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ガートナー ジャパン リサーチグループ バイス プレジデント 山野井 聡 氏 山野井 聡 氏

ガートナー ジャパン リサーチグループ バイス プレジデント
アクセンチュア、データクエスト ジャパン (現 ガートナー ジャパン),ドイツ証券を経て,2004年10月より現職。日本のリサーチ部門のヘッドとして,アナリスト・グループを統括している。また自らもアナリストとして,日本国内のITサービス市場の動向分析、および企業のソーシング戦略立案・導入・管理に関するアドバイスと提言を行っている。

 ITユーティリティサービスについて、一時期ほど語られなくなった気がするのは筆者だけだろうか?

 ITユーティリティの定義を形式ばって言えば、「オープンかつ仮想化されたコンピューティング資源を、ネットワークを通じて、顧客企業が必要とする時に必要な分量だけ、使用従量ベースの料金で提供するサービス形態」のことである。

 まさに電力や水道など公共(utility)サービスのように、コンピューティング資源を社外から調達しようという発想で、2002年頃から、IBMやサン・マイクロシステムズ、HPといったハードベンダーから主にコンセプトが打ち出された。国内でも富士通、日立製作所、NECなどの最大手プレーヤーが注力する姿勢を見せている。

 このコンセプトは、ユーザーとプロバイダの双方にとって大きな影響がある。ユーザーにとっては「ITを所有せざる経営」の実現である。ITユーティリティの世界では、これまで自前での購入・構築・運用が前提だった企業情報システムが完全にブラックボックス化され、企業はリモートで「適宜利用」する形になる。ある意味では、柔軟性と迅速性を兼ね備えた究極のアウトソーシングモデルだ。

 プロバイダにとっては、ビジネスモデルそのものが変わってしまう。これまでのような筐体やライセンス、あるいは人月単位の売り上げ構造から、「従量課金」というよりストック型のサービスビジネスへのシフトを促す。

 米ガートナーは、今後5年を見据えてユーザーが注目しておくべき5つのITキーワードの1つに、ITユーティリティを挙げている(残りの4つは、オープンソースソフトウエア、音声/データ情報の収斂、サービス指向アーキテクチャ(SOA)、グローバルソーシング)。

 「IT Doesn’t Matter」と述べたニコラス・カール氏も最近のレポート「The End of Corporate Computing」(相変わらず、論議を呼びそうなタイトルだ!)の中で、コモディティ化が進む企業ITの行き着く先は、ITユーティリティだと予見している。

 しかし、今のところ市場であまり熱い声が聞こえてこないのはなぜか。このコンセプトを実現するには、クリアしなければならないハードルがいくつかあることに、提供側が気づいたから、と筆者は考えている。異機種混在下での仮想化、最適ロードバランシング、グリッドコンピューティング、Webサービングなどの技術的課題は時間が解決してくれるだろう。むしろ、価格設定の基準となる「サービス」の単位をどうとるか、既存の「ハコ売り」「人貸し」的なビジネスとの競合をどう避けるのかなど、ビジネスモデルの根幹にかかわる課題のほうが重要だ。

 さらに、おそらく最も問題なのは、ユーザー企業が本当にこのサービスを望んでいるかという部分にプロバイダが確信を持てない点だ。特に日本の大企業ユーザーでは、“スパゲッティ”状態のレガシーシステムを捨てられずにいるケースが多い。ITユーティリティを取り入れるには、まず既存のIT資産の統合化や標準化を徹底しなければならない。これ自体に多大なコストと時間を要することは必定だ。こうした初期投資を回収してあまりあるメリットをITユーティリティに期待できるのか。何事も正しい理想を持たねば先に進めないが、踏み出す一歩こそが難しい。ITユーティリティはその典型例だろう。