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文・高畑 和弥(日立総合計画研究所電子政府プロジェクト・リーダー)

 WBS(Work Breakdown Structure)とは、プロジェクトで実施する作業を細分化し、階層構造で示した表のことです(表)。プロジェクトの工数をより正確に見積もると同時に、プロジェクトの対象範囲を厳密に定義することを目的に作成します。

 WBSの作成は、プロジェクト管理全体の基盤となる活動といえます。というのも、WBSを作成して見積もった工数は、進ちょく管理やコスト管理、人員配分計画を決める際の基本的なデータとして利用されることが多いからです。下の表は、最もベーシックな設計・開発段階のWBSです。これに、担当者名や予定した工数、実際に終わった工数、作業中かどうかなどの状態を書き加えて利用します。

 WBSを作成するメリットは、大きく2点あります。一つは、作業の抜けや重複を防ぐことが可能となり、工数の見積もりや進ちょく管理の精度が向上する点です。もう一つは、WBSを作成することによって、発注者と事業者などのプロジェクト関係者間で、成果物や作業の内容に関する認識の違いを解消することができる点です。

 WBSの作成にあたっては、以下のような作業を行います。

  1. プロジェクトの目的および成果物を決定
  2. その成果物を完成させるために実施しなければならない作業の洗い出し
  3. 洗い出した作業を可能な限り細分化

 ちなみに、作業を細分化した結果の最小単位を、「ワークパッケージ」と呼びます。下の表では、詳細設計、データベース設計、データベース環境設定など、階層5の作業が、ワークパッケージに当たります。作業実行に必要な資源、管理責任者などは、ワークパッケージごとに定義されます。

■表 設計・開発段階のWBS(Work Breakdown Structure)の例(一部)
階層 作業名
1 設計・開発
2   要件定義の確定
2   設計・開発実施計画の策定
2   設計
3     次期システム実現に係る基本的事項の調整・合意
3     個別設計
4       ○○サブシステムの設計
4       △△サブシステムの設計
4       □□サブシステムの設計
3     共通設計
4       機能設計
4       システム方式設計

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            ・
            ・
2   開発
3     プログラム設計
4       ○○サブシステムのプログラム設計
5         詳細設計
5         データベース設計
5         データベース環境設定
5         インタフェース設計
5         設計内容のレビュー、修正、ドキュメント作成
4       △△サブシステムのプログラム設計
4       □□サブシステムのプログラム設計

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資料:各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」より抜粋

 WBSが注目されるようになった背景としては、ITプロジェクトの管理がこれまで以上に難しくなっていることが挙げられます。技術の高度化、製品サイクルの短期化、他のシステムとの接続やデータ連携の増加などの要因によって、かつてのようにプロジェクトマネジャーが自らの知識や経験のみに基づいてITプロジェクトを管理することは難しくなっています。

 そこで、WBSやEVM(Earned Value Management)などの手法を活用して、プロジェクト管理の精度を上げる必要に迫られているのです。プロジェクト管理の事実上の世界標準で、米国の非営利団体PMI(Project Management Institute)が策定したPMBOK(Project Management Body of Knowledge)でも、WBSが採用されています。

 WBSのメリットは、事業者の側だけに限りません。ITプロジェクトの費用対効果の向上が重視される中で、発注者である政府や地方自治体にとっても、ITプロジェクトを「見える化」する必要性が一層高まっているからです。政府全体の情報システムの最適化や費用対効果の向上を目的として、「各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議」が2006年3月に策定した「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」にも、プロジェクトの進ちょく管理に関して各府省が実施しなければならない要項の一つとして、WBSの作成が盛り込まれています。

 また、経済産業省や神戸市など一部の省庁や地方自治体では、情報システム構築の入札時にWBSの提出を求め、その内容をベンダー選定の評価対象とする取り組みを始めています。例えば、このようにして選定したベンダーが提出したWBSと、それとは別に発注者側の政府や地方自治体が作成したWBSを突き合わせることができるようになれば、見積もりの妥当性を検討する際に大いに役立ちます。今後は、政府や地方自治体にも、WBSを作成・評価するためのスキルが求められるようになるでしょう。

 なお、WBSには各作業の順序やコストとの関連付けまでは定義できない、という限界もあります。従って、進ちょく管理には、作業の始点と終点を丸印(ノード)で作業を矢印(アロー)で示して開始から終了までの流れを表示するアローダイアグラム、コスト管理にはEVMなどの手法と組み合わせると、より効果的でしょう。