り化を実践した大塚商会は、SFA(セールス・フォース・オートメーション)を活用し、顧客のニーズや商談の進ちょくを全社で共有する。こうした営業プロセスの“見える化”は、営業同士の牽制にとどまらない。「事務機担当の営業が聞き出した顧客のシステム化ニーズを、別の営業が提案に生かす」といった組織営業の原動力にもなっており、顧客満足度やリピート率を高める成果を上げている。

 今年5月には内部統制への取り組みを求めた会社法が施行。2008年度(2009年3月期)からは上場企業に内部統制の強化を義務付けた「日本版SOX法」も導入される。 IT営業の現場から不正や会計上のあいまいさを排する仕組み作りは、ほぼ日本版SOX法などへの対応につながる。顧客に内部統制ソリューションを提供する立場としても、実践した経験が顧客に伝えられるノウハウになるわけだ。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年9月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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