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 先週,光通信ネットワークの世界で新たな「チャンピオン」が生まれた。NTTが学会発表した,1本の光ファイバで14T(テラ,10の12乗)ビット/秒の光伝送が可能な技術である(関連記事1)。これまでの最高記録はNECが持つ10.92Tビット/秒。この発表が2001年だから,実に5年ぶりの記録更新となる*1。

*1:同じく2001年に,フランスのアルカテルが10.2Tビット/秒の光伝送システムを発表している。NECとアルカテルの発表は,いずれも光通信関連の国際会議「OFC2001」においてのこと。

 14Tビット/秒という「世界最高速・最大容量」のインパクトはいかなるものか。NTTは,「2時間のハイビジョン映画140本を1秒で転送」と説明している。他にはどんなことができるのか。筆者の思いつきで恐縮だが二つほど計算してみた。

 一つは,流行の動画ダウンロード・サービスについて。9月に始まった米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Unbox」を例にとれば,同サイトにあるすべての動画コンテンツを,14秒ほどでダウンロードできる。同社によるサービス開始発表時のリリースで,コンテンツ数を「数千本」としていたため,ここではDVD画質の映画(2時間,2.4Gバイト)が1万コンテンツあると仮定して計算した。

 もう一つは“崩壊”が心配されるインターネットの総トラフィックについて。国内インターネット・トラフィックの総量が2005年5月時点で平均472Gビット/秒だったことから(関連記事2),「半年で1.5倍」のペースで伸びると仮定すると,2009年までは14Tビット/秒をオーバーしないということになる。

 繰り返すが「光ファイバ1本で」の話である。ちなみにNECが2001年に10.92Tビット/秒の伝送実験に成功したときは,「日本の全人口と同じ数の電話をかけられる」(1通話は64kビット/秒で換算),「動画像を100万回線に同時配信できる」と説明していた。この5年間で,世界最高速・最大容量の光通信がかなえてくれる「夢」も大きく変ぼうしたことになる。

シングルでがんばるかマルチで稼ぐか

 今回のNTTの実験成功で,久しぶりに光通信技術で夢を語れる機会があったわけだが,現実は依然として厳しい状況にある。光通信業界は,2001年の「光通信バブルの崩壊」で受けた痛手から回復しきれていない。世界的に光ファイバやその関連設備は過剰気味であり,光通信技術の開発に人とカネをつぎ込むことができない企業がほとんどだ。光通信関連のイベントは国内外とも大幅な縮小を余儀なくされており,技術発表の機会が失われている。かつて技術開発を先導した光通信ベンチャーも見る影がない。

 このような状況下で発表されたNTTの技術は,従来とは違う方向に転じた点にも注目したい。 現在の高速・大容量の光伝送システムは,「WDM(波長分割多重)」と呼ぶ技術が主流だ。これは,あたかも高速道路の複数レーンを走る自動車のように,波長が異なる複数の光信号をまとめて送る技術である。つまりWDM光伝送システムの容量は,「光信号1波当たりの伝送容量×波長数」で決まることになる。

 NTTの光伝送システムは,前項の光信号の伝送容量を高める方向に進んだ。具体的には1波当たり111Gビット/秒に高速化した。現在の光通信システムでは,米シスコシステムズのハイエンド・ルーター「Cisco CRS-1」に代表されるように,40Gビット/秒の光信号を用いる。その3倍弱に高めたことになる。その分,波長数は140チャネルと押さえ気味にした。一方でNECがチャンピオンを獲った時は,1波当たりの伝送容量は40Gビット/秒として,波長数を273波に増やして大容量化する方向を採った。

 NTTのように光信号1波当たりの伝送容量を高めるか,それともNECのように波長数を増やすかの選択は,多分にさまざまなトレードオフの関係を考慮しての判断となる。マイクロプロセッサの周波数を高めるか,並列化に進むかといった選択に通じるものがある。その選択の結果は,時代によって多数派と少数派を生み出した。これまでの多数派は波長数を増やす方向で,そのチャンピオンがNECであったわけだが,今回は長年少数派として頑張ってきたNTTが王座についた。これをきっかけに,多数派と少数派が入れ替わる可能性も出てきた。

理論限界の「100Tビット/秒」を目指して

 世界記録が更新されたばかりで,いささか気の早い話ではあるが,次なる期待として「光通信はどこまで速く太くなるのか」が頭に浮かんできた。光通信の理論的な限界は,2001年にベル研究所が英国の科学雑誌「Nature」に発表した論文に見ることができる。ノイズや干渉がない条件で「100Tビット/秒」というものだ。

 100Tビット/秒を最終目標とすれば,14Tビット/秒はその一里塚。まだまだ先はある。最終ゴールを目指し,「世界最高速・最大容量」をうたうチャンピオンが5年といわず毎年のように生まれてくる。そんな技術開発競争の活性化を期待したい。