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 前回は,「Web2.0の旗手」と評されることの多い検索エンジンを取り上げた。最近,Googleによる動画共有サービス「YouTube」の買収や新聞広告仲介ビジネスへの参入,KDDIとグリーの提携によるモバイルSNSの提供,ソフトバンクと米国最大のSNS「MySpace」の提携など,Web2.0型サービスをめぐる新たな動きが起きている。しかし,その一方でセキュリティリスクに関する議論も活発化している。

 ユーザーが情報発信者にもなるというWeb2.0型サービスの性格上,プライバシー/個人情報保護対策の問題は必ずつきまとう。Web2.0については,一方的な楽観主義や悲観主義に走ることなく,利便性とリスクの両側面からバランスよく見ていく必要がある。

 今回は,個人情報利用のメリットとリスクという観点から,マーケティング分野について考えてみたい。

人口減少と回収率低下が話題となった平成17年国勢調査

 2006年10月31日,総務省は平成17年(2005年)国勢調査の第1次基本集計結果を公表した(「平成17年国勢調査の結果」参照)。2005年10月時点の日本の総人口は1億2776万7994人で,前年10月の推計値に比べ約2万2000人減った。2006年10月の推計人口も約1万8000人減少の見込みで,日本の人口減少が鮮明になった。

 5年に1回実施される国勢調査の結果は,国内BtoC市場をターゲットとする企業のマーケティング部門にとって重要な基礎データであり,市場調査における標本抽出/母集団推計の基礎資料として欠かせない。そしてマーケティングの観点から,平成17年国勢調査で特に注目が集まったのが調査票の回収率である。

 2006年7月24日に総務省が公表した「国勢調査の実施に関する有識者懇談会報告」によると,平成17年国勢調査で調査票が提出されなかった世帯の割合は全国で4.4%である。平成12年(2000年)調査における未提出世帯の1.7%と比べて,2倍以上に増加している。

 総務省の「平成17年国勢調査の聞き取り調査等の状況及び「国勢調査の実施に関する有識者懇談会」における検討状況」によると,全国で最も未提出世帯の比率が高い都道府県は13.3%の東京都であった。他方,平成17年国勢調査結果の都道府県別主要指標を見ると,2000年~2005年の人口増減率は全国平均が0.7%で,最も高い都道府県は4.2%の東京都である。人口増加率が最も高い東京都で調査票の未提出世帯率も一番高いという事態は,統計学的に由々しき問題だ。

 雇用や消費,IT投資の動向を見ても,東京への一極集中が顕著になっている。それだけに,国勢調査の結果を基礎資料として利用する,企業のマーケティング部門にとっても気にかかるところだ。

個人情報保護対策はマーケティング部門の必須課題

 前述の「国勢調査の実施に関する有識者懇談会報告」では,回収率低下の背景・要因として,以下の6項目を挙げている。

  1. プライバシー意識の高まり
  2. セキュリティ意識の高まり
  3. 調査に対する理解や調査方法の周知が十分浸透していないこと
  4. 生活様式の多様化
  5. 居住形態の多様化
  6. 自治体などの地域コミュニティの弱体化等を背景とする調査員の確保の困難化

 これらを,第61回で取り上げた「個人情報保護に関する主な検討課題」と合わせてみると,個人情報保護に対する「過剰反応」の問題が浮かび上がってくる。

 国勢調査結果は,各種行政施策の基礎資料として利用され,GDP(国民総生産),出生率など主要な指標の推計に影響を及ぼす。これらの政府統計データは,企業でも基礎データとして利用されているから,国勢調査の回収率向上による精度改善のメリットは大きい。他方,国勢調査は国民を対象とする全数調査で,約83万人の調査員が関与するから,情報漏えいのリスクも大きくなる。個人情報の収集・利用によるメリットとリスクのバランスをどうとるかは,Web2.0が抱える課題と共通である。

 同じことは,市場調査などを通じて個人情報を収集・利用する,企業のマーケティング部門にも当てはまる。個人情報保護法の本格施行後,調査に対する協力率は低下している。個人情報管理体制の整備・運用ができていない企業では,調査依頼に対する顧客/消費者の「過剰反応」を招きかねない。個人情報保護対策は,マーケティング部門の必須課題でもある。

 次回も,マーケティングの観点から個人情報の利用を考えてみたい。


→「個人情報漏えい事件を斬る」の記事一覧へ

■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/