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マッキンゼー・アンド・カンパニーのプリンシパル 横浜 信一 氏 横浜 信一 氏

マッキンゼー・アンド・カンパニーのプリンシパル
ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。通商産業省を経て,1992年入社。企業のIT課題解決に関して幅広い経験を有する。

 日本企業のIT投資が復活している。政府統計によれば全産業平均で見たIT投資額は2004年に3年ぶりに増加に転じ、増加率は20%を超えた見込みである。こうした中、今度こそ効果の高い、正しいIT投資を行いたい、という意識は経営トップに共通のものである。

 マッキンゼーは、IT投資と生産性向上の関係を探るべく、1990年代後半の米国経済について分析を行った。その結果、非常に興味深い結果が明らかになっている。

 まず、全産業を約60の業種に分類してみると、90年代後半の生産性向上はわずか6業種によって牽引されている。6業種とは小売り、卸売り、証券・商品取引、電子機器、エレクトロニクス、通信である。この6業種によって、実に経済全体の生産性向上の95%以上が説明できる。

 この6業種がIT投資に積極的であったのかを検証するために、全60業種についてIT投資の伸びと生産性の伸びの相関をとってみたところ、全く相関していないという事実が浮かび上がった。IT投資が少なくても生産性が向上している業種もあれば、逆にIT投資を大きく伸ばしながら生産性があまり向上していない業種も存在する。

 では、これら6つの業種に一体何が起きたのか。それは規制緩和であり、新しいビジネスモデルの創造であり、競争激化である。典型例が小売業。ウォルマートがサプライチェーンの高度化による生産性の高い事業モデルを作り上げ、業界トップを独走した。競合他社もウォルマートに追い付くため、生産性向上に邁進し、業界全体としての生産性が高まった。

 類似の現象は他の5つの業種でも起きている。通信業界では、無線通信の規制緩和によって激しい競争が生まれ、業界全体の生産性向上につながった。一方、証券業界では、オンライントレードという生産性が圧倒的に高い新しいビジネスモデルが生まれ、その結果、デイトレーダーという新しい顧客層を生み出した。

 このような中でITが果たしたのは、ビジネスモデルを具現化するための道具としての役割である。すなわち、IT投資があって生産性が向上するのではなく、まずイノベーションや規制緩和があって、新しいビジネスモデルが生まれ、それを支える道具としてITを活用する。ビジネスモデルは競争を通じて進化し、ITを駆使して新たなビジネスモデルを支えていく。こうしたダイナミズムが存在した。

 つまりIT投資の質の向上とは、投資テーマを正しく選んでいるかということではなく、ましてや正しいベンダーや技術を選んでいるかという方法論でもない。競争優位をつくるための事業戦略を正しく設定しているか、それを持続的に実現し続けるための業務プロセスを考えているか――が鍵となる。事業戦略がまずあって、次に業務プロセス戦略があり、その先にIT戦略がくる。

 こうした分析ができていれば、IT投資のリターンは火を見るより明らかである。IT投資に定量効果があるかどうかを議論しているようでは、こうした根っこのところを押さえておらず、重箱の隅をつつくような数字合わせに陥っている可能性が高い。日本企業にとって、これからの数年が真の成長を遂げられるかどうかの正念場である。成長エンジンとして正しく機能するよう、IT投資を行うことが重要となっている。