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 このコーナーで以前,「企業の決算情報を伝えるニュースはパターン化している」という話を書いたことがある(関連記事)。決算情報のニュースは増収か減収か,増益か減益かを伝えた上で,その理由を書くのが基本パターン。後は企業ごとのニュース・バリューに合わせて,部門別業績や来期の業績予想などの情報を加えるぐらいの違いしかない,と。そこでは「有価証券報告書を素材にしたIT関連企業の業績分析を検討しています」とも書いた。

 この「有価証券報告書を素材にした業績分析」だが,公認会計士の高田直芳さんに執筆をお願いしている「ITを経営に役立てるコスト管理入門」で,ここ数回に渡って,実際の決算情報に基づいた業績分析を掲載している。以前の記事で「検討しています」と表明してから,結構な時間がたってしまったが,かなり面白い内容になっていると思うので,この場をお借りしてご紹介したい。ここ2回ほどは,日立製作所と松下電器産業の決算情報を例に,両社の変動費と固定費,損益分岐点売上高などを分析していただいた。

 高田さんの連載では,公表されている決算情報から「回帰分析」というテクニックを使って,総コストを固定費と変動費に分解。「損益ポジション倍率」や「営業利益の弾力係数」などの指標を導き出している。

 損益ポジション倍率とは,損益分岐点売上高に対する実際売上高の倍率を意味する。これが1に近づくほど,採算割れのリスクが高まることになる。営業利益の弾力係数は,変動利益(限界利益または貢献利益とも呼ぶ)を営業利益で割った値。重厚長大産業のように固定費がコストに占める比率が高い企業は弾力係数が高くなり,逆に流通業のように変動費の比率が高い企業は弾力係数が低くなる。

 売上高に比例する変動費と違って,固定費はモノが売れようが売れまいが,会計年度内に一定額が発生する。このため売上高が落ち込めば,コスト全体に固定費の占める比率の高い,すなわち弾力係数が高い企業ほど営業利益が大きく落ち込むことになる。逆に売上高が伸びる場合は,弾力係数の高い企業では売上高に対する総コストの伸びが比較的小さいので,営業利益は大きく伸びることになる。

 記者として面白かったのは,決算ニュースの中でよく使われている「業績下ぶれのリスクが懸念される」といった表現について,高田さんが損益ポジション倍率や営業利益の弾力係数といった指標を使って,裏付けをとっているクダリである。「業績下ぶれのリスク」は,「(原材料の値上がりなど)コスト増の可能性がある」など,業績の先行きに不安要素がある場合にセットの慣用句のように使われている。こうした使い方も決して決して間違いではないが,定量的な指標を合わせて考えることで,「リスク」がどの程度のリスクなのか,下ぶれの大きさはどの程度のものになり得るかが,理解しやすくなる。

 速報性が重視されるニュースでは,時間的な制約があるため突っ込んだ分析は難しい。だが,少なくとも企業研究などでは,これらの指標を使って決算情報を時系列で分析することで,見えてくるものは少なくないはずだ。