PR

 マイクロソフトは,まもなく発売する「the 2007 Microsoft Office system(以下,Office 2007)において10年振りの大変革に踏み切る。ではこの10年間,マイクロソフトは何をやってきたのだろうか。Officeの「失われた10年」を振り返ると,なぜOffice 2007でユーザー・インターフェース(UI)を刷新したのか,その理由が見えてくる。

 結論を先に述べておけば,マイクロソフトはOffice 2007から,UIに関して「トップダウン方式のテンプレート至上主義者」になった。これまでのようにボトムアップで機能をあれこれ追加してもユーザーの迷惑になるだけだとようやく悟ったのである。

「Office 97」で現在の姿に

 現在のOfficeの姿は,1997年3月に発売された「Office 97」でほぼ完成されたといって間違いない。「完全32ビット化(Windows 3.1対応の取りやめ)」「ファイル・フォーマットの変更」「Word/Excel文書のHTML形式での保存」「WordやExcelファイルへのハイパー・リンクの埋め込み」「文書ファイルに対する更新履歴の記録」「マクロ言語のVBA(Visual Basic for Applications)への完全移行」「製品ラインアップへのOutlookやFrontPageの追加」「Officeアシスタント(イルカなど)の追加」---これらがすべて,Office 97の新機能であった。

 思えば10年前,マイクロソフトは日本語ワープロ首位の座を,ジャストシステムの「一太郎」と激しく争っていた。当時,「罫線を多用した文書が好きな日本のユーザーが支持するのは一太郎であり,Wordではない」とよく言われたものである。

 紆余曲折の末,マイクロソフトはジャストシステムに勝利したが(注1),それはOffice 97がジャストシステム製品を圧倒したからで,Wordが一太郎に勝ったわけではない。今でも「罫線を多用する文書用のワープロ」としてWordが認められたとは言い難い。日本のユーザーの多くは,罫線機能付きワープロとしてExcelを使い始めたのである。

 画面表示と印刷結果がなかなか一致しない「表計算ソフト」であるExcelが,どうしてワープロとして使われだしたのだろうか。その源流も,Office 97にたどることができる。Office 95(Excel 95)までは,Excelのセルに入力できる最大文字数は255文字に過ぎなかった。それがOffice 97(Excel 97)で,1セル当たり最大3万2000文字が入力できるようになった。Excelが今のような「万能ワープロ」になったのも,Office 97のタイミングだったのである。

停滞するOfficeの進化

 Office 97における変化と比べると,その後の「Office 2000」や「Office XP」,「Office 2003」の進化はあまりに小振りである()。

表●Office 2000/XP/2003の主な機能強化点
製品名発売時期主な機能強化点
Office 2000 1999年7月発売 ・メニュー・バー/ツール・バーの表示が最小限に抑えられる
・Wordで書式を自動で変更す「オート・コレクト」
・Excelの表を自動的に拡張する「リスト・オート・フィル」
・タスク・バーのボタンでファイルの切り替えが可能に
・HTML形式での保存機能の強化(ウィザードの廃止)
・クリップ・ボードに最大12個のデータを蓄えられる
・フォント名が実際のフォントで表示される
Office XP 2001年6月発売 ・作業内容に合ったタスクを表示する「作業ウィンドウ」
・スマート・タグ
・アクティベーション(ライセンス認証)
・インターネットからのクリップ・アートのダウンロード
・Officeアシスタントを標準で非表示に
・ナチュラル・インプット
・「SharePoint Team Services」の登場
Office 2003 2003年9月発売 ・XMLフォーム作成ツール「InfoPath」の追加
・タブレットPC用ソフト「OneNote」の追加
・XML形式での文書保存
・Wordの「縮小表示」
・Excelの2つの表が動じスクロールする「並べて比較」
・Outlookのプレビュー画面のレイアウト変更

 Office 2000には,「画面下のタスク・バーに,ファイルごとのウインドウが表示される」「クリップボードに最大12個のデータが格納できる」といった小粋な機能強化があった。しかし,「ツールバーやメニュー・バーに最小限の項目しか表示しない(メニューをすべて表示するためには矢印マークのクリックが必要)」「Wordで『(1)』などの行頭番号を自動入力したり,行頭に1文字分スペースを入れた場合にそれをインデントとして自動設定するオート・コレクト」といった,ユーザーにとってはお節介とも言える新機能が目立ち始めた。

 特に,「メニューが増えすぎたので見えなくしました」と言わんばかりのメニュー・バーの仕様変更は,Officeの機能追加が「後ろ向き」になりだしたことの証拠と言えるだろう。後ろ向きな機能追加は,Office XPでも目立っていた。

前バージョンの機能を否定する新バージョン

 例えばOffice XPでは「スマートタグ」という新機能が追加されたが,これがユーザーにどう認識されたか,当時の「日経Windowsプロ」の記事(2001年7月号)から振り返ってみよう。

 日経Windowsプロ誌はまず,Office 2000の反省点を次のようにまとめる。「Word 2000の『オート・コレクト』は,ユーザー入力の内容を解析して,書式を自動で変更する機能だ。本来は便利なはずの機能だが,ユーザーの意図に反して動作し,使いにくさを感じることがある」

 その上で同誌は,Office XPのスマート・タグをこう評価する。「Officeアプリケーションが備える様々な機能は,便利な一方で,ユーザーの意図に反した動作をすることも少なくない。Wordのオート・コレクト機能が典型的だ。Office XPでは,こうした自動処理機能が働いたときに,その場で処理をキャンセルしたり,別のオプションを適用したりできる『スマート・タグ』機能を搭載している」

図1●Office 2007で廃止されたOfficeアシスタント
 つまりOffice XPのスマート・タグは,「Office 2000で追加された自動入力機能を,簡単に無効化できる機能」として認識されたわけだ。ちなみに悪名高きイルカこと「Officeアシスタント」も,Office XPからデフォルトで表示されなくなった。さらに言うと,Officeアシスタントは,Office 2007で完全に廃止される。Office 2007の利用者は,「イルカ」にも「冴子先生」にも会えなくなった(図1)。

 新機能を追加しては次のバージョンでその機能を否定する。こういった動きを表現する適切な言葉がある。「マッチポンプ」である。

 Office XPには,そのときの作業内容に適したタスクを画面右に表示する「作業ウインドウ」や,「インターネットからクリップアートをダウンロードする機能」といった新機能があったが,ほとんどのユーザーには「アクティベーション(ライセンス認証)が始まったOffice」としか認識されていないのではないだろうか。また,Office XPから搭載されたOffice用の新IME「ナチュラル・インプット」は,Office 2007で姿を消す。

新機能はもはや判別不能に