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写真1●香港のフリーペーパーにはテレビ放送の広告が掲載され,チラシも挟み込まれていた
 昨年12月26日に台湾の南西沖海底で発生した地震によって,国内通信事業者のアジア地域向けのサービスが一部利用できないなどの問題が生じた(関連記事)。この問題に関していろいろと報道されているなかで,「香港在住の邦人が紅白歌合戦など年末年始の番組が楽しめないため悲鳴を上げている」という記事が目に留まった。

 通信用ケーブルが損傷したため,電話やインターネットなどが使えないだけでなく,“テレビが見られない”という。迂回路を使ってインターネット自体はつながっているものの,込み合ってスムーズに見られない。香港には,約3万人の邦人が暮らしており,日本のテレビ番組を見られないことが大きな問題になっているというのだ。

 時期が時期だけに「これはテレビ放送のIP再送信と違うの?」という疑問が沸いてきた。昨年から,地上デジタル放送コンテンツをインターネットなどを使って送信する「IP再送信」を認めるかどうかが議論されているからだ(関連記事)。

 いうまでもなく放送コンテンツは著作物である。著作物であれば,それにかかわる権利者に放送や送信など,さまざまな権利が保障されている。その著作物をインターネットなどのIPネットワークを使って送信することを認めるのか。認めるとしても,権利の取り扱いはどうすべきかなどが議論されている。それなのに,香港では“再送信”が市民権を得ているようだ。それから,NHKの受信料はどうなっているのか・・・。

ユーザー個人の機器を代行運用

 そういうことを考えていたら,2006年12月に香港に出張したときにレストランでもらった日本語のフリーペーパーを思い出した(写真1)。そのときは,何気なく眺めていただけだったが,そこに“香港式IP再送信”の答えがあった。インターネット経由で日本のテレビ放送を見られるサービスの広告が掲載され,チラシも挟み込まれていた。

 そのサービスの内容は次の通りである。テレビ放送を受信,インターネット経由で送信する機器を,日本国内に設置,運用する。香港のユーザーは,セットトップ・ボックスを設置してインターネット経由で,テレビ放送を受信,視聴する。通常のテレビやパソコンで日本のテレビ放送を見られる。セットトップ・ボックスや日本国内で設置する機器は,業者がユーザーからレンタルする。

 このサービスでは,日本の地上アナログ放送やBSデジタル放送などが見られる。新規加入料は1000香港ドル(1香港ドルは約15円),機器保証金が1800香港ドル。月額利用料は,機器レンタル料込みで680香港ドルである。

 もちろん,業者は“合法”としている。ミソは放送を送受信する機器は,ユーザー名義というところである。NHKの受信料はユーザー自身の問題ということになる。つまり,ソニーの「ロケーションフリー ベースステーション」のような機器を,業者が代行運用している形に近い(関連記事)。ロケーションフリーは,ユーザーの自宅に設置し,それにインターネット経由でアクセスすればテレビ放送を見られる機器である。

 このロケーションフリーの機器を預かり,代行運用するサービスを提供する業者が国内にある。NHKや民法キー局5社は,著作権侵害であるとしてこのサービスの差し止めを求めているが,2006年8月に東京地裁,12月に知的財産高裁でその申し立てを却下されている。1対1の送信であることなどを理由に,権利を侵害していないという判断である。 もっとも,裁判所の決定は,あくまでこのサービスについてのものである。類似サービスについては,違法という決定が下される可能性がある。

 こういったテレビ放送を受信,送信する機器の代行運用サービスは,現在議論されているIP再送信とは違う。ISPなどがデジタル放送をIPマルチキャストで送信することを想定している。しかし,この香港式IP再送信などが提供するサービスは,機能的に似ている。インターネットさえあれば,どこでも利用できる。ちょっと仕組みに手を加えれば,1対nに送信できる。ブロードバンド化が進み,インターネットがテレビ放送を送信するメディアとして確立した今,避けては通れない問題だろう。