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 両ケースとも,プロジェクトが終盤にさしかかった頃に顧客から機能不足を指摘され,トラブルになっている。豊富な経験を積んだ優秀なプロジェクト・マネジャーたちに,この状況に対する感想や,どのように対応すべきかを答えてもらった。ここではその代表として,X氏の意見を紹介しよう。

 まずケース1の場合である。

 「窓口担当のM氏は単なる“子どものお使い”に過ぎない。A氏はM氏とのやり取りについて,どんなにささいなことでも書面で残すべきだった。その事実と具体的な手順などが後ろ楯に伝わり,証拠として残るよう留意すべきである。

 またこの後に及んでO部長が現場を仕切るのはどうか。O部長は,“自分が調整する”と言っているが,おそらくうまくいかず,最後はすべての責任をA氏に押し付けるはずだ。O部長には“あなたは,実は現場のことをあまり分かっていない”ということを納得してもらう必要があるだろう。O部長と複数の工場長を集めた会合の場を設けてA氏がうまく仕切り,それとなく現状を把握してもらうのがよい」

 ケース2の場合はどうだろうか。

 「事前に,窓口となるW氏が部下や上司からどう評価されているのか,他の工場長とのコミュニケーションは取れているのかなどについて,もう少しリサーチすべきだったのではないか。

 トラブルが起きてしまった今は,社内調整ができる,S氏に代わる新しい後ろ楯を探すのがもっとも順当だと思う。具体的には,S氏と複数の工場の責任者を説得できる人物を探し出すことだ。その人を味方に引き入れて,乗り切るしかないのではないか」。

 X氏の考え方が正解だと断言することはできない。ここで着目してほしいのは,X氏に限らず優秀なプロジェクト・マネジャーたちは,2つのケースのように目の前に立ちはだかった「やっかいな事態」が同じでも,顧客の布陣が異なると,対応策を変えているということである。

 X氏の考え方が正解だと断言することはできない。ここで着目してほしいのは,X氏に限らず優秀なプロジェクト・マネジャーたちは,2つのケースのように目の前に立ちはだかった「やっかいな事態」が同じでも,顧客の布陣が異なると,対応策を変えているということである。

 優秀なプロジェクト・マネジャーは,多くの人が「顧客の布陣を見るモデル」を持っている。顧客には,プロジェクトを遂行するに当たって窓口となる人物である「発注窓口」と,プロジェクト全体の開始,完了,中止などを決定する責任者である「後ろ盾」が存在する。この発注窓口と後ろ楯の組み合わせが「布陣」だ。

 布陣を知ることで,プロジェクトに発生するトラブルをある程度予測でき,事前に手を打つことが可能になる。また,トラブル発生後の対策も立てやすくなる。

極めて少ない「理想型」

 筆者は,優秀なプロジェクト・マネジャーたちが,顧客の布陣をどのようなモデルによって把握しているかを調査し,それらをもとにモデルを作成した。それは,ほとんどの顧客は,「理想型」,「後ろ盾主導型」,「窓口暴走型」,「空中分解型」という4つのタイプに分類できるというものだ(図4)。非常にシンプルなモデルだが,この見方を身に付けることで,頭の痛い顧客が引き起こすほとんどの問題に対して,対応の糸口をつかめるようになる。それぞれのタイプについて説明しよう。

図4●「発注窓口」と「後ろ盾」に着目して分類した顧客の4つのタイプ
図4●「発注窓口」と「後ろ盾」に着目して分類した顧客の4つのタイプ
プロマネにとって一番望ましいのは「理想型」だが,実際には極めてまれなケースだ。よく見られるのが「後ろ盾主導型」と「窓口暴走型」。理想型よりも,トラブルの発生する可能性が極めて高い。最も避けて通りたいのが「空中分解型」で,プロジェクトが失敗したり,プロジェクトそのものがなくなってしまう可能性が高い

 プロジェクト・マネジャーにとって最も望ましいタイプが「理想型」である。理想型では,高いレベルの実行能力を持つ人が発注窓口となる。対人折衝や意見調整にも強く,会社からの信頼度も高い。また後ろ盾になる人は,窓口の仕事がしやすいような環境を整えることができ,経営陣からの信頼も厚い。ただし,顧客の布陣が理想型になる割合は,どんなに多めに見ても1割ぐらいしかないと言ってよい。

 「後ろ盾主導型」は,よく見られるパターンの1つだ。プロジェクトの3~4割はこのパターンだと言える。特徴は,小さなことであれ,大きなことであれ,実質的な決定を行うのはすべて後ろ盾だという点である。

 後ろ盾主導型では,発注窓口は自分の意見を持たないか,持っていても後ろ楯に反論できない。一方,後ろ盾はプロジェクトに積極的で,細部を十分に把握していないにもかかわらず,すべてを自分で仕切らないと気がすまない。

避けて通りたい「空中分解型」

 「窓口暴走型」もよく見られるタイプの1つである。現場の発注窓口にあたる人物が極めて意欲的で,難しいプロジェクトにチャレンジしようとする。しかしプロジェクトが会社の戦略の中できちんと位置付けられておらず,発注窓口が見切り発車的に動いて進めているというタイプだ。現場の状況をよく知っている有能な人材が,まだ状況を十分に認識していない経営陣をなんとか説得して少ない予算を取り付け,どうにかスタートにこぎつけるようなプロジェクトでよく見られる。

 窓口暴走型の発注窓口はプロジェクトには積極的で,一見,頼もしいが,独断で突っ走る傾向があり,全体観に欠ける。会社から十分な信頼を得ていないケースも多い。一方,後ろ盾はプロジェクトに積極的にかかわるつもりはなく,腰が引けている状態である。あくまでも名目上の後ろ楯であり,重要な場面では責任を回避しようとする。

 プロジェクト・マネジャーとして最も避けて通りたいタイプが,「空中分解型」だ。発注窓口は,たまたまプロジェクトの担当者にさせられてしまった人である。プロジェクトの意味や目的への理解が薄く,自分の意見もない。後ろ盾は窓口暴走型同様にプロジェクトに積極的にかかわるつもりはなく,腰が引けている。発注窓口と後ろ盾の両方が,重要な場面では責任を回避しようとする最悪のパターンだ。

(次回へ)

梅村 正義 (うめむら まさよし) イプセ 代表取締役
1959年生まれ。関西大学商学部卒業後,日本リクルートセンター(現リクルート)入社。HRM室,組織人事コンサルティング室などを経て99年にイプセを設立し,代表取締役に就任。組織,人事,人材育成を中心としたコンサルティング活動を展開している。著書に「プロマネの野望」(翔泳社/鎗田 恵美,秋山進と共著)がある