PR

 その昔,海外出張で今はなき米DEC(Digital Equipments Corporation)本社を取材したことがある。もともと記者の英語能力など人様にお話しできるようなレベルではないのだが,それでも困ったのが,DECを“デック”と発音したら,まったく通じなかったことである。会話しているうちに,どうやらDECの本社スタッフたちは“ディジタルイクイップメンツ”の略称として,“デック”ではなく“ディジタル”と発音していることが分かってきた。

 最近でも,独SAPの日本法人であるSAPジャパンの取材前に,弊社内の先輩記者から「SAPは“サップ”ではなく,“エスエーピー”と発音しなければならない」と注意を受けた。SAPジャパンの日本人スタッフなら,ボストン郊外在住のDEC本社スタッフとは違って,“サップ”が自分たちの会社を意味していると分かりそうなものだ。だが,サップという発音は英語ではネガティブな意味を持つので失礼に当たる,というのだ。

 サップが本当に失礼に当たるかどうかは,身近に詳しい俗語辞典がないため未確認のままだ。それでも,SAPジャパンのスタッフは,SAPのことを確かにエスエーピーと発音していた。サップと発音しても別に嫌な顔をされるわけではないが,それ以来,SAPジャパンの取材時には,先輩記者のアドバイスに従ってエスエーピーと発音している。

 DECやSAPに限らず,日本人は英略語をローマ字読みすることが多い。例えば,米軍の極東地域向け放送であるFENは“フェン”となり,ピンクレディーは未確認飛行物体のことを“ユーフォー”と歌う。だが,番組の節目に流れるジングルを聞く限り,FENは自分たちをエフイーエヌと呼んでいるし,なつかしの海外ドラマでは謎の円盤UFOを“ユーエフオー”と発音していた。

 こういうことがあったため,記者は英略語のローマ字読みには,ちょっと神経過敏になっている。システム運用のガイドラインであるITILの発音は,少なくとも日本国内では“アイティル”で通じると思うのだが,それでも「あれ,アイテーアイエルだっけ」と一瞬躊躇(ちゅうちょ)してしまう。最近流行りのSaaSは,米国人が記者会見でそう発音していたから“サース”で間違いないとは思うが,もし直接耳にしていなければ,律儀に“エスエーエーエス”と発音していたかも知れない。

 さらに細かい話を言えば,TCPヘッダーのFINフラグは“フィンフラグ”なのか“エフアイエヌフラグ”なのか,URGフラグは“アーグフラグ”,”ユーアールジーフラグ”,それとも“アージェントフラグ”なのか。考え始めるとキリがない。

 記事を執筆する分には,いちいちルビを振るわけではないので,正確な読み方を知らなくてもそんなに困ることはない。困ったのは,音声ナレーション付きのeラーニング・コンテンツを作成したときだ。通信関係の略語,それに英略語ではないが会計用語の読み方には,結構苦労させられた。いったん録音してから間違いに気づいて,スタジオとナレーターを押さえて再録音したこともある。

 用語の意味自体は,ネットや専門書を参照すれば,比較的簡単に調べることができる。それが,いざ読み方となると案外どこにも出ていなかったりする。それに,特定のコミュニティ内で間違った読み方が普及して,それがそのまま「正しい」読み方になってしまっているケースもあるようだ。例えば,会計用語の「在高」は「ありだか」と読むのが正しいのだが,「ITを経営に生かすためのコスト管理入門」の執筆をお願いしている公認会計士の高田直芳さんによると,上場企業でも「ざいだか」と読んでいるところが案外多いという。「担当者の間で間違った読み方が代々受け継がれてしまっている」(高田さん)というのだ。

 IT関連用語でも,企業やコミュニティごとに間違った読み方が代々受け継がれているケースが,結構あるような気がする。読者の皆さんの身近で,思い当たる節はないだろうか。