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 中国でビジネスを展開している日本企業の多くが経営課題の一つとして挙げるのが「市場や環境の変化に鋭敏に対応できていない」ということである。日本企業は、中国のビジネスについて業務の効率化が図られているか、不正は行われていないか、常に内部を監視する責任がある。そして適切でない状況が発生した時には、迅速に決断し、行動を起こすことが求められる。

 ここで重要になってくるのが、スピーディーかつ効率的に組織横断的な情報を収集するための仕組みである。以下では情報システムを例に挙げて、企業運営の観点から中国における体制について考えてみたい。

 総経理の経営判断をサポートし、中国での企業運営を支える情報システムとはどうあるべきなのか。それを考えるには、中国と日本における経営管理の違いを良く理解した上で、日本での情報システムと比較し、必要な要素を加えなくてはならない。中国における企業経営と情報システムを結ぶキーワードとして「内部統制」と「柔軟性」が挙げられる。

 内部統制は情報システム導入の目的の一つであると同時に、業務プロセス設計の方針としても掲げるべきものである。内部統制の重要性に関して日本でも意識が高まっているが、中国においては日本にもまして考慮すべきだろう。不正の入り込む余地ないシステムの設計を心掛けるべきである。その理由は以下の通りである。

社内不正が発生しやすい文化的・社会的背景

 中国は超資本主義社会であり、社員の会社への帰属意識が低いため、業務上もチームワークではなく担当者個人の判断で、個人の利益を優先して進められてしまうことが多い。もし業者との癒着により会社に不利益をもたらす取引が行われていても表面化しにくい。

 ある企業では、各従業員が申請した勤務時間を現場の上長が承認するプロセスを導入していたが、従業員と結託した上長が水増しされた虚偽の申請時間を承認し、過分な給与が従業員に支払われ続けていた。中国の労働法では超過勤務に対する賃金は通常日で通常賃金の150%、休日となると通常賃金の200%と高く定められているため、このような不正がまかり通ると人件費への影響は甚大なものとなる。このような不正を事後に発見するのは規模が大きい企業ほど難しく、未然に防止する施策が欠かせない。

業務プロセスの定着・徹底が困難

 中国の企業は年単位の労働契約に基づいて従業員を雇用しているため、人材の流動性は必然的に高くなる。その結果、各担当者への業務プロセスの定着と徹底が困難になるケースが多い。

情報の信頼性への認識不足

 中国では企業の会計情報の改ざんが多数報告されている。時折耳にする言葉に『不逃税不発財』、つまり「脱税なくして豊かにならず」というのがある。儲けるためには、取引データをいじってでも税金の支払いを減らそうとする人々がまだ多い中国の現状を表している。

 小売業など現金取引が行われるところでは、売り上げが上がっているのに発票を切らず、売上高を実際より少なく見せる操作が行われることも多い。情報開示(ディスクロージャー)に関する法制度も十分整備されていない中、担当者のみならず経営層も含めた企業全体として、会計情報の信頼性が如何に重要かという点の認識水準はまだまだ低い。 

情報流出の危険性

 日本では2005年4月より個人情報保護法が施行されたが、中国では情報漏えいを防止する法規制は皆無に等しい。それに加えて、離職率が高いので人の出入りに伴って社内機密情報の流出のリスクは高くなる。各企業単位で顧客情報や従業員情報などの社外流出を未然に防ぐ方策が必要となる。

情報の可視性が低い

 前述のような背景から、経営層にとって、必要な情報を必要なタイミングで取ることは非常に難しい。特に、担当者が不正を隠そうと意図的に情報を操作した場合、実態は全く見えてこなくなる。業績評価指標(KPI)を設定したとしても、現状がどうなっているか把握できないため必要な対応を取ることができない。

 次にもう一つのキーワードである「柔軟性」が必要になる理由を述べる。「内部統制」だけを念頭において情報システムを構築すると、融通の利かないガチガチの仕組みになってしまう可能性がある。

朝令暮改の法改正

 昨今の急激な経済成長と相まって、これまで整備が遅れていたような社会的・法的インフラも急速な勢いで構築されている。上海の社会保険制度を例にとると、これまでは四金(養老保険・医療保険・失業保険・住宅公積金)を従業員負担または企業負担として支払うことが義務付けられ、各企業はそれら社会保険料を源泉徴収して納付する必要があった。2004年7月、「上海市工傷(労災)保険実施弁法」が施行されたことにより、四金とともに各企業は従業員給与の0.5%に当たる公傷保険料を負担し、納付することになった。

 最近では貿易権(輸入権)を持つ商業公司が外資独資で許可されるなど、企業の進出形態までをも左右する法律が公布されている。会計制度も整備が進められており、外商投資企業に対しては2002年より国際会計基準をベースにした「企業会計制度」が適用されるようになったが、税制についてはまだ改革検討段階であり、今後様々な変更が予想される。顧客が求めるサービスレベルも日に日に高まっている。法規制の変更や市場の変化に対し、企業としては常にアンテナを配し、柔軟に対応しなくてはならない。

地域ごとの制度格差

 地域ごとに制定している法制度が異なるのも中国の特徴である。日本では共通化・標準化の対象となるような人事管理業務でさえ、中国では地域ごとに違う対応が必要となる。例えば社会保険制度は、地域ごとに納付が義務付けられている項目が異なっている。上海では五金(養老保険・医療保険・失業保険・公傷保険・住宅公積金)の納付が義務付けられているが、揚子江をはさんだ対岸の南通では六金(養老保険・公傷保険・生育保険・失業保険・医療保険・住宅公積金)の納付が義務付けられている。それぞれの算出基礎・料率も異なっている。