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 各地で路線バス事業の見直しが進む。過疎地では民間バス路線の廃止が相次ぎ、自治体が肩代わりして再出発する例が多い。それも市町村合併で再度の見直しを迫られる。大都市の公営バスでも路線の見直しが始まった。札幌市は全路線を民間に委譲した。横浜市営バスは今般17路線を廃止し、2年後にさらに13路線を廃止する。各地で進むバス事業の見直しの背景には乗客の減少がある。経済原則にあわせた見直しは不可欠だが、路線バス事業には福祉の性格もあり改革は簡単ではない。

■民営化しても赤字の場合--合理化の努力は重ねたが…

 バス事業には直距離、観光、路線の3種類がある。前者2つは普通のビジネスと変わらない。バスは鉄道と違い設備投資が軽く需要にあわせた伸縮が自在だからだ。だが路線バスは違う。住民、特に弱者の日常の足であり公共性が強い。そのため民間では合理化や不動産や売店などの収入補填で何とか維持してきた。だがそれも困難となり路線廃止が相次ぐ。

 路線バスはおそらく現代人のライフスタイルに合わない。決まったた時間にバス停とバス停だけを運行するというサービス形態に限界がきている。遅れるうえに運賃も安くない。便利さを重視し、急ぐ人はマイカーやタクシーを使う。高頻度で次々やってくる幹線を除けば維持は困難だ。ビジネスとして成り立たない場合、答えは二つしかない。一つは「バスは福祉」と割切って税金を投入する。もう一つは昔ながらのバスの形態を捨てる。福祉タクシー、デマンドバス、住民ボランティアによる運送サービスなど別の手段を用意する。

■公営バスをどうするか--まずは路線別の利用実態と収支の情報公開を

 公営バスはどうか。合理化は大幅に遅れている。特に名古屋、大阪、京都である。公務員の身分が制約となり大幅な賃下げや人員整理ができない。加えて「市民の足」論を隠れ蓑に旧態依然の労使関係が温存されてきた。その結果、公営バスの職員賃金は民間バスの2倍弱にもなる。例えば大阪市などには依然、年収1000万円を超える運転手が多数いる。路線の廃止以前になすべきことは明らかだろう。民間委託の拡大や民間への路線譲渡が必須だ。

 その上で別途やるべき作業が、路線別の利用実態と収支の情報公開である。分析すると路線は3つに大別できる。第1は民間並みの人件費化もしくは民間譲渡すれば黒字化できる路線である。通勤通学路線など意外に多い。これは「青色」路線と呼ぶ。単に合理化すればよい。

 第2は青色路線並みの合理化だけでは赤字だが需要喚起すれば残せる路線だ。これは「黄色」路線とし社会実験をする。まず沿線住民の意識を喚起する。自治会に回数券を買ってもらう。さらに各種会合を開き「バスが廃止される」「不動産の価値にも影響する」といった危機感を喚起する。その上で「7時から20時まで一時間に1本、料金300円」の運行形態に移行し様子を見る。行政側が廃止を一方的に通告すれば住民は反発する。だが現実は住民が利用しないから赤字なのだ。だとすれば真の需要を喚起し、結果を公表する。福祉的利用が多ければ税金で赤字を補填して維持し、それも限られるなら廃止する。

■バス以外の形態の追求--お互い補完し合い全体でスケールメリットを出す

 さて、黄色路線の社会実験を経て廃止となった路線、つまり「赤色路線」はどうするか。過疎地や郊外の場合は福祉の視点からの代替策が必要だ。例えばデマンドバスや福祉タクシーがある。例えば過疎地の場合、地元に住民と行政が共同でNPOを設立し、そこがマイクロバスと運転手を保有する。新規投資の必要はない。旅館や結婚式場、自動車学校、さらに私立の幼稚園や工場、建設会社、そして役場が送迎用のマイクロバスや運転手を保有している。それらを集めてプール化する。土日は役所や工場のバスは遊んでいる。旅館や冠婚葬祭業者は逆に平日に余裕がある。お互い補完し合い全体でスケールメリットを出す。余力でデマンドバスを走らせる。車両と運転手が足りない場合は予めタクシー会社と契約して代行を依頼する。差額は福祉と割切って行政が補填する。

 バス事業のあり方は、交通局など事業者任せだけでは答えが出ない。まずは路線別の収支実態を全面情報公開する。路線図を収支別に青・黄・赤に塗り分けて新聞の折込で配るくらいの工夫で住民の危機感を喚起する。その上で事業者と利用者、そして行政が選択肢を出し合って話し合うべきだ。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。