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 「D級アンプ」とは,アンプの動作方式の一種である。「デジタル・アンプ」と呼ぶ場合もあるが,厳密にはデジタル・アンプよりもD級アンプのほうが正確な名称である。

 アンプの動作方式には,A級,B級,AB級,C級などがあり,高級機ではA級を採用している。A,B,C,Dと並ぶと,なんだかAが一番よさそうだが,ランク付けの名称ではない。

 D級は,アナログ信号を,パルス幅が時間とともに変化する矩形波に変換し(PWM=Pulse Width Modulation,パルス幅変調という),その矩形波によってFET(Field Effect Transistor,電界効果トランジスタ)をオン/オフさせ(スイッチングさせ),その信号をローパス・フィルタによって積分し,スピーカを駆動する方式である。トランジスタに矩形波を流すと,内部でわずかな電力しか消費しないという特質を利用して,効率よく増幅する仕組みである。PWMは,オーディオ信号を鋸波と比較し,オーディオ信号電圧が高い場合,その電圧の差にかかわらず,出力をハイにするコンパレータで作成される。

 D級アンプは小型で,効率が良く,発熱量が少ないので,薄型テレビや低価格オーディオ装置,携帯電話,ホールやイベント用の大出力アンプなどに利用されている。ピュア・オーディオにも採用が進み,1998年にデンマークのTacT Audio社が「Millennium」というD級アンプを発表した。それ以来,ピュア・オーディオにもD級アンプが使われだした。2001年にはシャープ「SM-SX200-B」とフライングモール「DAD-M1」,2003年にはソニー「TA-DR1」,2004年にはオンキョー「A-1VL」が発売された。

 先日,マリス・ヤンソンス指揮,オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」の生演奏を,音のよいことで知られるミューザ川崎シンフォニーホールで聴く機会があった。その生の音の鮮明な記憶があるうちに,同一指揮者,同一オーケストラ,同一曲のCD/SACD(RCO 04002,ホールはコンセルトヘボウ)をフライングモールのD級アンプを使用して試聴することができたので,その結果を報告する。

 試聴システムは,次の通りだ。
◆CDプレーヤ Studer D730
◆DAC Assemblage DAC3改
◆プリアンプ Musical Fidelity A3.2またはフライングモール PA-S1
◆パワーアンプ フライングモールDAD-M100dc+(5万6700円)×2台または同DAD-M310(9万9750円)×2台
◆スピーカ D.A.S. Monitor 6(1台7万8750円)。16.5cmウーファ搭載の2ウェイ,小型スタジオ・モニタである。幅226mm×高さ335mm×奥行き265mm,重量6.9kg。


図1●フライングモール DAD-M310


図2●D.A.S. Monitor 6(左)。右は同Monitor 8

 A3.2+M100は,非常に生に近い感じで,各楽器の定位,奥行き,残響,弱音部の表現などは,かなりのレベルで聴かせてくれる。M310では低域の押し出しが格段によくなり,より高品位な音になる。本題には関係ないが,プリアンプをPA-S1に変更すると,弦の高域がきつくなり,生とはだいぶかけ離れたものになってしまう。いわゆるコンセルトヘボウ管弦楽団の「ビロードの弦」がキンキンした弦に変化するのだ。A3.2+M310では,まさに「ビロードの弦」が再現される。「黄金の響き」と言われる金管もすばらしい。

 フライングモールのD級アンプは,なかなか良い音がする。そこで,その秘密を技術的な面から探ってみた。フライングモール以外のD級アンプは別の機会に試聴する予定だ。

 フライングモールはD級アンプに関する特許を3件取得していて,5件は出願中である。これまでに日本で成立した特許は次の3つだ。

(1)特許3499236「ディジタル電力増幅器」
(2)特許3499235「スイッチング回路およびディジタル電力増幅器」
(3)特許 3499225「ディジタル電力増幅器」

 ここでは,個々の特許の詳細は説明せず,回路の概要を説明しながら特許にも触れていくことにする。

 フライングモールは以下の図に示すように,多様な製品を提供している。


図3●フライングモールの製品群
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図4●左からAPS-M510a 500W@4Ωモノラル 電源一体,APS-M310a 300W@4Ωモノラル 電源一体,APS-M160IIG 160W@8Ωモノラル 電源一体,APS-S20a 30W@4Ωステレオ 電源一体,AM-S30d 30W@4Ωステレオ アンプ部のみ,電流リミッター基板(保護回路)


図5●APS-S20a 30W@4Ωステレオの電源部+アンプ部(左)と,電源部とアンプ部のセパレート型