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 最近,安さにつられて企業向けのIP電話サービス*1の利用を始めた「いろは設計事務所*2」。しかし,それが原因でネットワーク・システムを担当する品質良太郎くんは頭をかかえることになった。ときどき通話が途切れたり,相手からの音声が届かないというトラブルに見舞われているのだ。

 いろは設計事務所のネットワークは,社内LANからルーターを介し,ADSL*3を経由してインターネットに接続する構成(図1)。インターネットは,IP電話や電子メール,Webアクセスのほか,取引先と数Mバイトものサイズの設計図面をやりとりするのにも利用している。

図1●IP電話はほかのトラフィックの影響で音質が悪くなる
図1●IP電話はほかのトラフィックの影響で音質が悪くなる
インターネットでは,さまざまなアプリケーションの通信が一つのIPネットワークに共存する。このため品質に敏感なアプリケーションの使い勝手に影響が及ぶことがある。

大量のファイル転送が原因?

 調べたところ,どうやら設計図面を取引先に送っている最中にIP電話の音声が伝わりにくくなっているらしい。「安いから仕方がないのかなあ。でもそうだとしたら使えないってことかなあ」と考える良太郎くんだった。

 でも,本当に仕方がないのだろうか? 良太郎くんに代わってちょっと考えてみよう。

まずルーターの働きを押さえよう

 それにはまず,いろは設計事務所のネットワークで何が起こっているのか,正しく理解する必要があるだろう。IP電話の通話も,設計図面をやりとりするファイル転送も,100Mイーサネットで構築した社内LANからルーターに入り,下り8メガ/上り1メガのADSL回線を通ってインターネットにつながっている。IP電話の通信がファイル転送からの影響を受けているということは,両者のトラフィックが集中するルーターの処理にトラブル原因を解き明かす鍵がありそうだ。

 そこで,さらにルーターの内部処理に焦点を当てて見ていこう。

 ルーターがパケットを受け取ってから送り出すまでは,三つの処理で成り立っている。(1)入力インタフェースがパケットを受け取り,(2)フォワーディング・エンジンと呼ばれるプロセッサが出力インタフェースを見つけてそこまでパケットを届け,(3)出力インタフェースがパケットを送信する。

 入力インタフェースに取り込まれてから出力インタフェースに届くまで,IPパケットは待たされることがほとんどない。入力インタフェースやフォワーディング・エンジンは,流れてくるIPパケットの量に比べて能力に余裕があるからである。

 しかし,出力インタフェースに届くと状況は一変する。複数のインタフェースから出力インタフェースの速度以上のIPパケットが押し寄せてくるので,パケットを送り出すのが追いつかなくなるのである。

IP電話の通信を脅かす三つの問題

 特に出力インタフェース,つまり接続する回線の速度が遅いときに,問題は深刻になる(図2)。

図2●ルーターの出口で音質が悪くなる
図2●ルーターの出口で音質が悪くなる
IPネットワークで品質劣化が起こるのは,おもにルーターの回線出口。特に,上りは1Mビット/秒程度の低速回線のため,トラフィックが集中すると問題になる。
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 例えば,8メガADSLといっても,上りの速度は1Mビット/秒程度。ADSLにつながるポートに100Mビット/秒のイーサネットから絶え間なくパケットが届くと,あっという間に処理を待つパケットであふれ返ってしまう。

 ルーターは基本的に“早い者勝ち”でパケットを処理する。1Mビット/秒の回線につながる出力インタフェースに,1500バイトのパケット*4がすでに10個届いていたら,その後に届いたパケットは送り出されるまで120ミリ秒も待つことになる*5。これは,遅れが致命的になるIP電話などの通信にとって,とても無視できる値ではない。

 このように,後から届いたパケットは,送り出されるまでの時間が遅れる「遅延」が発生する。事態が悪化すると,あふれたパケットが捨てられる「廃棄」が起こる。さらに,それぞれのアプリケーションに必要となる帯域*6を確保できない「帯域減少」になる。

 いろは設計事務所で,大容量の設計図面ファイルを送っていたときにIP電話の通話が不安定になったのは,こうした事態がルーターで発生していたからだと考えられるのである。

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