PR

 現在のITは,「10年前の使い方」と何が変わったのか。「物事の本質は,最も身近なところに必ず表れる」という真理からすれば,中堅・中小企業のIT化は停滞したままだ。誤解を恐れずに言えば,本質的な変化は見られない。

 ITのプラットフォームはオフコンからサーバーへ,クライアント/サーバーからWebコンピューティングへと進歩した。ハードウエアのスペックも,10年前と比較すると格段の進歩で,同じスペックのハードウエアなら5分の1程度まで価格が下がっている。「箱」や「インフラ」に注目すると,驚くほど高機能,高性能,高集積化しており,ユーザーにとっては導入しやすい環境になっている。本連載の第1回でも解説したように,サーバー市場は2004年まで続いた停滞期を過ぎて,再び増勢モードに入っている。

 ここで今まで連載内容を振り返ってみると,1つの事実に気付く。コンピュータは最も気軽で便利なコミュニケーションの手段であり,情報集積するのに適したツールであることは間違いない。つまり「情報を集め,集計・分析する,発信する,受信する,これを繰り返す」という,便利な装備品になった。コンピュータ・リテラシの高まりもある。世代交代も進み,コンピュータが前提のビジネス環境となっていることに異論を唱えるものはいない。

 しかし,その一方で「ITは企業経営にどう役立っているのか? 売上高アップにはどの程度貢献している? 経費はどれくらい削減できた?」などのソリューションとして見ると,IT化は驚くほど進んでいないのが実情だ。

ベンダーは手離れの良さを優先

 その背景にあるのが,中堅・中小企業向け商談へのベンダーの「手離れの良い売り方を最優先する」という基本方針だ。大企業や大規模案件にかけるような営業・開発コストは,中堅・中小企業の小規模案件にはかけられない。このため,中堅・中小企業向け商談はベンダー直販ではなく,販売代理店などの販売チャネルが対応する。しかし,肝心の販売チャネルも,同じコストを掛けるなら割の良い大規模案件に注力する。

 結果として,中堅・中小企業は低価格・ハイスペックの「IT新製品」を購入するだけで,IT化にともなう付加価値を享受できないでいる。ベンダーは,中堅・中小企業向けのIT化やソリューションを説いているが,その実態はほとんど「カラ証文」のようなメッセージが日々流されているに過ぎない。こういった現実を目の当たりにすると,やはり中堅・中小企業のIT化を悲観的に見ざるを得ない。

図
図1●ITインフラの価格は下がったが付加価値は低いまま

 中堅・中小企業の多くは,このような状況下においても,ベンダーに対して比較的好意的である。評価は甘いと言っても良いくらいだ。しかし真意はどうなのか? ひょっとしたら,「どうせ本当に経営戦略に役立つITをベンダー,販売店になんか期待できない」という空気があるのではないだろうか。筆者が不定期に行っている中堅・中小企業に対するグループ・インタビューでも,「ベンダーや販売店から,少なくとも経営的な観点での提案はほとんどない。IT製品の“物売り”として営業に来るだけで,その製品がこちらの希望に合わなければそれっきり」というケースがほとんどだという。

 中堅・中小企業ユーザー自身は,戦略的なIT活用に決してネガティブではない。だが,中堅・中小企業が進みたい戦略的ITへの道を,ベンダー/販売店が提案,啓蒙してくれないのだ。この調査を実施してきた7年の間,戦略的ITと言われていた「SCM」「CRM」「SFA」「CTI」の導入率はずっと1割に満たなかった。しかも,関心は低下する傾向にある。「SOA,SaaS,JSOXなどなど」のバズワードばかりが日々粗製濫造される。それが中堅・中小企業にとってどの程度意味を持っているのか,はなはだ疑問だ。ベンダー/販売店には,是非とも「経営に役立つIT」というもっともシンプルな命題を,見える形で提案してもらいたい。

 今回で「2006年 データで見る中堅・中小企業のIT導入実態」の連載は終了となります。この連載は弊社の調査レポートである「2006年版 中堅・中小企業のIT/ソリューションの実態と展望」が元になっています。ご興味のある方はアクセスして下さい。なお11月からは新連載として「中堅・中小企業のITアプリケーションの利用実態と評価」を開始します。

 なお,調査の概要をご覧になりたい場合は,第1回をご参照下さい。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノーク・リサーチ代表。矢野経済研究所を経て1998年に独立し,ノーク・リサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意とする。