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 この9月14日,経済産業省の産業構造審議会 情報経済分科会 情報サービス・ソフトウェア小委員会が「情報サービス・ソフトウェア産業維新~魅力ある情報サービス・ソフトウェア産業の実現に向けて~」というタイトルの報告書をまとめた。6月13日に報告書案をWebで公開し,そこへ寄せられた意見を反映したものだ。

 この報告書は,受託開発が中心の「情報サービス産業」と,パッケージなどソフトウエア製品を開発する「ソフトウエア産業」の今後のあり方に関する提言をまとめたもの。1993年に産業構造審議会 情報産業部会 基本政策小委員会が公表した「ソフトウェア新時代」以来,13年ぶりの本格的な報告書となる。

 報告書では「多重下請け構造,人月工数主義という旧態依然としたビジネスモデルは許されない,国際競争に勝ち抜くためにも改革が待ったなし」としたうえで,1.透明で価値創造型の産業構造・市場の創造,2.国際競争に打ち克つイノベーションの促進,3.高レベル人材の育成--の3つを最優先課題と位置付け,多くの解決策を提示している。
 
 解決策の1つは,モデル契約・契約プロセスの策定だ。これについては,2006年6月に経済産業省が公表した「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」に基づくモデル契約書を,JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)やJISA(情報サービス産業協会),JEITA(電子情報技術産業協会)などが作成中である。

 このモデル契約書は,マルチベンダー/分割発注を前提とした,ユーザーとベンダーが共通して利用できるものになる予定だ。要件定義・運用テストフェーズにおけるユーザー責任や仕様変更の手続き,知財の帰属,パッケージやOSS(オープンソース・ソフトウエア)の取り扱いなども明確化する。モデル契約書は,2007年3月末までに策定される。


システムの信頼性実現レベルを診断可能に

 ソフトウエア産業が抱える課題に対するもう1つの解決策が,情報システムの「価値」を定量化する指標の策定である。これは,情報システムの価値に関係なく人月工数ベースで契約する“悪習”の改革が狙い。具体的には「信頼性評価指標」「スキル評価ガイドライン」「IT投資価値評価ガイドライン」を整備する,としている。

 このうち「信頼性評価指標」は,経済産業省の「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」(以下信頼性ガイドライン)をベースに作成する。信頼性ガイドラインは,企業情報システムを(A)重要インフラ,(B)企業基幹システム,(C)その他のシステムの3つに分類したうえで,A,B,Cのそれぞれについて,信頼性を向上させるためにユーザー企業とベンダーが実施すべき項目を定めている。実施する際に活用できる資格や標準規格なども明記している。
 
 ただし,信頼性ガイドラインで実施すべき項目の粒度は大きい。そこで,信頼性評価指標では,信頼性ガイドラインが定めた項目を,細かい質問レベルまでブレークダウンする。いわば信頼性・安全性を実現するための詳細な「チェックリスト」である。

 信頼性評価指標は,IPA(情報処理推進機構)内のSEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)が策定しており,ユーザー向け,ベンダー向け,組織向け,プロジェクト向けの質問群として具体化される。ベンダーにとっては信頼性ガイドラインへの取り組みをセルフチェックし,自社の取り組みをアピールするための営業ツールとして利用できる。一方,ユーザー企業はセルフチェックのほか,ベンダーを評価するための指標として利用できる。

 SECでは2006年12月までに信頼性評価指標の案を作り,2007年3月末までにWeb経由で利用できる診断システムとして公開する予定である。このWebサイトの質問に回答すれば,自社やプロジェクトの信頼性実現レベルが診断できるようになる。
 
 報告書ではこのほか,信頼性評価指標の次の段階として,主にベンダーを対象にした第三者機関による信頼性実現レベルの評価体制を整備する,としている。

 2つ目の「スキル評価ガイドライン」は,ITエンジニアの職種や要求されるスキルを体系化した「ITスキル標準」に基づいて,ITエンジニアのレベルを判定するための評価手法やツールなどを定めたもの。産業構造審議会 情報経済分科会に設置した「人材育成WG」で作成する予定だ。

 報告書では,スキル評価ガイドライン作成の次の段階として,企業に対して同ガイドラインの利用状況やレベル判定結果に応じてITエンジニアを適切に処遇しているかどうかを評価する第三者機関の設立を提言している。この第三者機関は,良好な評価を得た企業について,所属するITエンジニアにスキルレベル認定証を発行する。

 3つ目の「IT投資価値評価ガイドライン」は,文字通りIT投資の価値を評価するためのガイドライン。8月末に研究会が発足しており,現在は既存の評価手法を検討しているところだ。


“お上”毛嫌いせずに一読を

 「情報サービス・ソフトウェア産業維新」は,ソフトウエアに対する「公的規制」についても論じている。ご存じのように建築業界では,建築士が法令への適合確認を行うことを建築基準法が定めている。つまり「公的規制」が行われている。情報サービス産業でもこうした「公的規制」が必要との声は多い。
 
 報告書では「建築業界と情報サービス産業では多くの違いがあるため,建築業界と同様の規制は適当ではない」としている。だが,政府システムなどの重要インフラについては,企業を所管する個別の業法(業界ごとの法律)に,信頼性ガイドラインを参考にしながらシステムの信頼性・安全性という観点を適切に盛り込むべき,とした。

 建築士のようなITエンジニアの「資格化」についても,「情報処理技術者試験を資格化することは,情報システムに安全性・信頼性を与えることに貢献し得る」とし,業法による安全規制が導入される場合には,情報処理技術者試験を積極的に活用していくことが考えられる,と述べている。このほか,政府調達改革,実践的IT教育のためのカリキュラム構築,情報処理技術者試験の抜本的改革についても,具体的な提言を行っている。

 「情報サービス・ソフトウェア産業維新」は近日中に産業構造審議会のWebページに公開される予定だ。「お上の報告書なんて興味ない」と言わず,ぜひ一度読んでみることをお薦めしたい。少なくとも情報サービス産業やソフトウエア産業,ひいては自分が所属する企業やプロジェクトについて,今後どうあるべきかを考えるトリガーになる,と記者は考える。