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 「商談獲得は大手に任せておけばいい」。IT業界にまん延するこんな“常識”に逆らって、下請けからの脱却を図る中小ソフトハウスが増えている。特に、締め付けが厳しくなっている偽装請負問題や下げ止まらない単価など、IT業界に対する危機感から下請け脱却に踏み切る企業が多い。だが、そうした中小ソフトハウスのほとんどは、営業力不足や赤字プロジェクトなどに悩んでいることも事実。
 それでも、激しい競争を生きのび、鍛えられたソフトハウスは少なくない。Webを使った見込み客獲得のノウハウ、単価上昇を実現した人材育成策、他社と差異化するための事業選択など、彼らの打った施策は、ソリューションプロバイダの製品戦略や販売施策、商談に直ちに応用できる。



 「中小ソフトハウスのほとんどは、安定した下請けや派遣ビジネスの現状を肯定している。ユーザー企業と取り引きするソリューションプロバイダやソフトメーカーへの転進を図る企業はまだごく少数だ」(船井総合研究所第一経営支援部で中小ソフトハウスを専門にコンサルティングする長島淳治氏)。総務省統計局の事業所・企業統計調査報告(平成16年)によると、国内の情報サービス企業は1万7157社。そのうち、1万5835社(92.3%)は従業員100人以下。つまり、IT業界の大半を占める企業は、現状の構造に安住しきっているわけだ。

 あるソフトハウス業界団体の幹部も、「プライムビジネスに本気で取り組んでいるのは10社に1社以下」と漏らす。そのため、「中小ソフトハウスがプライムビジネスを志すと、周りから変人呼ばわりされる」(ウイングの樋山証一社長)というのが現状だ。

 もちろん、IT業界にとって下請けソフトハウスは欠かせない存在。他社が持たない技術で光る企業もいる。だが、下請けの方が経営が安定すると判断して、元請け企業への「人貸し」を選ぶソフトハウスの方が圧倒的に多い。「元請け企業に技術者を派遣する派遣ビジネスは、毎月確実に売り上げが立つ」ことの魅力を訴える声は根強い。

 脱・下請けを試みるソフトハウスも多くは、「営業を採用してもすぐ辞める」「ユーザー企業のわがままで赤字プロジェクトになる」「自社製パッケージが売れない」などの理由で断念してしまうようだ。

 それでも、ソリューションビジネスに身を投じるソフトハウスは常に生まれてくる。最近では、偽装請負に対する摘発強化も下請け脱却を促す要因の一つ。「下請けビジネスを支える偽装請負、多重派遣がやりにくくなっている」(船井総研の長島氏)からだ。

 下げ止まらない下請け単価に危機感を抱く経営者もいる。シーピーアイ(東京都豊島区)の野尻泰正代表取締役は、「単価は下落しても人件費は年々上がる。このままでは経営が成り立たなくなる」と指摘する。

営業引き抜きでの失敗例多し

 脱・下請けに成功しつつあるケースと失敗したケースには、明らかな違いがある。成功例では、まず会社の強みを作り(Step1)、それを基礎として営業力(Step2)とプロジェクトマネジメント力(Step3)をしっかりと身に付けている。Step2とStep3に取り組む順番は企業によって異なる。

 Step1では、競合のソリューションプロバイダ、特に大手が目を付けていないニッチな技術や業務分野を見付け、伸ばしていった企業が多い。もちろん、これは簡単なことではない。普通に下請け案件をこなすだけでは、他社と同じメジャーな技術を使う案件が業種/業務の区別なく降って来るため、特定の技術や業務ノウハウが身に付かない。リスクを負ってでもリソースを集めるトップの決断が不可欠だ。

 Step2では、トップ自らが営業に取り組む企業が多い。プライムビジネスへの思い入れが強い担当者が、見込み客獲得から提案までのプロセスを確立することが重要になる。失敗例で多いのが、大手メーカーやシステムインテグレータから営業担当者を引き抜いたがうまくいかないという企業。人脈を頼った営業担当者が多く、会社を移ると売り上げが続かずに辞めていくという。

 Step3のプロジェクトマネジメント力の育成では、やはり経験がモノをいう。イーエックス(東京都台東区)の早坂健次代表取締役は、「経験を積むためにも、ソリューションと受託開発の事業バランスが大事」と語る。「最初はなかなかプロジェクトがうまくいかないはず。だが不採算案件を勉強だと思って、最初の数件を耐える体力を持つことが重要」(船井総研の長島氏)というのが共通する意見。しかし、ここまで到達できるソフトハウスは、ごくわずか。不採算案件に耐え切れず、下請けに戻って二度と挑戦しなくなるソフトハウスは多い。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年9月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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