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 経済産業省が、受託開発などのソフト会社の開発力を評価し、格付けする方向に動き始めた。基になっているのは産業構造審議会情報経済分科会が06年6月にまとめた「情報サービス・ソフトウェア産業維新」。東京証券取引所をはじめとする複数の企業・団体で、情報システムにまつわる事故が多発したことが背景にある。経産省は信頼を失いつつあるソフト会社の状況を懸念し、その打開策の1つとして開発力を測定・評価することにしたようだ。

 ソフト開発はいまだ「人・月」の世界である。日本のソフト会社がここにとどまっていれば、中国やインドの企業と価格競争にさらされるのは間違いない。既に、そうした影響は出始めており、一刻も早く人・月からの脱却を図って別の世界、つまり新たなサービスで勝負することを考えているソフト会社も出てきている。経産省の「情報サービス・ソフトウェア維新」でも、「情報サービス産業からソリューションプロバイダ産業へ」「ソフトウエア産業からプラットフォームプロバイダ産業へ」の変革期にあると述べるなど、まさに転換期にある。

 ところが経産省は、信頼性や人材スキルを開発力の指標として測定することで、ソフト会社の企業力まで可視化しようとしている。これを可視化できればユーザー企業との取引も透明化でき、さらには政府調達のメジャーとしても使えると考えているようだ。

 ソフト開発もモノ作りだから、信頼性や技術力を何とか数値で測ろうとする理由は理解できる。ユーザー企業はシステム化の費用を安くしたいし、ソフト会社は早く安く仕上げたいと思っている。このため、何らかのモノサシが必要になるわけだ。

 実際、これまで予算超過や期限の延長などで不採算案件を抱えて赤字に転落したソフト会社は少なくない。一般に売り上げの2%程度がプロジェクト管理に割かれていると言われる。つまりプロジェクトの進捗を改善できれば利益率が2%向上するため、各社はプロジェクト管理を徹底化してきた。

 しかし、ソフト産業が単なるモノ作りからサービスを提供する時代へと転換期にある今、従来のモノ作りの評価指標を適用する意味がどこにあるのだろうか。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)をはじめ、オンデマンドでアプリケーションを提供する時代が既に始まっており、ユーザー企業もITインフラを自ら「所有」するのではなく、「利用」するようになっている。ユーザー企業のスタンスは、今までと大きく異なるのだ

 こうした時代の動きに呼応するように、既に欧米のソフト会社はソフト開発からサービス提供型へと軸足を移している。例えば、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ソフトをASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスで提供する米セールスフォース・ドットコム、航空・旅行会社向けに特化して様々なサービスを提供するスペインのアマデウスはその代表例だろう。両社のビジネスモデルに共通しているのは「システム構築に何カ月、何人月かかるので、開発コストは数億円になる」という算出方法ではないこと。自らが開発したユーザー企業向けのアプリケーションをネットワークを介して提供し、課金もユーザー企業の利用者数や使用量などで異なる。

 ユーザー企業が求めているのは、モノ作りの技術力ではない。必要なアプリケーションをすぐに使えることだ。そうならば適用すべき評価指標は、サービスの提供力やサービスの土台であるITインフラの部分になるはずだ。

 もちろんシステム化でモノ作りがなくなることはない。不明確なユーザー企業の要求仕様を固め、欲しいものをうまく仕立てる能力も、ソフト会社には求められている。だが、もし“ソフト産業維新”の実現を本当に願っているなら、サービス産業への転換を促すような評価指標や施策を、もっと打ち出すべきではないだろうか。