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文・清水惠子(みすず監査法人 シニアマネージャ)

 前回(実践編第3回)では「アクションプラン=行動計画」ついて説明した。行動計画を実行に移すにあたっては、まず、具体的に行動の対象とした業務について現状分析を実施することが必要となる。そこで、DMM(機能分析表)による業務分析について、川口市の例を交えて説明する。

 自らを知ることは、すべての行動を成功に導く最初にして最後の要因である。自らの問題点の分析については実践編第2回のSWOT分析で弱み分析として説明したが、これは、具体的な業務をその働きの流れに沿って分析したものではなく、実際の業務活動の結果として感じている不便などをまとめたものである。改善を実施するにあたっては、業務の現状での問題点を知り、その問題点を克服する必要がある。

■まず、自らを知る 業務の現状分析-- DMMの“ご利益”

 業務の現状分析の方法としては、いろいろな手段や方法が考えられるが、業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)では、EAの現状分析の手段としてDMM(機能分析表;政府のガイドランでは/機能構成図)とDFD(機能情報関連図)が挙げられている。今回は、このうちのDMM(機能分析表)の“ご利益”について述べてみたい。なお、DMMについては合わせて「EAを理解しよう」連載第3回も参照されたい。

 他の方法ではなく、なぜDMMを利用するのか。まず、DMMの3×3のマトリックスで構成された9つの枡の様式は、必ずしも機能分析のためだけの様式ではなく、情報の整理のための様式であるということだ。人間が一般的にひと目で見て理解できる限界がこの9つの枡であると言われている。つまり、情報を整理し共有するための表であり、その整理する対象の情報が、現状分析の場合は、業務機能と言うことになる。つまり、業務分析としてDMMを利用するのは、このひと目で理解できるという“ご利益”を享受できることにある。連載で取り上げている埼玉県川口市のEAの取り組みの現状分析の中で「見える化」が強調されているが、「見える化」はひと目で理解できることにより、促進される。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
導入編「自治体EAの導入方法」 > 3-2.自治体EA導入(その2):個別業務の改善
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/donyu/content03-02.html

 実際には、9つの枡の真ん中の枡は、業務の内容を表す名称として例えば「住民基本台帳」といった名称を記載する。このため、業務機能の数は8つに集約することになる。業務は複雑で8つにはならないと思われる方もいるであろうが、DMMを作成する場合にはトップダウンの視点で業務をくくり、8つに集約する。情報整理のためのツールとしてのDMMの“ご利益”は、業務機能を8つの枡に整理しなければならないところにある。つまり、意識するかしないかにかかわらず、8つに整理することにより、業務機能を集約していることになる。時には業務機能が8つに満たない場合もあるが、可能なかぎり8つにする検討を加えることにより、業務の漏れが無いかを確認することができる。

業務・システム刷新化の手引き(総務省)
トップページ > IV.資料編1 表記方法 > 業務分析の様式 > 機能分析表(DMM)
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/hyouki/gyomu/2a-2-dmm.html

 この集約の作業が実はBPRへの下地になる。つまり、8つに分類する過程で業務機能を整理し、どの機能が実際の業務の目的を達成するのに必要かを議論し理解することができてくる。つまり、文字通り現状の機能を分析し、整理していくことになる。これが“ご利益”である。

■なぜ機能で分類するのか--本来の業務機能以外の要素を排除

 業務を分析する際には、業務流れ図を作成し、その手順を追っていく方が分かりやすいと思う方が多いだろう。なぜ、EAでは機能のよる分類が登場するのか。それは作業手順を追っていくと、例えば、同じ住民登録の手続きでも出張所によって微妙に手順が異なるなど、何種類もの図を作成することになり、全体のまとめが難しくなっていくためだ。

 一方、機能は単に働きであり、それをどこの誰がやるかは問題ではない。DMMでは組織を記載しないので、組織の力関係など、本来の業務機能以外の要素が入り込んでくることもない。このため、業務を機能で分類すると、細かな手順の差の議論は、「現在の業務で行われている機能は何か」を抽出する段階でまとめられ整理されていくことになる。現状業務分析に参加した参加者は、機能を抽出し、分類した時に、どの機能がないとその業務は達成されないのかを知る事ができる。また、組織の枠にとらわれずに現状分析が実施されるため、トップダウンの視点での集約がしやすくなる。

■川口市の作業例--「システムの保守」は住民基本台帳の固有の業務か?

 実際の作業を川口市で見ていこう。対象となる業務の担当者がグループになって、自分の業務の内容をカードに書き、そのカードを元に業務を8つに区分していく。8つに区分するには、機能を表す名称を参加者で名づけて整理するが、8つの機能でその業務が達成されていることが明確になるように、より働きが分かるようにネーミングしていくことになる。

 DMMに対しては「ネーミングが他人から分かりにくい」「8つでは機能の記載漏れがある」といった意見がある。確かに自分が経験のない用語は分かりにくかったりする。住民基本台帳についても、「転入」や「転出」といった用語に馴染みがないと何を言っているのか思ってしまうだろう。その業務特有の用語はなじみに無い人には理解しにくい。しかし、少なくとも、その業務を担当する参加者は、用語を共有することが可能であり、住民基本台帳を扱う他の自治体の職員も「転入」「転出」といった用語は理解できるであろう。

 8つの数の制約は、時におもしろい現象を生むときもある。機能の数が少なく、DMMを作成するためにやや強引に8つに増やすときに、実際の業務機能自体としてはそれほどの作業ではないものが、独立した機能として抽出されることがあるこれは、その業務の担当者がその業務機能の重きを置いていることが明確になるからである。この機能をしっかりやらないと後で困るとか、この機能は重要だと考えていることが明確になる。逆に、機能の数が多く8つに集約していく時は、どの業務が類似の業務であるかを自然と担当者自らが分析していることになり、この分析の考え方は、BPRを進めていく上での素地になる。こうした現象も“ご利益”といえるだろう。

 川口市の住民基本台帳についての現状DMMを見ると、DMMの機能の記載に「システムの保守」についての業務分析が行われている。これは、住民基本台帳が手作業ではなく、IT(情報システム)を利用して作成されていることに対してDMMの作成参加者が強い意識を持っていることの現われといえる。システム保守は住民基本台帳の固有の業務ではなく、住民基本台帳業務を支援する支援業務として、別途区分するほうが、業務分析としては分かりやすい。とはいえ、現状分析の段階で業務に漏れがないようにすることは重要であり、参加者の意識が高いことを示している。なお、将来体系の作成では、この支援業務部分は削除されて基幹部分のみが記載されている。

 将来体系では、住民基本台帳作成に関する本来の業務は何かを、この現状のDMMからさらに絞り込んでいくことになる。業務の目的を達成するために本来必要な機能は何かが明確になることにより、付加的に追加されている業務についての考え方が整理できる。これも“ご利益”である。

 また、現状を記したDMMには本来の業務の機能でない手段を記載している場合もあるが、DMMでの記載を整理するには、一度DFDを作成することがお勧めである。住民基本台帳作成に必要な情報の流れと、機能の関係を整理すると、機能と手段の違いに気づくことになる。DMMとDFDの関係は相互にチェックをかけながら調整することになる。DFDについて理解すると将来体系への移行が理解しやすい。

 次回は、DFDについて記載する。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

みすず監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。