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 10月31日は,今年(2006年)のチューリング賞の推薦の締め切り日である(詳細情報)。2006年のチューリング賞は誰が候補に名を連ねているだろうか。

 チューリング賞は,ACM(Association for Computing Machinery)がコンピュータの発展に貢献した人に授与している賞である(詳細情報)。最近では,2003年がオブジェクト指向やパソコンの発展に寄与したアラン・ケイ,2004年はTCP/IPを開発したヴィントン・サーフとロバート・カーン,そして昨年は,Algol60やBNF(プログラミング言語の定義記法)を開発したピーター・ナウアが受賞している。

 チューリング賞の歴史を振り返ると,ソフトウエアによる情報処理の効率化に貢献した技術の受賞が目立つ。そう考えると,今,インターネットを利用するうえでなくてはならないGoogleなどの検索エンジンを支えている技術も,将来はチューリング賞の対象になっているのかもしれない。

 検索エンジンは,現在100億ページとも言われる全世界のWebページから,求める人に求めるページを瞬時に提供する,高い効率化を実現する情報処理技術である。しかも,同じキーワードで検索する場合でも,ユーザーによって欲しい情報は同じとは限らない。万人が納得する「正解」がないだけに,検索のヒット率(というよりもユーザーの満足率と言った方がいいだろうか)を高めることは一筋縄ではいかず,情報処理技術の中でも奥深い世界が広がっているように思う。そのうえ,対象とする情報は,テキスト,静止画像,動画像と広がりを増しており,検索エンジンの高度化に拍車がかかることは間違いないだろう。

 検索エンジンを支える技術がチューリング賞を受賞する日がくるとすれば,その頃の検索エンジンは,今とは様変わりしているかもしれない。それでも,無尽蔵の情報を相手に,求める情報を見つけ出すために闘っている姿は変わらないだろう。検索エンジンに興味を持てば持つほど,自然と「情報」への興味とつながっていく。

 そんなふうに感じたのは,筆者が『情報はなぜビットなのか』という書籍を編集したからである。この書籍では,「情報」をキーワードにコンピュータのしくみを解説している。最初に「情報」をどう定義し,コンピュータで処理できるようにしたのか。計算機として生まれたコンピュータが,情報処理のツールとして,現実世界のあいまいな情報を扱えるようにするために,どのような発想や技術が必要なのか。さまざまな角度から情報を処理する場面を切り取っていく。何を「入力」とし,どう「処理」をして,何を「出力」として返すか。それがコンピュータを使うということだ。検索エンジンであれば,キーワードが入力であり,検索ページが出力であり,その間の処理が検索エンジンである。そして,「何を入れて,何を出すか」を考えるのは人間であり,「情報」を考えることは,自分がコンピュータを使い,何を求めたいのかに気づくことにつながる。

 米Google社の創始者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジは,スタンフォード大学のコンピュータ・サイエンス学科の大学院生時代に共同執筆した論文がきっかけとなってGoogleを立ち上げた。二人とも「情報」について学び,考えるなかでインスパイアされた部分があったのではないだろうか。

 「情報」の原点に触れてみたいと思われる方は,『情報はなぜビットなのか』を手にとっていただければと思う。チューリング賞受賞者たちの業績についても触れている。コンピュータをどう使うか,情報から何を得るのかを,考えるのは人間である。そのときにきっと役立つ「情報を扱うセンス」を本書から感じとってもらえるだろう。

 さて,2006年のチューリング賞は誰が受賞するのだろうか。少々気が早いが,来年の発表を楽しみに待ちたい。