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ガートナー ジャパン
リサーチ グループ バイス プレジデント
山野井 聡

 前回解説しました「コンシューマIT」の原動力となったのはインターネットでした。2010年には日本の全家庭,全人口の80%に,ブロードバンド・インフラと携帯電話が行き渡るとガートナーは予測しています。2010年は,本当にもうすぐやってきます。

 ネットは,コミュニティの形成を促し,コラボレーションを加速させました。今回は,コミュニティとコラボレーションの動きを,ITリーダーの皆さんと共に追っていきたいと思います。

 人は本質的に,知りたいという欲求を持っています。そして,自分が知ったことを伝えていきたいという欲求も併せて持っています。知識を求める人は,自分が知らないことは何かを自覚していて,その知らないことを教えてくれる人を求めています。これが,ネット上でさまざまなコミュニティが勃興し,その内外でコラボレーションが活発化している理由でしょう。「mixi」などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が話題になっているのが,その象徴です。「協創」を求める人間の欲求に,ようやくITが対応できるようになってきたのです。

 私も常に,より良い「ナレッジワーカー」になりたいと思っています。ナレッジワーカーを目指す個人にとって,「おいしい時代」が到来しました。IT環境を利用することで,簡単に「知」を追求できるからです。今のIT環境はコンテンツやそのメタデータの作成,アプリケーションの開発,個人間による情報交換を容易にしつつあります。

 こうした変化を「心地よさ」というキーワードでとらえることもできるでしょう。消費者は本質的に心地よさを常に求めるものです。消費者向けのサービスや商品は,心地よさを提供するべく,日々改善を重ねています。 「個人がモノを言う」時代にあって,エンタープライズITもこれと無縁ではいられなくなりました。例えば,昨年は社員同士のコラボレーションを加速する「社内SNS」が話題になりました。米国ではすでに,社内SNSの構築を支援するベンチャーが複数あります。

 携帯電話のようなデバイスも,会社から支給される機種より,個人で所有する機種の方が,はるかに多機能でデザインもクールです。従業員もまた“一人の消費者”と考えれば,従業員の心地よさを高めるよう,エンタープライズITを改善していく必要があります。ITが企業の生産性を支えている現実を考えると,ITが心地よくなければ,その企業は競争力を落とします。

アプリケーション調達モデルが変化

 今後日本でも普及が期待されるアプリケーション調達モデルにASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)があります。昨年のガートナーの調査では,日本企業におけるASPの活用率はまだ,平均で10%程度です。ただ,企業の6割以上が「ASPが自社にとって使えるものであれば使いたい」とも答えています。

 これまで企業情報システムは自社内で構築する,あるいはパッケージ・ソフトを購入し,それをカスタマイズして使用することがほとんどでした。ですが,そのスタイルは主流ではなくなりつつあるのです。ITのスタイルは「買う」から「使う」へと着実に変化しています。

 コミュニティという思想は,アプリケーション開発手法にも変化をもたらしています。例えばASPモデルの場合,アプリケーション・プロバイダは利用料金をいかに安く,また新機能を早く提供するかが差異化の鍵になってきます。また,それに合わせて開発コストも下げなければいけません。インドや中国などにおけるオフショア開発を進めていることはもちろんですが,あるプロバイダやソフト・ベンダーでは,オープン・ソース・ソフトウェアのように企業の外にある「バーチャル・コミュニティ」をうまく活用することで,価格を低く抑えようとしています。

今年こそリスク・マネジメントに着手しよう

 素晴らしいビジネスモデルを確立しても,世界中の顧客からのアクセスに耐えられるシステム・インフラを実現しなければ結局,顧客を逃してしまいます。大量のトラフィックを処理するためには,仮想化によるサーバー・マシンの効率的な利用,サーバー運用の自動化を実現した,巨大なシステム・インフラを実現する必要があります。ガートナーは,こうしたインフラを「テラ・アーキテクチャ」と呼んでいます。

 テラ・アーキテクチャを実現している企業の代表は,グーグルです。グーグルのコア・コンピタンスは,検索エンジンでもフリーのアプリケーションでもなく,テラ・アーキテクチャではないかと思います。

 こうしたテクノロジーを考える上では,セキュリティの確保が欠かせません。例えば,社員の柔軟なワークスタイルを確保するために,自宅のパソコンから社内システムにアクセスすることを許可したとしましょう。さて,セキュリティをどう確保するか。残念ながら,今のところ「マジック・アンサー」はありません。ただ少なくとも言えるのは,まずセキュリティ・ポリシーを作ることが最低限必要だということです。

 その際,ITだけで考えてはうまくいきません。企業のビジネスという観点から,利便性と安全性のバランスをどう取るかを考えるべきです。事業を遂行する上で,何が避けるべき事態なのか。どこまでならリスクを許容できるのか。このような視点です。IT部門だけでなく,経営者を含めた企業横断的な組織を作って立案すべきです。ITリーダーが率先して取り組むべき,2007年の大きな課題かと思います。