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NSRI(USA) 林 光一郎

 今年ももうあと数日で終わりです。2007年はどんな年になるのでしょうか。私は先日,日本に帰国せよという辞令を受け取りました。来年1月下旬にはニューヨークを離れることになりました。駐在員として赴任していた以上,いつかはこの日が来ると覚悟していましたが,いざ辞令を受け取ってみると感慨深いものです。というのもさておき,そんな感傷にどっぷり浸る余裕もなく,今は完成した論文について,指導教官と日々,打ち合わせしているところです。しばらくは帰国の準備と論文の最後の仕上げで慌しい日が続きそうです。

 さて,今回は,米国の社会人教育において重要な役割を果たす「コミュニティ・カレッジ」を紹介したいと思います。

コミュニティ・カレッジは地域住人の味方

 「コミュニティ・カレッジ」と聞いても,ピンとこない人も多いのではありませんか。米国への留学を検討された人の中には,「入学基準があまり厳しくない短期大学(短大)相当の学校」と理解している人もいるでしょう。この理解はコミュニティ・カレッジの全体像を,必ずしも正しく伝えているとはいえません。

 コミュニティ・カレッジは,主に地域住民の税金で運営される学校で,通常の4年生大学ではカバーできない様々な教育ニーズにこたえることを目的としています。上述したように短大相当の学位(Associate Degree)が取得できるほか,4年制大学への編入プログラムの提供,コンピュータや医療助手などの職業訓練教育と,実に多岐に渡ります。

 職業訓練教育や短大相当学位はともかく,4年生大学編入プログラムがなぜ用意されているのか不思議に思われるかもしれません。ですが,コミュニティ・カレッジが必要とされる理由が米国にはあるのです。

 米国では高校までが義務教育です。しかも日本のような広域の学区ではなく,自治体ごとに通える学校が細かく区分されています。学校の運営も自治体に任される部分が大きいため,高校卒業時点では充分な学力が備わっていない,学費の準備ができていない,という若者がたくさん出てきます。コミュニティ・カレッジは,このような義務教育と4年生大学をうまく繋ぐという役割を担っているのです。

 例えば,コミュニティ・カレッジでは学位コースであっても,コミュニティの居住者であれば,全員合格です。そして2年間,優秀な成績を修めれば,4年制大学に編入できるのです。また,学費についても,公立大学と比べてもかなり安く抑えられています。地元の学生にとっては自宅から通学できる上に,いろいろな奨学金制度も利用できるので,さらに安い費用で通うことができます。

 コミュニティ・カレッジではなぜ,こんなことができるのでしょうか。理由の第一は,基本的には研究機関ではない,ということ。教員の研究をサポートするためのコストを負担しないため,低いコストで教育が提供できるのです。そのため,優秀で研究意欲の高い教員は,給料も高く研究インフラの整った4年生大学へと移ることもしばしば。教員のレベルはそれほど高いというわけではありませんが,よい就職先のために学位が欲しい,社会で役立つ知識を得たい,と考えている学生にとっては,うれしい教育機関です。またコミュニティ・カレッジでは社会人教員も積極的に登用しているため,実務上のホットな知識を得ることもできます。

 現在,コミュニティ・カレッジに通う1200万人の学生のうち,7割が通信制・定時制の学生だといわれているように,コミュニティ・カレッジは社会人学生も積極的に受け入れています。公立大学も,コミュニティ・カレッジとの連携を重視し,社会人が利用しやすいコースを提供する学校・学部があります。

コミュニティ・カレッジから社会人大学にステップアップ

 コミュニティ・カレッジから社会人大学への編入も,もちろん可能です。私の同僚である豊澄紘子さんの例を紹介しましょう。

 豊澄さんは留学生としてニュージャージー州のコミュニティ・カレッジに入学し,卒業しました。コミュニティ・カレッジに留学するのに必要な英語力は,TOEFLで450点程度。4年生大学とは違い,基本的な英語力があれば入学できるため人気です。ただし,留学生の場合は米国人の保証人が必要だったり,授業料がコミュニティの住民よりもはるかに高かったり(年間約7千ドル。それでも通常の大学の3分の1程度ですが)と,地元の人より厳しい条件があるのです。

 コミュニティ・カレッジ卒業後,豊澄さんは私が現在,勤務する会社に入社しました。彼女は非常に優秀ですが,学歴がAssociate Degreeのままでは,能力に見合った昇給は期待できないのです。また業務の専門性も低くなるため,ビザの取得も難しくなります。そこで,上司や(私を含めた)同僚から,大卒資格(Bachelor Degree)の取得を強く勧められていました。このあたり,米国は必ずしも「実力社会」ではなく,「学位(学歴)」を重視する面が強いんですよね。豊澄さんは大学進学を決断し,現在,社会人大学へ進学するための準備を進めています。

 彼女が選んだのは,ニュージャージー州にあるThomas Edison State Collegeという州立の社会人大学。通常,コミュニティ・カレッジから編入する場合,大学卒業に必要な120単位のうち,60単位程度しか単位を移すことができない大学が多いのですが,この大学は80単位まで認めているところが,選択の決め手となったようです。また授業方法も,豊澄さんが気に入った点の一つ。授業は基本的にオンラインで行なわれるようです。中にはキャンパスで行なわれる授業があったり,さらに一部の単位については,授業がなく,テストに合格すれば取得できるというものもあったりと,とても柔軟な体制となっているのです。

 授業料についても,豊澄さんはニュージャージー州の居住者としての資格を満たしているため,優待を受けることができ,学費は年間4千ドル。2年間で卒業単位を取得できるので,トータルでも8千ドルと学費も安い。私が通っているニューヨーク大学の大学院コースの学費は,2年で4万5千ドルほど。学部と修士という違いがあるとはいえ,ずいぶん利用しやすい金額なのです。このようなコミュニティ・カレッジが日本にもあると,いいと思いませんか。

 次回は大詰めを迎えている修士論文の進捗状況についてお伝えしたいと思います。提出した論文を巡る教授とのやり取りとともに,(論文が通っていれば)事務室へ納品する様子も紹介する予定です。


日本でもお馴染みのロックフェラーセンターのクリスマスツリー。今年は11月29日に点灯式が行なわれました。点灯式の様子を見ようと当日に出かけてみたのですが,周りは黒山の人だかりで,あえなくギブアップしてしまいました。
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 林 光一郎(はやし こういちろう)
NSRI(USA)

1991年,京都大学農学部卒業後,日本郵船に入社。関連IT企業のNYKシステム総研への出向を経て現職。現在はニューヨークにあるNSRI(日本郵船グループ)社内のアプリケーション開発プロジェクトに従事しながら,ニューヨーク大学大学院Management and Systems学科に在学。情報処理技術者試験に関する複数の著書のほか,「情報処理技術者用語辞典」(日経BP社)のデータベース項目の執筆を担当。日本システムアナリスト協会・中小企業診断協会会員

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