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 いよいよ本日,マイクロソフトにとって6年ぶりとなる新クライアントOS「Windows Vista」が発売される。同OSに関しては,ITproでも昨年5月に公開された「現時点で判明した『Windows Vistaの欠点』を暴く」という記事の人気がいまだに高いなど,ユーザーの視線はかつてなく厳しい。それでも今日ばかりは,この新OSにエールを送ってみたいと思う。

 記者がWindows Vistaに期待しているのは,「デスクトップ・アプリケーションの復権」である。Windows Vistaがまだ開発コード名「Longhorn」と呼ばれていたころ,マイクロソフトが目指していたのは,「デスクトップ・アプリケーションの開発者に,極上のプラットフォームを提供する」ことであった。実際にマイクロソフトの幹部が開発者にどのような夢を語ったのかは,米国「Windows IT Pro Magazine」の名物ライターであるPaul Thurrott氏の連載記事「Windows Vista開発史」の「第2回」で確認できる。

 当時(2001年~2003年ごろ),マイクロソフトは「OSの価値の本質」を,正しく理解していたと思う。OSの本当の価値とは,「素晴らしいアプリケーション」があることである。画像管理ソフトが高機能だとか,メディア・プレイヤーが優れているだとか,ファイル管理ソフトが高機能であるとか,OSのシェルが3次元CGで表示されるだとか,そういうことではない。だからこそマイクロソフトは,Longhornで素晴らしいアプリケーションを簡単に作れるように,「WinFX」や「WinFS」,「Avalon」「Indigo」「Next Generation Secure Computing Base」といった,アプリケーション基盤(プラットフォーム)を提供するハズだったのだ。

 マイクロソフトの理想は間違っていなかったと思う。間違いがあったとすれば,その理想の実現に失敗して,新OSを6年の長きにわたってリリースできなかったことである。

 その間にアップルは「OSの多機能化」という別の道を歩み出し,マイクロソフトを引き離し始めた。それを見たWindows開発責任者であるJim Allchin氏は,Bill Gates氏とSteve Ballmer氏に「もし自分がマイクロソフトで働いているのでなければ『Mac』を買う」と脅しを入れ,理想のOSの実現を諦めて,Longhornの多機能化に突き進んだ(関連記事:「ゲイツ時代」の終わりとWindowsの今後)。

 その結果,どうなっただろうか。Windows Vistaの「目玉」である数々の新機能について,「Windowsサーチ」は「Spotlight」のまねだとか,「Windowsフォト・ギャラリー」は「iPhoto」のまねだとか,「Windows Media Player 11」は「iTunes」のまねだとか言われるようになってしまった。

 しかし,マイクロソフトが「Spotlight」や「iPhoto」や「iTunes」をリリースしていないからといって,Windowsユーザーが何か困っていただろうか。Windowsユーザーは,全文検索なら「Googleデスクトップ」を,画像管理なら「Picasa」を,そしてiPodが使いたいのならWindows版の「iTunes」を使って,便利に暮らしていた。OSの価値はやはり,アプリケーションが決めるのだと思う。

 だから記者は,もしマイクロソフトがWindows Vistaの価値をユーザーに訴求したいのであれば,それは「Windows Vistaならではの素晴らしいアプリケーション」を通じて行うのが筋だと思っている。

 もちろん,マイクロソフトがグーグル追撃に気を取られるあまり,アプリケーション分野ではWebアプリケーションにばかり力を入れているのは,重々承知している。.NET Frameworkベースのデスクトップ・アプリケーションとして期待されていた「Microsoft MAX」(開発コード名)というプロジェクトも,2006年に終了してしまった。同プロジェクトのWebサイトには「(Webアプリケーションである)Windows Liveにご期待下さい」などと書かれている始末である。

 しかし,ユーザーがデスクトップ・アプリケーションの進化を諦めたわけではない。先に挙げた「Googleデスクトップ」や「Picasa」,「iTunes」は皆,(サーバー連携が肝であるとはいえ)デスクトップ・アプリケーションである。ユーザーが,Webアプリケーションしか受け入れなくなったわけではない。

 実例を1つ紹介しよう。記者は,昨年の10月にマイクロソフトが開催した開発者向けイベント「REMIX Tokyo」で最も面白かったセッションとして「Windows Vistaのガジェット」を説明するセッション(Windows LiveとVista,「ガジェット」がもたらす新しいサービス提供の機会)を挙げ,その理由として「講師の橋本直之氏が使ったプレゼンテーション・ソフトの『DXPresentation』が面白かったから」と語る人を,複数知っている。

 「DXPresentation」は,いわゆる「高橋メソッド」と呼ばれる文字だけを使ったプレゼンテーション手法に,3次元描写をふんだんに盛り込めるプレゼンテーション・ソフトである。記者もREMIX TokyoでのDXPresentationの評判を聞いて,同ソフト(無料で配布されている)を使ってみたが,「プレゼンテーション・ソフトはまだまだ進化できるのか!」と驚いたものだ。DXPresentationは,「.NET Framework 2.0」と「Managed DirectX 9」をベースにしたアプリケーションであり,マイクロソフトがLonghornで目指そうとしたアプリケーション・プラットフォームの改善が実を結んだ,1つの成果であると言えるだろう。

 残念なのは,こういった面白いアプリケーションが,(特にマイクロソフトから)ちっとも登場してこないことである。もしWindows Vistaに,本当に「素晴らしいアプリケーションを生み出す」というOSに求められる本来の力があるのなら,これからきっと素晴らしいデスクトップ・アプリケーションが登場するハズである。そして記者は,そうなることを期待している--。発売日の今日だけは,そう素直にWindows Vistaにエールを送りたいのだ。