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日興シティグループ証券 CIOの池原進氏

 池原進氏がアクサ生命保険のCIO(最高情報責任者)から日興シティグループ証券のCIOになって約半年が経過した。ユーザー企業のIT担当者として、その経歴は華やかだ。

 「CIOは最初に、CEO(最高経営責任者)からいかに信頼され、仕事を任せてもらえるようになるかが重要です。もちろん単に何でも任せてもらえるのではいけません。CIOとCEOは互いの役割がどこまでなのかをきちんと理解し合わないとだめです。今はちょうどそんな信頼を得ることができたと思える段階にあります」と、池原氏は“新天地”での手応えをこう表現する。

 池原氏は、2002年から2006年までアクサ生命保険のCIOとして活躍する前は、モルガンスタンレー証券のCIOを1995年から2001年まで務め、東京で5年、ニューヨークで1年半を過ごした。さらにその前の90年から95年はゴールドマンサックス証券で日本のトレーディングシステム担当IT部長などを歴任。この時は最後の1年をロンドンで過ごし、ゴールドマンサックスのグローバル株式システムを構築するプロジェクトに参画しているところを、モルガンスタンレーの全社CIOからヘッドハントされたのである。

 そんな池原氏のIT担当者としての原体験は、86年から90年まで勤務していたクレディスイスファーストボストンにある。大学時代の4年間を米カリフォルニア州で過ごし、写真とコンピューターを専攻した池原氏は、日本のCG(コンピュータグラフィックス)会社に就職。ところが1年半くらいで所属部署がなくなってしまった。そんな時、友人の紹介でクレディスイスファーストボストンに転職したのである。「86年と言えばブラックマンデーの少し前で、外資系証券会社が次々と日本へ本格進出していたころ。クレディスイスファーストボストンもそんな1社だったので、まず僕と外国人社員の2人でIT部門を立ち上げ、人を雇って大きくしていき、様々なシステムを導入していったのです」(池原氏)

 5つの世界的な金融サービス大手を経験した池原氏は、「CIOとしてやらなければならないことはどの会社でも普遍的で基本的なこと。つまり、情報システムを作り、走らせ、会社の利益に貢献することです。そしてそれを可能にするIT部門を築くことです」と痛感している。特に、5社のうち唯一業種の異なるアクサ生命保険のCIOを経験してみて、強くそう思うようになった。

 当然のことながら、利益に貢献できる情報システムを作るためには、会社のビジネスについて熟知する必要がある。池原氏は、自身の経験が豊富な証券会社と異なる生命保険会社のビジネスを学ぶのに1年半を費やしたという。また、池原氏がユーザー企業のIT担当者として過ごしたこの20年間は、証券会社のビジネスが極端に浮き沈みを繰り返した時期でもある。だから、会社が上り調子の時に採るべきIT戦略と下り調子の時に採るべきIT戦略が何であるかを経験できた。「おかげで、経営環境が変化しても利益に貢献できるIT戦略を打てるようになりました」と力強い。

 池原氏は、IT部門でキャリアアップを狙う若手に対して、「ITを多次元で捉え、ポートフォリオを考えられるような経験と感覚をつかめ」とアドバイスを送る。つまり、これから導入しようとするITを技術面とビジネス面から見て、会社にとってのリスクと利益の最適なバランスを考えられるようにするのだ。そんな能力を身につけるには、若いときにたくさん失敗することが重要だと池原氏はいう。「失敗の経験を積めば、やがて、リスクをとっても転ばなくなる。経験豊富なCIOの任務は、バランスを上手にとってローリスク・ハイリターンに持っていくことなのです。だから、若手には失敗を恐れるなと言っているし、彼らが失敗しても全体としてプロジェクトを成功に導くのが私の役割です。失敗を恐れるような姿勢では、絶対に新しいビジネスは生まれません」

 池原氏自身は、リスクを低減するために、自分たちの会社がマーケットの中でどんなポジションにいて、マーケットが今後どう変化していくかを常に考えている。リスクの許容範囲は、会社の置かれた競争環境や事業規模などによって異なるからだ。そして、様々な計測方法を活用してリスクを分析。CEOに新しいITの導入を提案する際は、リスクと効果の異なる複数の案を提示する。「通常は効果が出るまでの期間が異なる案を3つくらい提示します。例えば、10億円投資すれば2年でこれだけのリターンが出ます、5億円の投資なら1年でリターンが出るけど拡張性に劣りますよ、といった具合です」と池原氏は説明する。
 
 ただし日本企業では一般に、「IT部門のスタッフがビジネスの視点、つまり会社の利益にいかに貢献するかという視点を持つのは難しい」とよく言われる。この意見に対して池原氏は、「それは自分の中に無意識に壁を作ってしまっているからではないでしょうか。IT部門のスタッフは、ある意味、誰よりも会社全体を知っています。IT部門の社内での地位が低いために、『僕にはチャンスがない』とITスタッフが思いがちなのは仕方ないとは思うけど、まずは自分ができる範囲で壁を破り、会社にどんどん貢献していけば、変わっていくと思う。組織や他人のせいにしてはいけない」と指摘する。

Profile of CIO

◆ 経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・IT特有の言葉を使わないことです。奥さんや子供に自分が会社でしていることを説明できれば、CEOなら絶対に理解できるはず。CEOのほうがはるかにビジネスに詳しいですからね(笑)。「うちの会社の社長はITのことが分かってない」と言う人をよく見かけますが、それはCIOがCEOへの説明責任をちゃんと果たしていないからだと思います

・ もちろん、私のITに対する考え方をCEOに理解してもらうには時間がかかります。私はこれまで、3カ月、6カ月、1年と期限を区切って、どのレベルまで理解してもらえるようになるか決め、実践してきました。会社は年度計画で動くものです。だから、3カ月、6カ月、1年という単位で何らかの成果を出していくことは、CEOからの信頼を勝ち取るうえでも有効なやり方だと思います

・CEOに大事なことを伝えるときは、必ず会って話をします。単なる説明ならメールでもいいけれど、相手にとってのメリットやデメリットをきちんと説明するには対面で話をしないとだめです。相手の立場に立って説明するには会うのが一番なのです。どうしても会う時間がない場合はビデオ会議を使います

・CIOとCEOの役割の分解点は、CIOはIT戦略を考えること、CEOはその戦略を実行に移すかどうかの決断を下すこと、にあります。つまり、ある目的を達成するためのITにどんな技術を採用するかは私が決めます。その代わり、複数案を提示します。その中からどれを採用するかという金を使う決断が、CEOの役割なのです。だから、私はCEOが決断を下すために必要な情報をふんだんに提供しなければなりません。これこそがCIOの説明責任なのです

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・パートナーとしてWin-Winになれるソリューションを提供してほしい。例えば、ITベンダーが新ソリューションとして他社にも販売していけるような革新的なものを、真っ先に提案してくれると嬉しいですね。当社は先行メリットや料金面でのメリットを得られるし、ITベンダーは当社で実績を出すことによって営業面でのメリットを得られます。実際、私が過去に所属していた会社ではそんな提案が何度か持ち込まれ、最終的にITベンダーは当初目標よりも多数の会社から契約を得たということがありました。もっとも僕はそういう案件では、大ゴケしたら会社を首になるかもしれない。だから、私もITベンダーも互いに大ゴケしないよう綿密に協議しながら必死でやりましたけど(笑)

◆最近読んだ本
・本はそれなりに読みますが、仕事のための情報収集という意味なら、僕は人と話をするほうがずっと好きです。本を読むのと違って、その場で相手に質問できるので、経験なり知識なりを速く吸収できるし、そもそも自分にフィットする話題を中心に扱える。そういう意味では、日経情報ストラテジー誌がスタートさせた「CIO倶楽部」のような集まりが僕にとっては大切。人のネットワークはすごく大切だし、いろんな人と個別の話をしたい。

◆ストレス解消法
・週末に車に乗ることですね。僕はカーマニアなんです(笑)。子供のころから、それこそかつてのスーパーカーブームの前から、車が好きなんですよ。