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 「中国やインドをはじめとするBRICs諸国の台頭は、アジアの経済地図を大きく塗り替えようとしている。グローバル化に対応できないでいる我が国は将来、急速に成長する国々の狭間で埋没してしまうであろう」。

 このような危機感を背景に、経済財政諮問会議が発表した『グローバル戦略』は、意外にも国外に打って出ることを推奨するものではなく、国内を改革しグローバル化に対応できる強い体質を作ろうと呼びかけている。同会議では、2010年に目指す国家のありさまとして、(1)「産業のフロントランナーとして世界をリードする国」(2)「国際社会において知的なリーダーシップを発揮する品格ある国」と定めている。つまり、この二つは現在の日本では実現できていない、と認識しているわけだ。これは社会を構成する個々の企業についても全く同じことが言えるのではないだろうか。

 例えば、企業規模で依然として世界第1位のIT売上高を誇る米IBMは、サーバー分野などで新技術を次々と提供し、これまでの多国籍企業からグローバルに統合された企業に形態を進化させるなど、産業のフロントランナーでもある。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やサービスサイエンス、コンポーネントビジネスモデルなどの提唱と推進において、IT業界でリーダーシップを発揮していることは、多くの人が認めるところである。IBMは常に時代のメッセージを出してきたといえる。

 翻って国産メーカーは、産業のフロントランナーであり、知的なリーダーシップを発揮していると胸を張れるところがあるだろうか。ないとすれば、経済財政諮問会議が危機感をもって訴えているように、自己変革をなし遂げ“開企業”をしなければならない。

 IBMはインドにおいて、03年に2785人、04年1万5296人、05年1万4046人を新規採用。今では社員数4万3000人を超える。3年で実に3万2000人も増やした。増員の主な内訳は、AMS(ソフト作成)関係が1万5036人増、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)関係が1万2352人増(主として買収したインド企業)、ソフトウエアラボ関係が2330人増、コールセンターなどグローバルサービスデリバリー関連が1970人増である。このインドへの集中を、IBMは自社のリソースシフトという自己変革によって実現した。具体的には05年に日欧米で約1万5000人をレイオフし、BRICsでその分を増強した。「05年に23%売り上げを伸ばしたBRICs市場の社員を3倍にした」と、サミュエル・パルミザーノCEO(最高経営責任者)は6月にバンガロールで述べている。

 インドの活用はIBMだけではない。米IT企業や他の産業も大挙してインドへの進出を図っている。たとえこれがブッシュ政権のロシア、中国をにらんだユーラシアへの布石の国策に沿ったものだとしても、日本の戦略なき投資がインド債券価格を押し上げているよりは、より実効性がある。国産メーカーは、このようなオフショア活用、あるいは成長市場へのリソースシフトを実行する能力を持っているだろうか。

 経済産業省が8月10日に発表した「人材マネジメント研究会」の報告書は、日本IBMの北城恪太郎会長が講演でしばしば指摘していた、国産メーカーの成果主義導入失敗を裏付けるものとなった。「コスト削減圧力対応のため成果主義の導入など人材への投資が削減され、企業・働く人の間でモチベーションや組織・チーム力が低下した」(同報告書)。つまり、人件費の変動費化には成功したものの、人材のパフォーマンス低下と多様な人材活用の遅れを生じさせてしまった。その結果、国産メーカーは外国人の登用を含めた多様な人材の融合や、社員の能力を発揮させる環境整備を競い合う次の段階にやっと気が付いたところだ。

 国産メーカーは、失った企業活力をBRICsの活用だけでなく、内なる国際化で復活を急がねばならない。「X年後に海外比率YY%」という類の成算なき話はやめよう。まず社員のエネルギーを解き放つ仕組みを創ることだ。