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 Windows分野における2006年最大のニュースは,米MicrosoftのBill Gates氏が引退を表明し,Chief Software Architect(CSA)の座をRay Ozzie氏に譲ったことである。ここ数年のMicrosoftの不調は明らかで,Windows Vistaの開発は幾度も遅れ,インターネット広告やコンテンツ配信などの成長市場でも,米Googleや米Appleの独走を許した。Gates氏の引退によって,Microsoftは過去と決別できるのだろうか。困難に満ちた同社の2006年を振り返ろう。

Gates氏の引退は「けじめ」

写真1:MicrosoftのBill Gates会長
 Gates氏が2008年7月に現役を引退すると発表したのは,Microsoftの年次イベント「TechEd 2006 Boston」の会期中である2006年6月15日(米国時間)のことだった。Gates氏は自身の福祉財団「Bill & Melinda Gates Foundation」の運営に専念すると述べており,何らかの責任をとって引退するわけではない。しかしGates氏の引退は,1つの大きな「けじめ」に見える。

 なぜなら,「Windows Vistaの開発遅れ」の責任は,突き詰めればCSAとしてソフトウエア開発を統括したGates氏にあるからだ。Gates氏は2000年1月にChief Executive Officer(CEO:最高経営責任者)の座をSteve Ballmer氏に譲り,CSAの職務に専念しだした。丁度そのころから,Windowsの開発が迷走するようになった。迷走の象徴が,11月8日(米国時間)に開発が完了し,RTM(Release To Manufacturing)となったWindows Vistaである。Windows Vistaには開発に至るまで,様々な紆余曲折があった。

Windows開発責任者が「Macを買う」と方針変更に必死の嘆願

写真2:MicrosoftのJim Allchin共同社長
 米国の雑誌「Forbes」は,2006年12月にWindows Vistaの紆余曲折を象徴するメールの存在を暴露した(nikkeiBPnetの翻訳記事:Mac Envy)。暴露されたのは,Windows Vistaの開発を統括するMicrosoft共同社長のJim Allchin氏が,2004年2月にBill Gates氏とSteve Ballmer氏に送ったメールで,そこには「もし自分がMicrosoftで働いているのでなければ,『Mac』を買うだろう」と記されていたという。

 Allchin氏はMicrosoftの「Windows Vista Team Blog」でこのメールが本物であることを認め(独占禁止法訴訟の過程で公開されたという),「(Windowsの)開発プロセスを劇的に変化させるために,あえてMacを買うというような表現をした」と語っている。そして,Allchin氏の大胆な嘆願によって,2004年夏の「Windows Vistaの開発方針変更」が実現したのだという。

 つまりこういうことだ。Microsoftは2003年11月のソフトウエア開発者会議「PDC 2003」で,次期OS「Longhorn」(開発コード名,現在のWindows Vista)に関する非常に大がかりな構想を明らかにした。Longhornには,(1)既存API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)「Win32」を置き換える新API「WinFX」,(2)新しい画面描画機能「Avalon」,(3)Webサービスの通信基盤「Indigo」,(4)SQL Serverをベースにしたストレージ管理システム「WinFS」,(5)ハードウエアと連携してセキュリティを強化する「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」,(6)新シェル「Aero」---を搭載すると発表したのだ。

 しかし,Allchin氏を筆頭とするWindowsの開発現場は,PDC 2003での発表の直後から,「Longhorn構想は不可能」と判断していたようだ。その証拠が,先に紹介したAllchin氏が2004年2月に送信した「Macを買うだろう」というメールだ。Allchin氏は過激な表現を使ってGates氏やBallmer氏を説得し,Longhornのスケール・ダウンを実現したわけだ。

 Microsoftは2004年6月23日(米国時間)にLonghornへのWinFSの搭載を断念すると発表し(関連記事:米Microsoft,「WinFS」の単独製品化をあきらめ,他製品に搭載へ),2004年8月27日(米国時間)にはWinFX(現在の.NET Framework 3.0)をWindows XPとWindows Server 2003にも提供すると発表した(関連記事:米Microsoft,「次期Windows『Longhorn』の広範なリリースは2006年をめどに」)。その後,2005年4月の「WinHEC 2005」で,Win32からWinFXへの移行の断念や,セキュリティ機能であるNGSCB搭載の断念なども明らかにされた。

 このように大がかりな「Longhorn構想」は,公表から半年で挫折したわけだが,その大本の責任が,同社のCSAであるBill Gates氏にあることは明らかである。Gates氏を断念させたAllchin氏が,Windows Vistaの完成をもってMicrosoftを退任することや,Gates氏がWindows Vistaの完成前に引退を表明したことは,「けじめ」であるように思えてならない。

年末商戦に間に合わなかったWindows Vista

 当初の構想に比べて大幅にスケール・ダウンしたWindows Vistaであったが,それでも開発は難航した。Microsoftは2006年3月21日(米国時間)に,Windows Vistaの出荷が2006年の年末商戦に間に合わなくなることを明らかにし,パソコン業界をガッカリさせた。実際に2006年下半期は,Windows Vistaをにらんだ消費者のパソコン買い控えが発生し,「10月の『WPC Tokyo』以降,パソコンがぱったり売れなくなりつつある」(マイクロソフト)という。

写真3:Windows Vistaの画面ショット [画像のクリックで拡大表示]

 MicrosoftがリリースしたWindows Vistaの評価版のデキが今ひとつだったことも,ユーザーを不安にさせた。ITproのWindows分野で,2006年最も読まれた記事は「現時点で判明した「Windows Vistaの欠点」を暴く」という,Windows Vistaの「ビルド5308」と「ビルド5342」をベースに,Windows Vistaの使いづらい点などを指摘した記事だった。ただし,2006年夏にリリースされたRC1(Release Candidate 1,製品候補版1)はかなり安定するようになり,ユーザーを安心させた。Windows分野で2番目に多く読まれた記事は「Windows Vista RC1レビュー(第1回)--5つの素晴らしい機能」であった。

注目集める「Windowsの互換性」