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  写真1 「スーパーボーナス」のテスト販売を,一部店舗で8月から先行
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  写真1 「スーパーボーナス」のテスト販売を,一部店舗で8月から先行
  図1 従来の販売インセンティブによる販売方法と,「スーパーボーナス」による販売方法の違い  (クリックすると画面を拡大)
  図1 従来の販売インセンティブによる販売方法と,「スーパーボーナス」による販売方法の違い

 ソフトバンクモバイルはボーダフォン時代の9月1日,「スーパーボーナス」と呼ぶ新販売手法を導入した(関連記事)。既に一部店舗が8月から試験導入していた「ボーダフォン特別契約」(写真1)をほぼ引き継いで正式サービスとしたものだ。このスーパーボーナスが携帯電話業界に大きな波紋を投じた。

 商社系のある大手販売代理店幹部はスーパーボーナス導入をきっかけに,「代理店を外して(ソフトバンクモバイルは)量販店などとダイレクトにビジネスすることが多くなるのでは」と“中抜き”が進むことを危惧する。

 こうした波紋が広がるのは,携帯電話業界がこれまで続けてきた「販売奨励金」(インセンティブ)モデルとスーパーボーナスの構造が根本的に異なるためだ。インセンティブ・モデルでは携帯電話事業者が販売代理店に対して,端末価格を割り引くための奨励金を一括で支払う。それがスーパーボーナスでは,いったんユーザーに分割払いで端末を販売し,ソフトバンクモバイルがその月々の分割払いに相当する金額を毎月ユーザーに対して直接支払う(図1)。ユーザーの支払い額はこれまでのインセンティブ・モデルとほとんど変わりはないが,奨励金が中間業者を経由しない分中間業者の役割が薄れる。先の販売代理店幹部が“中抜き”を警戒するゆえんだ。

長期ユーザーを優遇し,キャッシュ・フローも改善

 ソフトバンクモバイルが販売代理店を警戒させてまで,現行のインセンティブ・モデルを踏み越えたのは,
(1)短期間で端末を買い替えるユーザーが得をする問題点の解消
(2)ソフトバンクモバイル自身のキャッシュ・フロー改善
の二つの理由が見え隠れする。

 「ほんの数カ月で事業者や端末を乗り換える人が多くなると,(インセンティブを支払って端末価格を下げている)現在の携帯電話会社のビジネスはすさんでしまう。一方でこれまでの販売モデルは長く使ってもらっているユーザーには料金は高かった」と孫正義・代表執行役社長は断言。スーパーボーナス導入の目的は,短期間で端末を買い替えるユーザーが得をする構図を是正するものであるとした。

 インセンティブの原資はユーザーが通信事業者に支払う月々の通信料である。すぐに端末を買い替えるユーザーも,長期ユーザーも通信料は同額だ(基本料の割引などはある)。そのため,短期買い替えユーザーの販売インセンティブを,長期契約ユーザーが負担している構造になっている。解約して事業者を変えても電話番号が引き継げるモバイル番号ポータビリティが始まれば,この問題は一段と顕著になる。

 野村総合研究所 情報・通信コンサルティング一部グループマネージャーの北俊一・上級コンサルタントは,「この不公平感をある程度解消できる手法かもしれない」とスーパーボーナスへの期待を語る。スーパーボーナスは,長期間同じ端末を使い続けるユーザーに対しては,月々の割賦支払い分をソフトバンクモバイルに負担してもらえる。だが,割賦期間の終了前に短期間で解約したり機種変更するユーザーは,割賦の残金をユーザー自身が負担しなければならないからだ。

 その一方で,「ソフトバンクモバイルにとって,スーパーボーナスはキャッシュ・フローの改善策」との指摘も多い。例えば販売インセンティブ・モデルでは,先に一括して割引分を携帯電話事業者が支払う。だがスーパーボーナスは,ソフトバンクモバイルがインセンティブを分割後払いしているようなものだ。ユーザーが端末を購入する時点のソフトバンクの支払い額は,後者の方が圧倒的に少ない。その結果「ユーザー獲得時のキャッシュ・フローは,売り切りの販売インセンティブ・モデルよりも改善するはず」(UBS証券 株式調査部アソシエイトディレクターの高橋圭・アナリスト)。

 ただしこのスーパーボーナスは苦肉の策とも言える。UBS証券 株式調査部マネージングディレクターの乾牧夫・シニアアナリストは,「財務的に行き詰まっている会社が必要に迫られ,今までの商慣習を続けているだけでもつらいんだな,という見方もできてしまう」と手厳しい。販売代理店もスーパーボーナスに対して苦言を呈する。ある販売代理店幹部は「現場での説明が40分近くかかってしまう。ユーザーとトラブルになるのが不安」と嘆く。

 実際,ソフトバンクモバイルの販売方式が優れたものであるなら,他の携帯電話事業者が追随してもいいはず。だが,そうした動きは今のところ見られない。NTTドコモのプロダクト&サービス本部長である辻村清行・取締役常務執行役員は「(ソフトバンクモバイルの新販売方式は)われわれがすぐに取りたい方策ではない」と様子見。KDDIのコンシューマ事業統轄本部au事業本部の雨宮俊武・au事業企画部長は,「短期的に見れば(販売インセンティブによる販売方式は)今のまま」とし,すぐに現行の手法を変えるつもりはないことを示唆する。

販売インセンティブの在り方を問う議論,総務省も乗り出す

 ソフトバンクモバイルのスーパーボーナスは,割引のための負担金そのものをなくしたわけではない。だが他の携帯電話事業者に先駆け,従来型の販売インセンティブ・モデルとは根本的に異なる販売方式を導入し,インセンティブの在り方に一石を投じたのも事実。

 ソフトバンクモバイルがスーパーボーナスを導入した9月,時を同じくして総務省は「新競争促進プログラム2010」(関連記事)を公表した。検討すべき課題として,販売インセンティブの在り方などが挙げられており,携帯電話のビジネス・モデルを巡る議論が今後検討会などで交わされていく。

 総務省総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課の片桐義博・課長補佐は,「ソフトバンクというチャレンジャーが(携帯電話事業に)参入したことで,新しい方法が模索され始めた。競争によって消費者の選択が広がりつつある」と述べる。

 ソフトバンクモバイルの投げかけが吉と出るか凶と出るか。販売方法の選択肢が増えても,それを選ぶのはユーザーである。