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NTTデータは9月1日,全社員8000人の内線電話システムを全面刷新した。無線IP電話とソフトフォンを含むIP電話の導入数は,来年2月までに1万5000台となる見込み。無線データと音声の統合や在席率を表示するプレゼンス管理など,システム・インテグレータ大手として困難な課題に取り組んだ。

写真1●NTTデータのビジネスソリューション事業本部ネットワークインテグレーションサービスユニットの鈴木光昭部長
写真1●NTTデータのビジネスソリューション事業本部ネットワークインテグレーションサービスユニットの鈴木光昭部長

 「NTTデータらしい先端的なシステムを目指してやってきた」。ビジネスソリューション事業本部ネットワークインテグレーションサービスユニットの鈴木光昭部長は,9月1日に構築した新しい内線電話システムについてこう語る(写真1)。

 NTTデータが内線電話を刷新したのは,高額な通信費を抑制することや老朽化したPBX(構内交換機)の撤廃などが主な目的(図1)。特にPBXの問題は深刻で,保守部品の調達が困難なPBXは,他拠点の部品を代用してしのぐありさまだった。

 同社が内線電話の刷新を決めたのは2005年1月のこと。NTTドコモのFOMA/無線LANデュアル端末「N900iL」を中心とした無線IP電話,ソフトフォン,固定IP電話を導入することにした。新内線システムがスタートした9月1日時点では,無線IP電話約800台,ソフトフォン約3400台,固定IP電話約3300台と計7500台が稼働中。最終的には,合計で1万5000台となる見込みだ。

図1●NTTデータが内線システム刷新に至るまでの背景と新内線システムにおける三つの挑戦
図1●NTTデータが内線システム刷新に至るまでの背景と新内線システムにおける三つの挑戦

異機種端末の混在など三つの挑戦

 NTTデータの新内線システムには,注目すべき点が三つある。

 一つは,無線LAN環境においてデータと音声を完全に統合したこと。無線IP電話では,音声とデータで異なる周波数帯の無線方式を使ったり,チャネルを分離するのが一般的。これに対して,無線LANの設計・構築を担当した斉藤健治ネットワーク基盤サービス担当課長代理は,「運用の容易さを考えてデータと音声の統合を選んだ」と説明する。音声用途はIEEE 802.11b*1,データ用途は同一周波数帯のIEEE 802.11gを使う。

 もう一つは,NTTドコモのN900iLと日立電線の「WirelessIP 5000」という2種の無線端末を混在させた点。無線IP電話は端末が変わると無線LANの設置位置や電波強度などの設計が変わるため,一般には導入端末は統一するのが望ましい。しかし,「確実に端末の種類は増える。今後のことを考えると最初から機種を統一しない方が良いと判断した」(斉藤課長代理)。

 三つめは,IP電話の導入に合わせて他社にない斬新なプレゼンス*2管理システムを自社開発したこと。「在席率70%」などと不確かさを加味した「プレゼンス機能」や,連絡を取りたい相手のプレゼンス状態が変化したら知らせる「メール通知機能」など,独自の工夫を凝らした。

図2●NTTデータの新IP電話ネットワーク
図2●NTTデータの新IP電話ネットワーク
無線IP電話とソフトフォン,固定IP電話の導入数は,2007年2月までに計1万5000台となる見込み。複数拠点にまたがって無線LANスイッチの冗長化を実現するなど,コスト面も配慮している。
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無線LANの選択では運用管理を重視

 導入に当たってNTTデータは,IP電話と無線LAN,アプリケーションの三つのチームに分かれて検討を進めた。SIP*3サーバーやWANサービスがすんなりと決まったのに対して,無線LAN*4スイッチの選定が難航。無線LANスイッチは,複数の無線LANアクセス・ポイント*5(AP)のチャネル*6や電波出力などを一括管理するため,通話品質や運用管理の使い勝手を大きく左右するからである。

 NTTデータは2005年3月から3カ月間にわたって複数のベンダーの無線LANスイッチを評価した。重視したのは集中管理機能。具体的には,複数の無線LANスイッチやAPに対してファームウエアのバージョンアップやチャネル変更などを一括で設定できる機能である。「導入当初は音質をチューニングする機会が多い。チャネル変更や電波出力の調整などを一つずつ手動で設定していては追いつかない」(斉藤課長代理)と考えた。

全拠点バックアップをスイッチ1台で

 最終的に選んだのは,米アルバワイヤレスネットワークスの製品。決め手になったのは,冗長化構成を取っても設置台数を抑えられることだった。通常,無線LANスイッチを冗長化するには,各拠点のスイッチにバックアップ・スイッチを1台ずつ用意する必要がある。一方,アルバでは全拠点のスイッチを1台でバックアップできる。

 バックアップ用の無線LANスイッチは,大手町のデータ・センターに設置した。本社ビルや大中規模拠点の無線LANスイッチに障害が起こると,自動的にバックアップに切り替わる。こうした構成では,ビル内のトラフィックがWANの帯域を圧迫して音声遅延が発生する危険が生じるが,「全く通話できないという最悪の事態は回避できる」(斉藤課長代理)。

 一方,数十人規模の小規模拠点は最初から無線LANスイッチを設置せず,データ・センターのスイッチを複数の拠点で共用することにした。「小規模拠点には端末が少ないため,WANにトラフィックが流れ込んでも影響はほとんどない」(斉藤課長代理)からである。

最大同時通話数を「5」に設計

 データと音声を統合するに当たって最も重要になってくるのは,「最大同時通話数」である。1AP当たりの同時通話数を増やせば,APの設置台数を減らせる一方で,音切れなどが発生して通話品質は劣化しやすくなる。

 そこでNTTデータは,データ通信用のトラフィックを流すなど高負荷をかけた状態で実際に音質をテスト。その結果,最大同時通話数を「5」とした。「現状の無線技術では音声端末からAPに対しての上り区間でQoS*7をかけられないため,これぐらいの数が限界だと判断した」(斉藤課長代理)。同時通話数を増やすには,今後普及の可能性が高いIEEE 802.11e*8などに期待するとしている。

仕様の違いから生じた音声トラブル

 無線LANの設計を終え,実際に機器の設置を始めたのは2005年9月。現在の設置AP数は800台と,約8割の設置が完了した段階だ。だがここまでの約1年間は,苦労の連続だったという。容易に解決できない無線IP電話のトラブルに見舞われたからだ(表1)。

表1●NTTデータが遭遇した主な無線IP電話のトラブル
表1●NTTデータが遭遇した主な無線IP電話のトラブル [画像のクリックで拡大表示]

 例えば,特定場所に一定時間放置しておくと突然圏外になるというトラブルが発生した。原因は,2種類あるうちの一方の端末に想定外の仕様が実装されていたこと。その仕様とは,電波干渉によってAPから送出されるエラー・フレームを一定数受信すると,そのフレームを出すAPをブラックリスト*9に登録し,APからの電波は無視するというものだった。根本原因はエラー・フレームを出す要因となった電波干渉だが,「トラブルに遭うまで,そうした端末仕様があることは全然把握していなかった」(斉藤課長代理)。

 またハンドオーバー*10の設定条件を同一にしているのにもかかわらず,一方の端末だけが同じタイミングでハンドオーバーしないというトラブルにも遭遇した。「原因はいまだに不明だが,その端末の設定パラメータのどれかが正常に機能していない可能性がある」(斉藤課長代理)。別の設定で強制的にハンドオーバーするよう条件を緩めるなどして微調整を繰り返した。

改良を重ねて進化するプレゼンス

 独自開発したプレゼンス管理も,当初の計画からすんなりと進んだわけではない。目玉機能の一つである「在席中90%」や「外出中70%」といった不確かさを加味したプレゼンスの自動更新も,さまざまな問題点の発見・改良を重ね,完成度を高めた(図3)。

図3●独自の工夫を施したプレゼンス・システム
図3●独自の工夫を施したプレゼンス・システム

 例えば当初は,正確さを追求して在席中に50%未満の数値も表示していた。だが在席中30%は退席中70%とも言え,50%未満の数値は役に立つとは言い難い。そこでどのような状態にあるかを予測し,必ず50%以上の数値を表示するように変更を施した。また手動による設定・解除だった「取込中」表示も解除を忘れる社員が多く,実態にそぐわないケースが続出。これについては,「時間経過により取込中の信頼度を下げ,50%未満になった時点で解除するようにした」(小松正典VANADIS開発担当課長)。

 通信するAPから割り出した社員の位置情報の表示機能も,試行錯誤しながら実装していった。当初は,全社員の詳細な位置情報を開示する方向で検討していたが,これを見直した。「顧客の機密情報などの問題があり,社員であっても位置情報の詳細は見せたくない」という要望が出たからだ。

 そこで初期設定では,「ビル内のどのフロアにいるか」などの詳細な位置情報や「いつ戻る予定か」などの一言メモを閲覧できるのは同一部署のメンバーだけとし,他部署には開示しないという運用を決めた。さらに,利用者自らがこれらを細かく設定変更できるような機能も追加した。