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 米Appleが先日,「iTV」というセットトップ・ボックス(STB)の開発を表明しました。「iTunes Store」で購入した映画などの動画コンテンツをネットワーク経由でテレビに表示するための装置だそうです。ところで読者の皆さんは,2006年1月に「Appleが米Intelの『Viiv』規格に乗ってくる」という大外れの予測記事を書いた愚か者が「ITpro」にいたことをご記憶でしょうか・・・。

 私が,その愚か者本人です。2006年1月に開催されたMacworld Expo San Francisco 2006直前に「Jobs氏は明日「AppleViiv」を発表するだろう」という予測記事を書き,それが見事にはずれた上に,「Jobs氏の講演終了とともに膝から崩れ落ちる」という言い訳記事まで書いて,大変なお叱りを頂きました。その節は大変お騒がせいたしました。

 私の予測は,(1)Appleが映画などのHD(High Difinition)動画コンテンツ配信に参入する,(2)動画コンテンツの配信対象がリビング・ルームにあるテレビにも拡大する,(3)テレビへの動画配信のためにはテレビをネットワークに接続する「ホーム・ネットワーク」が不可欠,(4)Appleが独自にホーム・ネットワークを構築するのは困難なのでIntelのホーム・ネットワーク規格である「Viiv」に乗ってくる---というものでした。

アップル社員が「まだ諦めてませんから!」

 iTVの開発が表明された今となっては,(1)~(3)までの予測はあながち間違っていなかったと感じています。実は1月のサンフランシスコで大外しした直後にも,あるアップル社員の方は私に「まだ諦めていませんから!」と声をかけて下さっていました。私ではなくアップルの方が「諦めていない」と仰るのです。また別の社員(技術者)の方は,「次は『NAB』(米国で6月に開催される放送関連の展示会)に来て下さい。今度はご期待に添えると思います」と耳打ちしてくれました。

 私が「AppleがIntelの『Viiv』規格に乗ってくる」という予測記事を書いたきっかけは,直前に取材した「2006 International CES(Consumer Electronic Show)」でした。CES 2006では,Microsoft,Intel,Yahoo!,ソニー,Googleといった企業が,動画配信やホーム・ネットワークへの参入を表明しました。そこにAppleがいない違和感が,私に予測記事を書かせたのです。アップル社員の言葉を聞くうちに,自分の違和感が間違っていないことを確信しました。もしかしたら6月のNABの頃から,映画会社への「iTVの根回し」が本格化していたのかもしれません。

テレビ向け動画配信でも「垂直統合」を目指すのか?

 iTVの開発表明によって,Appleによるテレビ向け動画配信への参入は確実になりました。それでもまだ,iTVには大きな謎が隠されています。それは「iTVで再生できるのはiTunes Storeで購入したコンテンツだけなのか」という点と,「iTunes Storeで購入したコンテンツをテレビに映せるのはiTVだけなのか」という点です。言い換えるなら「Appleが独自にホーム・ネットワークを構築するのか」ということです。

 私は「Appleが独自にホーム・ネットワークを構築するのは困難」と考え,「他社の枠組みに乗るなら,『DTCP-IP』を採用するIntelのViivが妥当」という予測を立てました。ちなみに私はViiv規格のことを,「テレビ・パソコンの仕様」ではなく「ホーム・ネットワーク仕様」だと考えています。詳しくは「【CES2006】浮き彫りになったホーム・ネット戦国時代の構図,米AppleもIntelのViiv対応機発表か?」という解説記事をご覧下さい。

 もし,「iTVがiTunes専用のSTB」であり「iTunes Storeで購入したコンテンツはiTVでしかテレビに映せない」のであれば,AppleはiTVによって動画コンテンツの配信(iTunes Store)と管理(iTunes)から,パソコン以外での視聴(iPod/iTV)に至るまでのホーム・ネットワークの全てを,1社で垂直統合的に構築すること目指していることになります。他社のホーム・ネットワーク仕様と比較すると,それがいかに「野心的」かが分かります()。

表●各社のコンテンツ配信,ホーム・AVサーバー,ホーム・AVネットワーク,ホーム・AVネットワーク・クライアントの違い

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Appleの強みはユーザー体験を軸にした垂直統合

 Appleが垂直統合を目指す背景には,iPodの成功があるでしょう。iPodの勝因は,音楽配信サービスの「iTunes Music Store」(現在はiTunes Store)と音楽管理ソフトの「iTunes」,携帯音楽プレーヤの「iPod」を提供することで,「音楽を調達して,管理して,外に持ち出して,聞く」という一連のユーザー体験(User Experience)を統合したことにあります。個別の製品/サービスだけでなく,一連のユーザー体験が他社よりも優れていたことが,iPodの成功に繋がったのです。

 他社の枠組みに乗った場合,ユーザー体験のコントロールは不可能になります。「Windows Media Player」を使ってiTunes/iPodと同じことを目指しても使い勝手が悪いのは,音楽配信事業者と管理ソフト・ベンダー(Microsoft),携帯音楽プレーヤ・メーカーがバラバラだからです。だからこそ,Microsoftは「Zune」を始めたわけです(関連記事「音楽配信はハードウエアと抱き合わせるしかないのか?」参照)。

 現在のところ,AppleがiTVで垂直統合を目指しているかは分かりません。それが明らかになるのは,2007年1月8日からの週になるでしょう。実は「2007 International CES」(米国ラスベガス)と「Macworld Expo San Francisco 2007」(米国サンフランシスコ)は,1月8日に同時に開幕するのです。ITproでも今年に引き続き「2007 International CES」を取材する予定ですので(Macworld Expoは未定),ご期待ください。