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 今回はインターネット資源のお話をすることにします。インターネット資源といってもインターネットを動かすための燃料とかそういう資源ではなく,インターネットをワールドワイドで使うために必要な“世界的な番号体系”にまつわるお話です。

大きなネットワークに割り振られるAS番号

 番号体系といって思いつくのは,身近なところだと電話番号でしょう。地域番号や局番号などに分かれており,体系だって管理されている番号です。一方,インターネットの番号体系で有名なのはIPアドレスです。この番号は,地域ごとに管理する組織である「地域レジストリ」を設けて,IANA(internet assigned numbers authority)が地域レジストリごとにIPアドレスを割り振っています。このようにして地域ごとに分けた番号管理をしているのです。

 ただ,インターネットというのはとても複雑にネットワークが絡み合って構成されているという特徴があるので,電話番号のように国単位や地域単位のようにばっさり分けて管理する形態を取れません。このため,地域レジストリはワールドワイドで共通な概念に基づいて,均一なIPアドレスの割り振りルールに沿って活動しています。

 さて,インターネット向けの番号資源として,もう一つワールドワイドで使われているものがあります。それがAS番号です。ASとは,autonomous systemの略で,日本語では自律システムと訳されます。

 ASは多くの場合,ISPなどの比較的大きなネットワークを単位として表現し,それごとに番号を割り当てています。この番号をAS番号といいます。IPアドレスと比べて一般には馴染みが薄いのですが,ネットワークを相互接続する場合に使われるBGP(border gateway protocol)でネットワークを認識するために使われています。

AS番号にも枯渇の危機が迫っている

 AS番号は,IPアドレスが32ビットの有限個の番号体系であるのと同じく,16ビット(2バイト)で表現される有限個の番号体系です。IPアドレスの枯渇に関する問題は広く認識され,議論も多くされています。一方,AS番号の枯渇に関連する問題はあまり議論されていません。

 ところが,AS番号も実は枯渇の危機にあるのです。この件については,APNIC(アジア太平洋地域の地域レジストリ)のGeoff Huston氏が2005年8月に発表した“Exploring Autonomous System Numbers”(http://www.potaroo.net/ispcol/2005-08/as.html)で詳しく解説されています。ここでは,「今のままAS番号の割り当てを続けると,早ければ2010年頃にAS番号の割り当てが全部終わってしまう」と言われています。この手の予測の場合,その割り当て終了年が正確かどうかという議論よりも,「もうそろそろ次を考える必要があるんだな」と認識することが何より重要でしょう。

 では,AS番号が新しく割り当てられなくなると何が不便かを考えて見ましょう。AS番号はIPアドレスのように直接IPの通信に影響を与えません。このため,既存のISPに接続して,そのISPにデフォルト・ルートを向けているような場合は,全く関係ありません。

 一方,インターネット・エクスチェンジ(IX)に接続したり,他のISPと相互接続しているようなネットワークの多くは,BGPを使って複数のネットワークとマルチホーム接続をしています。このようなネットワークを構築しようとする場合,ワールドワイドでユニークなAS番号を使う必要があります。こうなると,「複数のネットワークにマルチホーム接続しようとする,新しいネットワーク」の人にとっては,AS番号が新たに割り当てられないために影響が出てくるわけです。

 例えば,私のようなAS番号を持たない小さな会社の人間がISPをはじめようと思ったとします。でも,AS番号が無いのでマルチホームをして大きなISPに対抗するようなネットワークを作れなくなってしまうのです。

来年にはRFCになる“4バイトAS番号”

 インターネット関連技術の標準化団体であるIETF(internet engineering task force)では,早くからAS番号の枯渇の問題に取り組み,AS番号の番号空間を拡大する“4バイトAS番号”の規格を定めています。現在のところ,Internet-Draft(RFCになる前の提案文書)ですが,今年中,遅くても来年には正式にRFC(IETFの正式文書)として文書化されるでしょう。

 さて,この4バイトAS番号はどのように実装されるのでしょうか?IPアドレスのVerion4からVersion6のように,BGPをVersion4からVersion5などの新しいバージョンに変更するような,インターネット全体を左右する大きな変更にするのでしょうか。

 答えはNOです。この4バイトAS番号は,既存のBGP-4を拡張する形で,現在の2バイトのAS番号と互換性を保ちながら拡張されます。また,番号系も2バイトASの部分は4バイトASの番号系と共有されます。ですので,現在すでに取得している2バイトASは,インターネットにつながれているすべてのルーターが4バイトAS対応となっても,同じ番号を利用できるのです。このあたりはIPアドレスのVersion4からVersion6への移行と比べて緩やかに行われます。

問題は2バイトAS番号と4バイトAS番号の相互接続

 しかし,全く問題がないかというと,そうでもないかもしれないのです。ここで,AS番号の用途を押さえておきましょう。AS番号に紐付けされたIPアドレスは,AS番号を識別することで経路がインターネット全体としてループしないようになっています。このほか,何個のASを経由して流れてきた経路かを判定するために利用されています。もちろん,この辺については,BGPやインターネット経路制御の著名人たちが何度も議論して,予測を繰り返し,おおむね問題ないという結論に達しているわけです。ですが,全く影響がないかというと,実際に実験をしたわけではなく少し怪しいところがあるのです。

 この怪しいといっている部分は,2バイトASで運用されている空間と4バイトASで運用される空間の相互接続に関する部分です。細かい説明は省きますが,非常に単純化するとのような感じです。

図 4バイトAS番号と2バイトAS番号の変換 4バイトASの空間から2バイトASの空間にAS番号が入ったときに,2バイトASの空間では,4バイトASの情報を持つAS番号がAS_TRANSというAS23456に変換されます。

 4バイトASは,上位2バイトと下位2バイトを“:”で区切って10進数で表現します。そして,図のように4バイトASの空間から2バイトASの空間にAS番号が入ったときに,2バイトASの空間では,4バイトASの情報を持つAS番号がAS_TRANSというAS23456に変換されます。4バイトASの情報そのものは,拡張属性の中に封じ込められます。

 通常この拡張属性はTRANSITIVE属性という「ASを通過して転送すべき情報」として扱われます。2バイトASの空間がその属性を認識しなくても,そのまま転送される「はず」です。このときに以下の2点が問題になりそうなのです。

1. 2バイトASの空間から4バイトASの空間を見るとすべてがAS23456(AS_TRANS)に見えてしまうため,その経路に対するASを用いた経路制御が不能になる

2. 2バイトASの空間を通過する4バイトASの隠ぺいされた拡張属性はTRANSITIVEだが,この2バイトAS空間で認識不能な拡張属性が正しく次の4バイト,または2バイトASの空間に転送されるかは実装依存となる

 1.に関する問題は,新しくつながる4バイトASのネットワークがひとつの大きなAS23456というネットワークに見えてしまうため,AS番号でフィルタするなどのBGP特有の機能が有効に機能しなくなります。このために,経路制御オペレーションにそれなりの影響を及ぼしそうなことが想像できます。2.に関する問題は,多くの実装が出現し,それを相互接続するなどして実際に実験するしかなく,現時点での検証は難しいのです。

 いずれにせよ,このような新しい技術や資源が出現するたびに,この手の不安は付き物です。その時々で適切に対処する必要があるわけです。しかし,事前に影響を考察し,対策できる部分を検討しておくということには大きな意味があります。

 現時点では4バイトASに対応したルーターがほとんど無い状態なので,実際のルーターを用いた実験も十分にできていない状態です。あるタイミングでは必ず実証実験が必要になるでしょう。このような実験には私も注目していますので,また機会があればどこかでご報告したいと思います。

■近藤 邦昭(こんどう くにあき)

日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ(JANOG)の会長。1970年北海道生まれ。神奈川工科大学・情報工学科修了。1992年に某ソフトハウスに入社。主に通信系ソフトウエアの設計・開発に従事。1995年,株式会社ドリーム・トレイン・インターネットに入社し,バックボーン・ネットワークの設計を行う。1997年,株式会社インターネットイニシアティブに入社,BGP4の監視・運用ツールの作成,新規プロトコル開発を行う。2002年,株式会社インテック・ネットコアに入社。2006年には独立,現在に至る。