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編集長
林 哲史

 昨年の12月20日、NTTが次世代通信サービスの基盤ネットワークとして構築中の「NGN」(next generation network)のフィールドトライアルを始めました。NGNは、既設の電話網をTCP/IP技術で作り直すことを目指したもの。ただし、単に電話網を作り直すのではなく、高速データ通信やコンテンツ配信、テレビ放送、最終的には携帯電話のインフラとしてもシームレスに使えるようなしくみを盛り込もうという広大な構想です。

 NGN関連記事については、ITproでは特設コーナーを設けて報道していますので、ご記憶の方も多いでしょう。NTTはNGNサービスを2007年度の後半に商用化する予定なので、今年は昨年にもましてNGN関連の記事が頻繁に報道されそうです。今回は新春企画ということですので、これから報道されるであろうNGN関連記事を予想しながら、NGN実用化に向けて注目したいポイントを見ていこうと思います。

アプリはIP再送信に、技術は帯域確保に注目

 商用サービスの開始に先立って気になるのは、「NGNならではのアプリケーションが見えてくるか」でしょう。これについては、NTTのフィールドトライアルを見ていくことで、ある程度予測できるかもしれません。ちなみに、NTTはNGNトライアル・ショールーム「NOTE」を東京と大阪に開設しましたが、東京のショールームは1月分も2月分もすぐに予約が埋まってしまったそうです。ショールームの様子はこちらの記事でご覧下さい。

 私が注目しているアプリケーションはテレビ放送です。特に、もうすぐNGN上での配信実験が始まる「IP再送信」(地上デジタル放送をIPネットワークで伝送すること)は、コンテンツの面でも映像品質の面でも、現状のインターネット・テレビとは一線を画します。モニター・ユーザーが使い勝手と伝送品質に満足するなら、「HDTV品質の放送インフラ」という新しい役割を担うネットワークとしてNGNの存在感は大いに高まることでしょう。

 ただし、NGNの開発目的を考えると最も重要なアプリケーションは電話サービスとなります。実際NTTは、今の電話網と同じ品質のネットワークをIPネットワークで実現することをNGN設計の基本としています。電話網と同じ品質のネットワークをIPで作ることはけっして簡単ではありません。電話網は通信に先だって固定的で遅延のない通信帯域を確保する「回線交換」と呼ぶ技術で作られているのに対し、IP網は遅延防止と帯域確保が難しい「パケット交換」と呼ぶ技術に基づいて動作するからです。このためNGNで電話をかけるときは、通信に先立ってNGN網の制御サーバーにSIPと呼ぶプロトコルを使って「相手との間に固定的な帯域を確保して下さい」と依頼します。そして、NGN網内で帯域を確保できると判断したときだけ通話が許可されます。通常のIP電話ではこうした帯域管理は実施していません。果たしてNGNで安くて高品質な回線交換サービス(電話サービス)を作れるのか注目です。

NGNのメニューはどうなる?

 さて、NGNができるとどんな通信サービスが提供されるのでしょうか。そのヒントは、フィールドトライアルでNTTが提示した一般ユーザー向けのインタフェース仕様にありそうです。そこから推測すると、「Bフレッツ+α」といった形のサービスになりそうです。αの候補としては、帯域確保型の高速データ通信サービスや高品質映像の配信サービスがあります。

 興味深いのは、NTTがNGNのインタフェースとして「一般ユーザー向け」「他通信事業者向け」のほかに、「コンテンツ事業者向け」も用意していることです。コンテンツ事業者向けのインタフェースは、NGNユーザーを対象にコンテンツを提供するアプリケーション・サーバーを接続するためのものです。こうしたことから、コンテンツ事業者向けのメニューは一般ユーザー向けメニューとは違った形になりそうです。

 今年後半になれば料金水準を巡る報道が過熱してくるでしょう。それでも一般ユーザー向けの料金は、NTTがBフレッツ・ユーザーを潜在的なNGNユーザーと見なすなら、Bフレッツのそれと同等の水準に落ち着くでしょう。新しく登場する帯域確保型サービスは、速度と通信時間あるいは通信量で決まる「従量制課金」になるかもしれません。NGNでは、電話サービスも帯域確保型サービスの一種となるので、その料金体系にならうという考え方です。帯域確保型のサービスは、その帯域が空いていてもほかのユーザーに割り当てられないので定額料金制は難しいでしょう。ただしそうなると、映像配信サービスの料金が気になります。割高になってしまう可能性が出てくるからです。NGNはマルチキャストと呼ぶ同報通信技術を備えているものの、HDTVクラスの動画データに必要な帯域幅は電話の100倍以上になります。昨年はインターネット・テレビ関係のトピックとして「インフラただ乗り論」の論争が巻き起こりましたが、NGNでも料金は論議を呼びそうです。

第三の公衆網に進化できるか

 NGNはその構想が広大であるため、「新しい公衆網へと進化するのではないか」という期待感があります。現在、世界中で利用できる手軽な公衆網としては電話とインターネットがあるわけですが、これらを補完したり、部分的に取って代わったりする巨大で身近な公衆網になるのではないかという期待です。

 先輩である二つの公衆網、電話とインターネットには二つの共通点があります。一つは、世界中の通信事業者が相互接続して全体を構成していることです。電話網は世界中の電話事業者が、インターネットは世界中のインターネット・サービス・プロバイダがそれぞれ相互接続して、世界中のユーザーを結びつけています。もう一つは、事業者の枠を超えた統一的なアドレス体系に基づいてユーザーにアドレスが割り振られていることです。電話には電話番号が、インターネットにはIPアドレスがあります。電話とインターネットが、自分が接続している通信事業者とは別の通信事業者のユーザーとも手軽に通信できるのは、この二つの特徴があるからです。

 さて、NGNはどうでしょう。相互接続の面でも、統一的なアドレス体系の面でも、事業者間での議論はこれから始めるという段階にあります。ここしばらくは、個々の通信事業者が自社の次世代サービスをアピールする際の宣伝文句として使われることになるでしょう。それでもいつかNGNが、これまでにない価値をもたらす新たな公衆網の総称として使われるようになるかもしれません。すべてはこれからの運用次第です。インターネットだって、誕生してからしばらくは宣伝活動が禁止された"研究用途限定の学術ネットワーク"だったわけです。NGNがどう発展していくのかは、時間をかけて見ていく必要があるようです。