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プロローグ~連載を始める前に~

 皆さんには,企画書1本で,顧客を振り向かせたり,唸らせたり,感動させた経験があるだろうか? また,制作したWebサイトで,顧客を舞い上がらせたり,驚かせたり,感激させた経験はあるだろうか?

 そのような体験に,企画力は不可欠だ。技術仕様の理解や制作技術の習得以上に重要だ,と言っても過言ではない。

 だが,現状はといえば,どうだろうか。

 美辞麗句を並べたパワーポイントによるプレゼンテーションや,美しいトップページのラフデザイン,さらに短納期低予算が評価されて,受注確定。その結果は,理念が見えない企業紹介。素通りする経営方針。お決まりの項目だけのデータベース検索。良く言えば「標準的」悪く言えば「ありきたり」。「何か」が足りない。

 足りない原因は,顧客と制作者の間の顕著なヒエラルキーにある。顧客の希望だけを落とし込んだ企画書,顧客からの原稿そのままのテキスト。制作者側が「受身の姿勢」で,上流工程を顧客が担ってしまっているのだ。

 このような状況に,多くの意欲的な制作者たちは,漠然とした違和感を感じていることだろう。

 何か新しいアイデアを盛り込めないだろうか。もっと顧客が自慢したいWeb,自ら活用したいと思えるWebを作れないだろうか,と。現状に疑問を持つことが,次のステップへのきっかけとなる。

 しかし,そうは思っても,どんな本や資料を読み,何を学べばよいのだろう? どうすればアイデアが出るのだろう? セミナーで語られるような,中規模以上の制作会社やシステムハウス向けの理論は,小規模事業者の実務には応用しにくい。小規模事業者,特に地方のSOHOは,実制作以外の作業について暗中模索の状態だ。

 そこで,Web黎明期から生き残っているSOHOの先駆けとして,何か伝えられることはないだろうかと思い巡らしてみた。小規模事業者が,顧客の下請けから脱し,提案型の制作者になるためのヒントを呈示すること。それが本稿の目的だ。

プランナー不在のWebは,「何かが足りない」

 Webサイト制作や,Webアプリケーション開発業務は,時間と場所の制約をうけない小規模事業者,特にSOHOにはうってつけだ。顧客側には,エンドユーザーのアクセスの少ない時間帯や自分たちが利用しない時間帯に,更新作業やメンテナンスを依頼できるというメリットがある。小規模事業者は,気軽に相談でき,小回りも利く,便利なアウトソーシング・スタッフだ。

 数名の仲間と起業する小規模事業所も,単独あるいは夫婦や友人同士で起業するSOHOも,今後増えこそすれ,減りはしないだろう。DreamweaverやFlashの操作,JavaScriptの記述,XHTMLコーディング,任意の開発ツールを使ってネットショップなどを実装できる人も増えている。過当競争に入るのは時間の問題だ。

 その時,デザインと技術以外に差別化できる要素があるとすれば,それは,顧客ならではの内容を提案し,具体的な成果につなげるシカケではないだろうか。

 クールなデザインと,正確なプログラム,ユニバーサルなユーザー・インタフェースだけでは,「何かが足りない」のである。

 例えば,こんなシーンを想像してみてほしい。

 SE(システム・エンジニア)がフランス料理のフルコースのような複雑な処理を設計し,プログラマが腕によりをかけてプログラム(料理)を作り,デザイナーが見た目(ユーザー・インタフェース)もきれいに盛り付けた。ところが,企画があいまいなままコトが運んでいたために,適切な食事場所が確保されていない。一張羅を着込んだ顧客が,豪華な料理の皿を片手に持ち,利き手にナイフとフォークを持って,小雨の降る中,屋外で立ち食いを余儀なくされている。

 顧客は食事代を払う気にもなれず,2度とその店には姿を現さない。

 Webプランニングは,一言で言えば「結果を出して,後始末も万全の,お膳立てをしておく」作業だ。意識の高い顧客は,企画を求めている。

なぜ「企画」は軽視されがちなのか?

 この重要な「企画」という作業が,小規模事業者の間では軽視されがちである。

 制作プロジェクト内に,専任のWebプランナーがいるケースは多くない。とはいえ,中規模以上のプロジェクトであれば,Webプロデューサがプランナーを兼務しているケースはあっても,プロデューサ自身が,データ作成やHTMLコーディングを手がけることはないといっていい。

 一方,小規模事業者では,一人のスタッフがこなさなければならない作業があまりにも多い。地方では,顧客のしがらみへの配慮に,制作実務以上のパワーを必要とすることもある。そのような状況だから,「制作→納品→売上」といった図式を実現するには,「企画」という作業を,素通りしたくもなる気持ちもわからないでもない。顧客の要望だけを文書化し,それを企画書として扱えば,必要以上の作業は発生せず,企画を実施した結果に対する責任を問われることもない。

 これでは,顧客との間にヒエラルキーが生まれるのも当然だ。たしかにお客様は神様なのだが,顧客は神様と違って全知全能ではない。自分の手でWebサイトを作れないから制作を依頼している。その知識と経験の少ない神様の言う通りに制作したのでは,ありきたりのWebサイトになるのも無理からぬ話だ。

 なぜ,小規模事業者は,「企画」を軽視しがちなのだろうか?

 仕事の関係を切られることを恐れ,顧客に対して一歩退いて接してしまう,というのが最大の理由だと思われるが,それ以外にも理由がありそうだ。筆者は次の四つではないかと推測している。

1) 中堅プログラマが,勤務先のデスマーチな工程や,取り組み技術の方針の違いに悩んで退職,開業。新しい処理の実装方法に関する提案ならできるが,それ以外の企画については門外漢。また,開発するだけで精一杯の短納期の仕事か,プロデューサから指示される仕事が多く,自ら企画提案する機会が持てない。

2) 仕事量に反してSOHOの数が増えているので,データ入力,テープ起こし,DTPオペレートといった月並みな作業では仕事を確保できない。そこでWeb業務にまで手を広げたものの,納期までにWebページの形にするだけで精一杯。企画まで考える余裕がない。

3) 経験豊富なデザイナーだが,アート・ディレクターのもと,コピーライターやカメラマンとのチームの中で,レイアウトや配色や画像処理を担っていた。企画の重要性は十分に理解しているが,実戦での経験がないために,顧客への提案に自信を持てない。

4) Webには無関係な仕事をしながら,趣味でWebページを作っていたが,周りから「それだけできれば仕事になる」と言われ,一念発起して起業。ところが,制作や開発現場での職務経験がないため,企画とは具体的にどのような作業なのかわからない。

 筆者の知人たちには,1)のケースが多い。SOHOの団体や組合では,2)のケースがネズミ算式に増えている模様だ。3)のケースは,Dreamweaver+Flashでセンスの良いサイトを作っている人の中にも少なからずいるだろう。4)のケースの人にも,ときおり遭遇する。