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「通信事業とコンピュータ事業のバランスの良さがNECの強み。これを生かして存在感を一層高めていく」。今年4月に就任した矢野薫社長は、こう言い切る。背景には、今後数年は次世代ネットワーク(NGN)を軸にした情報通信技術の大変革期になるという読みがある。変革期をチャンスとして、自社の製品やサービスの拡充を急ぐ。(聞き手=田口 潤)

4月の就任以来、「NGN(次世代ネットワーク)」を事業戦略の中心に掲げていますね。

矢野 薫氏
(写真:山西 英二)

 IPネットワーク上に、固定/携帯電話、放送、企業ネットワークなどあらゆるサービスを載せるNGNは、数十年に一度の技術的な変革です。単に通信回線が太くなるとか、映像とデータを同時に送れるとか、そういったレベルの話ではありません。

 例えば、サーバーで処理していたことをネットワークが担うようになるなど、コンピュータと通信網の役割分担が変わります。「ITとネットワークがコンバージェンス(融合)する」と、そんな風に言ってもいい。そうすると、「売り上げの締めの時間帯にだけ、ネットワークの帯域を太くする」といったことが、ITとネットワークを連携させて自由に、かつ安価に可能になるわけです。当然、情報通信機器やソフトウエアも今までとは違うものが必要になります。

それはNECにとって大きなチャンスだと?

 ええ。ITとネットワークがコンバージェンスする時代には、その両方の技術をバランス良く持っていることが有効です。富士通や日立製作所に比べても、また海外の企業を見ても、当社ほど両方のバランスがいい会社はないと思いますよ。

NGNを視野にマイクロソフトと提携

 実は来年は、当社の社長、会長を務めた小林宏治がC&C(Computer & Communication)を提唱してから30年になります。ちょっと大げさかもしれませんが、時代がようやく我々に追いついてきた(笑)。

 このチャンスを生かせるように、体制強化も図っています。例えば企業向けソリューションを手掛ける事業部では、ネットワーク製品などの機器からコンサル、SI、アウトソーシングまで一括で提供できるようにしました。

 5月24日に米マイクロソフトと包括提携したのも、その一環です。当社のIP電話サーバーと、マイクロソフトの「Office」やメッセンジャー・サーバー「Live Communications Server」を連携させることを発表しました。

 提携は、こちらから声をかけたんですよ。圧倒的なシェアを誇るマイクロソフトと手を組めば、それをきっかけに世界の企業に出ていける。そこにはPBX(構内交換機)や小規模なキーテレホン・システムの市場もある。組み合わせで新たな視界が開けてくると考えています。

オープン化でIBM非互換が強みに

SIソリューション事業についてはいかがですか。例えば、地銀向けパッケージ「BankingWeb21」の事業は苦戦していますが。

矢野 薫氏

 BankingWeb21は頑張って続けます。もともと金融系は弱く、業務ノウハウの蓄積も少なかったから、多少の問題があるのは当然でしょう。しかし必ずNECの時代が来ると信じています。それに向けて地道に一歩一歩進んでいくということです。

 我々はメインフレームで、IBM非互換の路線を採りました。それ自体は誇れることですが、しかし大きなシェアは取れませんでした。特に金融はね。

 ただ、だからこそオープンの時代が来たときに、早く手を打てたという面があります。失うものが少なかったから、ミッション・クリティカルなシステムをオープンな技術で一生懸命やってきた。それが今、ものすごく効いています。他社のメインフレームのシェアを奪うことを原動力に頑張ったら、弱みが大変な強みになりました。iモードのプラットフォームなど通信事業者向けのオープン・ミッション・クリティカル・システムを手掛けた経験も、大変な強みになっています。

今年度はSIソリューション事業の利益率8%を目標にしています。

 昨年度は7%でしたが、その前年度は8%でした。ですから心配はしていません。それに、それをやれるだけの技術力やプロジェクトマネジメント力もあります。

メーカーとしての「物づくり力」はどうでしょう。HPから大型UNIXサーバーのOEMを受けているなど、ハードウエアに関してNECの存在感が弱くなっていると思えますが。

 若干、誤解されているのではないでしょうか。当社のパソコンのシェアはトップ、IAサーバーだって10年連続トップです。スーパーコンピュータでは、実効性能世界一を取った「地球シミュレータ」もあります。NECの実力が過小評価されていると思いますね。

 もちろん、次の手も打っています。この夏には一皮向けたサーバー、ストレージ製品を発表します。詳細はお話しできませんが、請うご期待です。

 実際、現場は頑張っています。NECは5年以上前から、岩城生産システム研究所からトヨタ生産方式の指導を受けている。富士通はここ3年ぐらいでしょう。電機業界では富士通がトヨタ生産方式の先駆けみたいな言い方をしているけれど、私は、NECのほうが取り組み期間も長く、結果も出ていると思っています。実際、我々の工場は日々進化し、物づくりにこだわっています。ぜひ現場を見てほしいですね。

グループの求心力を高めていく

もう一つの物づくりであるソフトウエアについては、いかがですか。

 ソフトウエア事業の売上高は現在、2000億円程度。3年後をメドにこれを3000億円にする目標を立てています。

 確かに当社のソフトウエアは、専業メーカーである独SAPの製品などに比べると小粒感は否めません。でも、ヒット商品を作ろうという意気込みで今、一生懸命やっていますよ。例えば中堅・中小企業向けには、統合業務パッケージ「EXPLANNER」があります。これをNECグループ全体でかつぐのが今年の方針です。これまでNECは、社内で競合するようなパッケージ・ソフトをあちこちで勝手に作ったりして、どうも求心力が足りなかった。これを変えていきます。

 ただ大企業向けの統合業務パッケージは、SAP製品を中心に販売します。SAPに強いアビームコンサルティングがありますから、同社との連携で攻めようと思っています。この分野でナンバーワンをとるつもりです。

難しいことを承知でお聞きしますが、大企業向けのソフトウエア製品なども自社開発する考えはありませんか。

矢野 薫氏
NECの魂はメーカー
「物づくり」にこだわっていく

 顧客の要望もありますし、当社は基本的にシステム・インテグレータですから、全部自社製品で固めるのは無理だと思います。また歴史的に、自社製品だけではカバーしにくい領域があるのも事実です。

 ハードウエアの話に戻りますが、例えば私が手掛けていた通信機器分野でいえば、ルーター製品でNECは完全に出遅れてしまいました。最初に圧倒的優位なポジションを築いたのは、マルチプロコトル・ルーターを手掛けた米シスコシステムズです。

 当時のルーターは複数のメインフレームの通信プロトコルをサポートしなければなりませんでした。しかしIBM産業スパイ事件の後遺症でリバース・エンジニアリングなどに非常に神経質にならざるを得なかった。我々はある意味、手足を縛られた状態で、マルチプロコトル・ルーターに参入できなかったのです。

 結局、私は15年前にシスコの本社に行き、シスコの機器にNECのロゴを付けて日本で販売する契約書にサインをしました。言っても仕方のないことですが、当時のルーターのプロトコルがTCP/IPだけですんでいたら、事情は違っていたでしょう。

 しかしNECの魂はメーカーです。特徴あるハードウエア、ソフトウエアを作らなければ存在している価値がないぐらいに思っています。そこで先ほどのルーターに関しても、2004年に日立と一緒にアラクサラネットワークスという会社を作り、仲間と糾合して巨人と戦おうとしています。

富士通など、これまでNECが提携していない国内企業も含めて水平連携するような考えはいかがですか?

 携帯電話などの世界ではしばしば、その必要性が言われています。ただ、正直、難しいところがありますね。

 携帯電話は今、世界のトップ5社がシェアの80%ぐらいを占めています。日本のメーカーを全部合わせても10%に届かない。でも各社とも事業をやめません。それは携帯電話が、人間とユビキタス・ネットワークのインタフェースになるからですよ。つまり「ユビキタス・コンピュータ」、あるいは「ウエアラブル・コンピュータ」ですね。そう定義した途端、みんなやめたくなくなります。

 ユビキタスの世界は、すぐそこに見えています。しかも携帯電話はC&Cの延長にある。なのに投資家は、「矢野という社長は、投資効率の悪い携帯電話や半導体に執着している」と言います。しかし半導体事業についても、お客さんはNECのシステム事業と共通の場合が多い。例えばトヨタ自動車は、ITネットワークのお客さんだし、半導体のお客さんでもある。トヨタからうちの半導体を見ると、単純な半導体メーカーではなく、その後ろにソフトウエアの技術、ハードウエアの技術があるところを非常に高く買ってくれている。私からすれば「やめるなんて冗談じゃないぞ」という感じです。

最後に、IT分野に対する学生の人気や関心が低下していることについてはどうお考えですか。

 最近、IT業界を志望する学生が減っていると聞きます。原因としては、労働状況の厳しさが挙げられますが、これはプロジェクトマネジメントの標準化などにより徐々に改善しつつあります。むしろもっと大事なのは、夢がある職場にすることです。

国家プロジェクトで学生に夢を

 今、例えばエンジニア志望の学生は、「何となく夢がある」という理由でロボット事業などに流れてしまう。NECでいえば宇宙事業などですね。

 しかし、こうした事業の規模は小さい。例えばSIやサービスには、もっとたくさんの人が必要なのに「夢がない」と言われます。デファクトや世界に冠たる製品をもっと作っていかなければなりません。

 そんな中で、経済産業省が次世代の検索エンジンをナショナル・プロジェクトとして開発しようとしています。実は当社も、関係各所に相当働きかけた発起人の一社です。もちろん米グーグルの後追いでは意味がない。我々はWebの情報だけではなくて、例えば映像の情報も検索できるエンジンを作るべきだと働きかけています。

 ほかにも世界最高速の、ペタフロップスのスーパーコンピュータを開発するプロジェクトも動き出しました。こうしたプロジェクトに学会を巻き込み、学生を育てていかなければなりません。

矢野 薫(やの・かおる)
NEC 代表取締役 執行役員社長
1966年東京大学工学部電子工学科卒業、NECに入社。通信機器の開発に約20年間従事する。85年11月にNECアメリカ社に出向し、北米での通信機器の開発・販売を担当。99年6月常務取締役、2004年6月副社長に就任。06年4月、金杉明信社長が病気療養のため退任し、社長に就任した。1944年生まれの62歳。