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プロジェクトは無事に進み,そろそろ終盤。ところがいきなり顧客側の役員がクレームを言い出し,設計のやり直しをさせられた──。 顧客の組織や人間関係に注意を払わないでいると,こういう事態が容易に起こり得る。 あなたの顧客は「後ろ盾主導型」か,それとも「窓口暴走型」か。 トラブルを未然に防ぐのに役立つ「顧客のタイプ」の見極め方法を紹介しよう。

 この記事を読んでいる人の多くが,システム開発プロジェクトにおいてリーダー的な役割を担っていることだろう。名刺に「プロジェクト・マネジャー」という肩書きを記している人も少なくないはずだ。

 プロジェクト・マネジャーにはPMBOKをはじめとする標準的なマネジメント技法に関する知識,リスクマネジメント力,組織マネジメント力,コミュニケーション力,リーダーシップといった幅広い能力が必要とされる。それらの能力があれば,自社内のプロジェクトを管理し,とりあえず推進することはできる。

 だが筆者は,「目的に合致した高品質のシステムを,期日内に,しかも予算どおりに完成する」という「プロジェクトの成功」を実現させるためには,プロジェクト・マネジャーにとって,さらに別の能力が必要になると考えている。

 それは顧客側の体制や人間関係を把握し,適切に対応する力,つまり「顧客リレーショナルマネジメント力」だ(図1)。今まであまり注目されることのなかった能力だが,ベテランのプロジェクト・マネジャーたちは無意識にその能力を駆使し,困難なプロジェクトを乗り切っている。

図1●プロジェクト・マネジャーに求められる能力
図1●プロジェクト・マネジャーに求められる能力
一般にプロジェクト・マネジャーには標準的なマネジメント技法に関する知識や,組織マネジメントなどに関する能力が必要とされているが,それだけでは十分ではない。ベテランのプロマネたちは顧客をマネジメントする能力を備え,難プロジェクトを乗り切っている

「お客様は神様」か?

 プロジェクト・マネジャーの能力として,顧客リレーショナルマネジメント力が論じられることは少ない。書店に並ぶ書物やITエンジニア向けのセミナーなどを見回しても,顧客リレーショナルマネジメント力に触れたものはめったにない。

 その大きな理由は,一般的に「プロジェクトが立ち上がった段階で,顧客との折衝は終わっている」と思われているからだ。本当にそうだろうか? システム開発の現場を思い起こしてほしい。プロジェクトの最初から最後まで顧客が余計な口をはさまず,ITエンジニアのやりたいようにやらせてくれることがあるだろうか?

 特に最近の顧客は,プロジェクトのあらゆるフェーズにおいて,高度,かつ複雑な要望を次から次へとぶつけてくる。ユーザー企業において,比較的単純な定型業務が減る一方で,非定型な業務が増えていることや,ITの進展に伴い,顧客のシステムに対する期待が過度に高まっていることなどが原因だ。

 また最近のユーザー企業を見ると,大規模な組織変更が頻繁に行われ,その結果,様々な立場の人がシステム開発に携わるようになるという現象が頻出している。ITエンジニアにとっては,ステークホルダー(利害関係)が見えにくい状況になってきたと言えるだろう。

 さらに成果主義の導入によって,様々な部署,もしくは個人の主張がぶつかり合うようになった企業も目にする。一見,相反するようにも思える様々な要望を取りまとめるのに苦労しているプロジェクト・マネジャーは多い。そうした状況において,プロジェクト・マネジャーにとって顧客リレーショナルマネジメント力の必要性はますます高まっている。

 そもそもプロジェクトとは,「一定期間にわたって一定の経営資源を用いて行われる,目的の達成を目指した計画」だと言うことができる。一度決めた目的がコロコロと変わるのは許されることではない。だが,プロジェクトを取り巻く環境は刻々と変化するので,「計画」は適宜それに応じて変更する必要がある。つまり,あらゆるプロジェクトは,「不確実性」を常に内包しているのである。この「不確実性」に対応し,コントロールできてこそ,初めて「プロジェクト・マネジャー」という肩書きにふさわしい仕事をしたと言える。

 そして,プロジェクトに「不確実性」をもたらす,最もやっかいな原因が顧客である。顧客はプロジェクトに対して様々な形で「攻撃」を仕掛けてくる。顧客からの場当たり的な変更でスケジュールが大きく変わってしまったり,方向性そのものがズレてしまうことは頻繁に発生する。また,そのことが原因でチーム内にきしみが生じた経験は,誰にでもあるに違いない。

襲いかかってくる顧客

 少し乱暴な言い方になるが,ここでは「顧客第一主義」,「お客さまは神様」という“あるべき論”は少し忘れて,顧客とは襲いかかってくる「敵軍」だと考えていただきたい。プロジェクト・マネジャーには,敵の攻撃からプロジェクトおよび自分自身と部下を守る責務がある。攻撃による被害を最小限にとどめ,プロジェクトを成功に導くためにも,プロジェクト・マネジャーには顧客リレーショナルマネジメント力が欠かせない。

 顧客から攻撃をしかけられたとき,あるいは,敵に攻撃をしかけるとき,とるべき作戦は相手の体制によって異なる。実際,筆者がプロジェクト・マネジャー向けのコミュニケーション研修を通じて出会った多くの優秀なプロマネたちは,顧客側の体制を何らかのモデルに基づいて認識し,その認識によって問題の発生を予測して対処していた。

 一方,キャリアの浅い発展途上のプロジェクト・マネジャーは,顧客の言動の1つひとつに右往左往し,問題が発生してから泥縄式に問題を解決しようとする。この差が,プロジェクトの成否を分ける大きなポイントとなっていることが多い。

 顧客からの「攻撃」を具体的にイメージしてもらうために,2つのケースを挙げてみよう。あなただったらどう対処するかを考えながら読み進めてほしい。

(次回へ)

梅村 正義 (うめむら まさよし) イプセ 代表取締役
1959年生まれ。関西大学商学部卒業後,日本リクルートセンター(現リクルート)入社。HRM室,組織人事コンサルティング室などを経て99年にイプセを設立し,代表取締役に就任。組織,人事,人材育成を中心としたコンサルティング活動を展開している。著書に「プロマネの野望」(翔泳社/鎗田 恵美,秋山進と共著)がある