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Network Summit 2006では,総務省総務審議官の有冨寛一郎氏,グーグル代表取締役社長の村上憲郎氏,堺屋太一氏,ジャーナリストの嶌信彦氏(講演順)という4人の特別ゲストを迎えた。ネットワーク業界のトップとは違った視点で,示唆に富んだ講演となった。

 1日目の基調講演には,総務省の有冨氏が登場した。演題は「21世紀のユビキタスネットワーク社会実現に向けて」。その中で有冨氏は,“ユビキタス・エコノミー”の実現に向けて,電話の時代とは異なるIP時代ならではの競争政策が必要だと強調した。

IP時代にふさわしい競争政策を

有冨 寛一郎氏 総務省 総務審議官

 有冨氏はまず,日本の情報通信の現況について分析。これまで進めてきた「e-Japan戦略」によりインフラ面は大きく進展したものの,産業界でそのインフラを十分に使いこなしていないことを指摘した。「米国のブロードバンドは500kビット/秒程度にもかかわらず,GoogleやYahoo!など大きな産業が花開いている。それに比べて,100Mビット/秒の日本はいまだに単なるインフラどまりだ」。

 そのうえで,今後の日本が目指すべき姿を「ユビキタス・エコノミー」と名付け,幅広い一般利用者が能動的にICT(information and communication technology)を使いこなすことによって,ライフスタイルの本質的な変化と社会構造の改革を成し遂げていかなければならないとした。

 そのために総務省が果たすべき役割の一つが,IP時代に即した制度設計。NGN(next generation network)の姿が見えてくる2010年を目標に新競争政策に取り組む考えを示し,具体例として先ごろ公表した「新競争促進プログラム2010」を紹介した。

「わくわく感」が技術力の源泉

 1日目の午後には,グーグルの村上社長が「情報検索エンジン,Googleの考え方」という題で特別講演。Googleが何を考え,何をやろうとしているのかを紹介した。

村上 憲郎氏 グーグル 代表取締役社長

 村上氏は,「世界中の情報を整理して,世界中の人がアクセスできるようにする」というGoogleのミッションを繰り返し強調した。

 さらにGoogleを支える技術力の源泉にも言及。それは,世界中から優れた技術者を集めていることだという。「リソースが無尽蔵にあれば技術者は思いも寄らないサービスを開発する。世界最大規模のインフラを与えられた技術者は,日々わくわくしながら課題に挑戦する」。そしてこの話が技術者の間に広がり,さらに優秀な技術者が集まってくる。このサイクルが,技術力という強みを生み出しているとした。

 また村上氏は,Googleが既存の広告モデルを破壊するという誤解を払拭したいとも訴えた。「日本の広告はおよそ6兆円の市場規模だが,インターネット広告はうち約4%。さらに我々のようなコンテンツに関連して表示する広告はその3分の1に過ぎない」。ただし「AdSense」の仕組みはインターネット以外のメディアにも広げていく意向を示した。雑誌の編集上ですき間ができてしまったときなどに,Googleが記事に関連する広告を出すといった例を示した。

情報に豊かさがない今の日本

 1日目の最後を特別講演で締めくくったのは,森喜朗内閣の時代にIT担当大臣を務めた堺屋氏だ。演題は「21世紀を勝ち抜く企業の情報戦略」。だが堺屋氏の口からは,最初から厳しい言葉が飛び出した。「日本は世界で最も情報に貧しい国家」だと言うのだ。

堺屋 太一氏

 堺屋氏はまず,「日本はインターネットが発達して情報の発信数が増えたものの,情報に豊かさがない」と指摘した。日本では同じ情報が何度も流されるだけだというのだ。その理由は,情報が一方向からしか流れないからだという。

 具体例として挙げたのは少子化問題。他の先進国と比べて男性の権利が強く,女性が弱い国ほど少子化が進んでいるという結論が導き出されることがあるが,これは正しくないという。「官僚はOECD(経済協力開発機構)24カ国に限って,自らの権限を広げるのに有利な数字しか出さない。さまざまな情報が役人にコントロールされていて,別の情報が入ってこない」と苦言を呈する。「官僚情報,東京情報,同業情報,この三つに依存している限り情報は貧困になる。これを打ち破らなければならない」。

 こうした時代の中で,企業経営に大切な視点の一つに大きな数で観察する「大数観察」を挙げた。「マスコミが発達した世の中では事実よりも,“目立つ”事柄で世論ができる。しかし経済は目立ったことだけでは動かない。一番多数のところ,平均値または中央値で動く」。そのために堺屋氏は,毎月約3000種の統計を見ているという。「統計を見ると平均的な内容が分かるようになる」とアドバイスした。

時代の感性とITをうまく結び付けろ

 2日目には,ジャーナリストの嶌氏が「ITと感性が変える21世紀」と題した基調講演を行った。嶌氏は,「21世紀は消費者が起点となって市場を主導する。それに合った戦略を実現する際に必要な道具がIT」と述べた。

嶌 信彦氏 ジャーナリスト

 嶌氏は,消費傾向の変化として男性や企業が消費を主導していた20世紀から,女性やシニア世代が主導する21世紀へと転換していると指摘。「モノは既に十分にある。価格や性能だけでは売れない。カギになるのは安全や安心,住みやすさなど。こういった消費を主導しているのは女性だ」。

 消費の傾向をうまくつかんだ具体例として嶌氏は,生地の染色を手がけてきた福井県のセーレンを紹介した。1889年に設立された同社は,もともと和装の生地染色を手がけてきたが,1980年代には経営的に苦しい状況に追い込まれていた。

 そこで同社は,「Viscotecs」と呼ぶ染色加工とITを組み合わせたシステムを構築したのだという。これを使えば1677万色の生地の生産ができる。しかも小ロット生産が可能で,1着ごとでも200万色ぐらいの服が短時間で納品できてしまう。これが消費者起点の昨今の傾向とマッチし,同社は復活。2004年の売上高約800億円のうち,自動車関連の内装が47%などというふうにビジネスモデルが激変したのだという。

 嶌氏が再三にわたって強調していたのは「時代の感性」。「時代の感性を読み取り,そこからどういう構想力を働かすか。そしてITをどう結び付けていくか。そこに,これからのビジネスの勝機がある」とした。