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前回は、そもそもビジネスモデリングとは何なのか、なぜビジネスモデリングが大切なのか、について述べた。今回はモデル化の「対象」について解説する。具体的には、どの範囲の業務をモデル化するかという“空間軸”と、どの時点の業務をモデル化するかという“時間軸”について考える。

大川 敏彦
ウルシステムズ シニアマネジャー(現 ウィズクライン代表取締役)

 前回、ビジネスプロセスモデリングとは「ある目的のために、ビジネスのある属性を強調し、ある属性を省略して表現すること」と定義し、この中の“ある目的のために”という部分について考えてみました。今回はこの定義に立ち返って、対象となるビジネスの範囲と、強調/省略する属性について考えてみたいと思います。

 ここでは対象となるビジネスを、2つの軸で考えてみます。一つは「空間軸」、もう一つは「時間軸」です。まず空間軸ですが、ビジネスプロセス・モデリングの対象を大きく「個別業務」、「企業全体」、「企業間」の3つに分けてみたいと思います。(図6

図6●ビジネスモデルの空間軸と時間軸
図6●ビジネスモデルの空間軸と時間軸

 個別業務を表すモデリングは、例えば人事部の仕事や、ある製品ラインの生産工程など、企業内でのある限られた範囲の業務を対象として行うモデリングです。本当に局所的な問題を解決する場合や、スモールスタートでまず成功事例を作って横展開をする場合などに使われます。

 次に、企業全体を表すモデリングです。これは文字通り、全社の業務を対象に行うモデリングですが、ある事業全体の業務モデルを作成する場合なども当てはまります。この場合、いきなり細部をモデル化するよりも、対象全体をモデル化するほうがよいでしょう。マイケル・E・ポーターが提唱するバリューチェーンと同レベルの粒度のビジネスプロセス・モデルを出発点として、必要に応じてモデルを詳細化していくようなイメージです。

 最後に、企業間を表すモデリングです。企業間を連結するモデルを表現する際に注意すべきことは、企業間の情報のやり取りと、企業内部での業務処理のやり取りの表記の仕方です。インターネットを利用した業務モデルが普及したため、これに対応したビジネスプロセスの表記方法なども研究されてきており、BPMNなどでは企業間メッセージのやり取りと企業内部でのビジネスプロセスを分けて表記することを明示しています。

 空間軸で対象業務をとらえるときには、「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)の考え方」、すなわち、対象とした範囲の業務要素を漏れなく、かつダブりなく抽出することが大切です。その意味では、全社業務でご説明したように、まず全体像を大きくとらえ、それから徐々に詳細化していくような方法を採ることをお勧めします。

時間軸に沿って「過去の業務」と「未来の業務」をモデル化

 次に、モデリングの対象を考える二つ目の軸である「時間軸」について考えましょう。時間軸は基本的に、「過去(=現状)の業務のモデリング」と「未来の業務のモデリング」の2種類があります。

 過去(=現状)の業務のモデリングとは何を指しているかというと、「現状、行われている業務をモデリングする」ということです。作成したモデルは、「AS-ISモデル」といった言い方もします。

 筆者がコンサルティングを手がけている企業で、過去(=現状)のモデリングを行う場合には、現場の担当者などにヒアリングして、業務改善などのために現状のありのままをお話しいただき、モデル化していきます。このとき重要なのは、問題点や課題、明らかな業務の矛盾などについても、ありのままをモデルに反映していくということです。

 ヒアリングの対象者からすると、自分の問題点を明らかにされるのであまりいい気分ではありませんし、わざわざ間違った業務をモデル化するのは無駄な気がするでしょう。しかし、より良い業務を設計するためには、現状を正しく把握し、理想(あるべき姿)との違いや差分を明確にすることは絶対に必要なことです。ですから、業務をより良くしていくためと割り切って、モデリングする側と現場でヒアリングを受ける側がお互いに協力し合う必要があります。

 次に、未来の業務のモデリングについて説明しましょう。未来の業務のモデリングとは、現状行っている業務は差し置いて、現状の課題や問題点が解決された業務、あるいは自分がこうやったほうが良いと思っている“あるべき業務”をモデリングすることです。作成したモデルは、「TO-BEモデル」というような言い方もします。

 筆者はよく、「あるべき業務はどのように作ったらよいですか?」といったご質問を受けます。これには残念ながら、決まった方法や答えがない、というのが正直なところです。

 とはいえ、一つヒントを挙げておきましょう。例えば、業務の担当者とセッションをしながら、あるべき業務像を構築していったとします。そのとき、制約条件をどのように扱うか、ということが重要になります。制約条件の例としては、システムの変更はしないとか、組織変更をしないとか、外部業者とのインタフェースに影響を及ぼさない、といったものがあります。こうした制約条件を明確にし、何が変更できて何が変更できないかをはっきりさせることで、あるべき業務を考える場合の焦点が定まります。

 一方、約束事として現状の制約条件を無視し、あるべき業務像を考えようという場合には、とにかく現状の制約条件を「すべて無視」して議論することが大切です。もちろん実際には、外部の業者やシステムの制約、会社の文化や習慣による制約、自分の考え方の癖、といったものに縛られてしまうことがありますが、“あるべき業務”をモデリングする際には抜本的な発想の転換が必要であり、制約に縛られないように注意しなければなりません。いずれにしろ、未来の業務のモデリング、あるべき姿のモデリングをするときは、前提条件や制約条件をどう設定するかが重要になります。