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前回までで、そもそもビジネスプロセスとは何か、なぜビジネスモデリングを行うのか、モデル化の対象となる範囲やモデルの要素・属性をどのように考えるべきか、について見てきた。今回はモデリングの作成方法、すなわち、どんな手順に従い、どのような手段を用いてモデルを作成するのか、について解説する。

大川 敏彦
ウルシステムズ シニアマネジャー(現 ウィズクライン代表取締役)

 モデルの作成方法を説明するのに当たって、今回はまず以下のような状況を設定してみます。

【状況設定】
 あなたは受注生産中心の加工組立型機械製造業の情報システム部に所属しています。上司から与えられたミッションとして、「受注から出荷までの主な業務について、業務部門の担当者の現状の業務を把握して、現在の情報システムを業務の姿に合わせて構築し直す」という課題に取り組んでいます。そこでまず、現状の業務とシステムの利用状況を把握するため、業務の担当者にヒアリングをしながら、現状の業務についてのビジネスプロセス・モデルを作成することにしました。

 筆者はビジネスプロセス・モデリングのステップを、大きく「Step1 モデリングの準備」と「Step2 モデリングの実施」に分けて考えています。さらに、それぞれのステップを細かく分け、合計で7つのステップに分けます(図9)。これらについて、順を追って説明しましょう。

図9●「ビジネスプロセスモデル作成手順
図9●「ビジネスプロセスモデル作成手順

 読んで字のごとく、「Step1モデリング準備」ではモデルを作成するための準備をします。準備作業の最初に行うのは、「Step1-1目的の設定」です。ビジネスモデリングでは、目的を明確に決めることが極めて重要です。また、目的をときどき確認することや、いつでも目的に立ち戻れるようにしておくことも重要です(図10)。

図10●モデリングの目標と対象領域
図10●モデリングの目標と対象領域

 先ほど状況設定として述べたように、今回のモデリングの目的は「現在の情報システムを業務の姿に合わせて構築し直す」ということです。このような目的を文書化して、関係者同士で共有したり、壁に張り出していつでも確認できるようにしたいものです。

 目的を定めたら、次は「Step1-2 対象領域の決定」です。ここでは、第2回で説明した2つの軸、すなわち「時間軸」と「空間軸」に沿って、モデリングの対象を定義します。このケースでは、空間軸では「受注から出荷までの主な業務」を、時間軸では「過去(=現状)」を、それぞれ対象とします。

 ここで注意が必要なのは、対象領域の設定はなるべく明確にしておく必要がある、ということです。しかし実際には、初期の段階では領域を明確にするといっても限度があります。人事系の業務を含めるか、とか、総務系や経理系の業務はどこまで含めるか、といった細かいところまでは決められないかもしれません。その場合、まずは箇条書き程度で、モデリングの対象となる領域を大まかに定義しておき、実際の作業を進めていくなかで調整していく、ということになります。

 このように、初期の段階ではどうしてもあいまい性が残るため、対象領域が拡大してしまうことがよくあります。これを防止するには、モデリングの初期の段階で、対象の全体像を表す粗いレベルのビジネスプロセス・モデルを記述して関係者と共有し、それから詳細なモデルを作成するようにするとよいでしょう。

モデルの構造を決める

 モデリングの目的と対象領域が決まったら、次の「Step1-3 モデル構造の設計」でモデルの構造を決めます。モデルの構造とは、(1)「モデルの階層」、および、各階層における(2)「モデルの軸」、(3)「モデルの構成要素・属性」をそれぞれ決定すること、を言います(図11)。

図11●モデルの構造
図11●モデルの構造 [画像のクリックで拡大表示]

(1)「モデルの階層」の決定 
 モデルを、全体でいくつの階層によって表現するかを決めます。例えば2階層で表現する場合、第1階層では対象領域の全体像を記述し、第2階層では第1階層における1つの業務について詳細に記述する、といったイメージです。

 階層の決め方に、特にルールはありません。経験的には、2階層か3階層でモデリングを行うつもりでいるのが良いようです。上記の第1階層と第2階層に加えて、必要なら第3階層で、第2階層のモデルのより詳細な業務を記述する、といった感じです。また、組織図を参考にして、第1階層では企業間あるいは事業部間のモデルを、第2階層では企業内の部・課レベルのモデルを、第3階層では個人レベルのモデルを、それぞれ記述する、としてもよいでしょう。

 ここでは、第1階層で全体像を記述し、第2階層でその詳細を記述する、2階層モデルにすることにします。

(2)各階層での「ビジネスプロセス・モデルの軸」を決める
 「軸」とは何だろうと思われるかもしれません。例えば第1回で紹介した「業務フロー図」では、「縦軸」は組織を表すレーン、「横軸」は作業の進行順、としています。このように、作成するモデルの縦軸と横軸に、何の“概念”を当てはめるかを考えます。

 軸の決め方なんて簡単なことだと思われるかもしれませんが、そうでもありません。例えば、組織を表すスイムレーンを1つの軸に当てはめるとしても、まず縦軸にするか、横軸にするか、を決める必要があります。また、スイムレーンで表される組織を、本部と物流センターと店舗に分けるか、システムは別のレーンにするか、軸上の組織の並べ方をどうするか、など、結構悩ましいものなのでcす。

 さらに、一方の軸を組織のスイムレーンにした場合、もう一方の軸をどうするか、ということも、重要な検討事項になります。通常は前述した「業務の進行順(時間)」がよく使われますが、そのほかに、PDCAサイクル(Plan、Do、Check、Action)で分ける、「月次、日次」などのサイクルで分ける、プロジェクトのフェーズ(上位の業務区分)で分ける、といった方法もあります。ここでは、縦軸を組織、横軸を業務の進行順、ということにしておきます。

(3)各階層でのモデルの「構成要素」を決める
 軸が決まったら、次に各階層のモデルで使用する構成要素を決めます。例えば今回の例で言えば、第1階層のモデルは全体の概要を表すので「業務」と「接続線」だけを用い、第2階層のモデルは詳細を表すので、「業務」「接続線」「分岐」「入出力」を用いる、といったことを決めます。

 上位レベルのモデルにあまり細かな構成要素まで含めると、全体像を表すという目的に対して、冗長なモデルになる可能性があります。また、下位レベルのモデルでは、目的に応じて分岐や入出力を明確にするなど、必要な細かさと精度でモデルを記述する必要があります。

 今回は、モデリング対象の概要を表す第1階層では「業務」と「接続線」を、詳細を表す第2階層では「業務」「接続線」「分岐」「システム」「(必要に応じて)入出力」を用いることにします。

(4)各階層でのモデルの「属性」を決める
 (3)で決めた構成要素ごとに、モデリングで使用する属性情報を決めます。例えば「業務」という構成要素に注目してみると、第1階層では概要のみを記述し、第2階層では「業務概要」「業務トリガー」「入出力」を記述する、といった感じです。これも要素の決定と同じですが、そのモデルを作成する目的に照らして、必要十分な属性を取捨選択して使用するようにします。

 今回のケースでは、第1階層では概要のみを記述し、第2階層では現状の業務とシステムの利用状況を把握することが目的なので、「概要」と「利用システム」を記述するようにします。その他の構成要素の属性の決め方については、ここでは省略します。

 モデルの構造としては、最低でも以上のようなことを決める必要があります。そこで問題になるのが、何を根拠にこれらの項目を決めていくか、ということです。

 これまでも何度かご説明したように、それはモデリングを行う目的・目標にほかなりません。例えば、現状のシステムの利用状況を把握することが目的なら、レーンの1つをシステムに割り当てる、担当者の作業時間を把握することが目的なら、作業時間を属性として持つ、という具合です。前回ご説明したように、モデルの構成要素と属性を、目的に応じて取捨選択して用いるわけです。