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川田 達男氏 セーレン代表取締役社長

 今、繊維産業は世界の工場である中国に席巻されている。また、高級ブランドは欧州勢に追われ、繊維産業イコール空洞化産業、斜陽産業と言われている。繊維産業はかつての英国のように壊滅的になるのだろうか。私はそのようにしてはならないと思う。ITを戦略的に活用し、繊維産業を21世の成長産業、先端産業にすることに挑戦したい。

 セーレンは明治22年に創業し、今年で118年目を迎える古い会社である。事業は、繊維製品の企画・製造・販売。従業員が5000人、売り上げが1000億円強、国内に17社、海外に8社の関連企業を持つ。売上高は1972年度に124億円だったが、87年度に504億円、05年度は1013億円だ。従業員も72年度の2900人から05年度は5000人規模へと増えている。

 71年にニクソンショックがあるまでの繊維産業は日本の基幹産業であった。71年に繊維産業にとって最大の市場だった米国で規制が始まった。続いて、73年に第1次オイルショック、76年に第2次オイルショック、85年にプラザ合意という流れの中で繊維産業が斜陽化していった。

現在の売上高の90%を占めるのは新規事業

 このままではセーレンは生き残ることができないとニュービジネスを立ち上げた。72年からの逆風環境の中で、ニュービジネスの拡大を図り、増収・増益を達成。現在は、売り上げの90%を占める。

 ニュービジネスを立ち上げるに当たって私は、第1にITを活用することによって、繊維産業の常識であった非常に複雑な流通構造に対して、自分で企画し、自分で糸を作り、自分で糸を織り、自分で編み、自分で染色し、自分で縫製し、自分の手でダイレクトにユーザーに販売していく垂直統合を柱として取り組んできた。第2に繊維技術を非衣料、非繊維に拡大させることも進めた。第3にグローバル化を推進した。第4に従来の常識あるいは社員の意識を変えることをニュービジネスの柱とし企業革命を断行してきた。現在、IT戦略を基本として、自動車やハウジング、バイオメディカル、エレクトロニクスなど多角的な事業が育っている。

 これまで繊維産業は、感性の世界、アナログの世界であった。特にデザインはまさに感性の世界である。当社は、情報技術をそういうところに取り入れて、社内外から批判を受けた。感性というアナログをデジタル化することは不可能だと言われたものだ。

 当社は、19年前にデザインや色の数値化、デジタル化をスタートさせた。我々が思った以上に、コンピュータ技術やネットワーク技術が非常なスピードで進歩したことを享受し、セーレンが世界で初めて繊維産業というアナログをデジタル化するビジネスモデルを確立し成功を納めている。

糸作りから内製ですべての工程をViscotecsで

 そのビジネスモデルの基盤となっているのが、Viscotecs(Visual Communication Technology System)である。ViscotecsはCADとCAMを採用している。CADでテキスタイルとアパレル、パーソナルオーダーの企画を行い、そのデータをCAMに送り、CAMで生産している。

図●Viscotecsを核にしたSCMシステム
図●Viscotecsを核にしたSCMシステム

 CADやCAMのソフト、ネットワークはすべてセーレンで開発している。昨年7月にカネボウの糸製造部門を買収したことにより、原糸メーカーとしての機能を当社に取り入れることができ、繊維の企画・生産・販売のすべての工程を内製化している。そこに当社のITであるViscotecsを組み込んでいる。

 Viscotecsは繊維業界の常識を変えた。これまで繊維に表現できる色は10色から20色だったが、コンピュータに色を入れることによって1677万色を表現することが可能となった。布地の上に表現できないものはなくなっている。また、これまでの経済ロットは2000mだったが、1mでも1着でも2000mより低コストで生産できるようになった。そして、1年がかりで生産していたものが、時間単位で作れるようになった。生産に使用する水やエネルギーなどの資源は20分の1に減少。3Kの職場もホテルのような職場に変わった。

 当社は、セーレンのブランドで商品を販売している。在庫は店舗にあるものだけで、売れた商品の情報はすべての工程に一元的に送られ、売れたものを生産する在庫レスを可能とした。インフラの問題もあり、そのリードタイムは3日から2週間かかっている。現在、1週間でものを作るための施策に取り組んでいる。

本当のIT時代はギガビットの5~6年後に始まる

 当社はダイレクト販売も展開している。1つはオンラインショップである。私どもが考えている以上にオンネット販売が急増している。また、直営店での販売も行っている。

 当社は、最終的にViscotecsを使ってカスタムオーダーを目指している。具体的な取り組みとして、水着売り場にCADを持ち込んで200万着のバーチャル在庫から好みのアイテムや色を選んでもらい発注し、最短3日、最長2週間以内に届けている。現在、デパートでは現物からだが、将来はバーチャル在庫から買っていただくようになる。そのためには、情報が毎秒メガビットからギガビットで流せることが必要であり、実現までに5~6年かかると思う。それを目指して試験販売しているところである。

 現在、当社はViscotecsというシステムをアメリカとタイ、中国、ベルギーに持っている。企画はオンネットで行い、日本でボタンを押すとアメリカの機械が動く。あるいはアメリカでボタンを押すとベルギーの機械が動くようになっている。ギガビットの時代になれば、日本でボタンを押せば「あなただけのもの」をニューヨークでもロンドンでも供給できるようになる。それによって、顧客満足100%を提供できるようになる。

 Viscotecsは衣料以外にも応用している。ドイツで行われたサッカーのワールドカップに使用された32カ国の国旗はすべてViscotecsで作ったものである。また、自動車メーカーとオンネットでバスの外装に合わせた内装をパソコン画面で選択してもらうこともしている。すると、内装を試作レスで自由自在に選ぶことができる。東京ドームやナゴヤドームの看板もすべてViscotecsで製造している。

 私は、ITというインフラも含めて、今は本当のIT時代ではないと思っている。本当のIT時代は5~6年後に始まる。そこを目指して繊維産業を成長産業、あるいは先端産業、未来産業として育てていきたい。