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 人には「一度に意識する時間」および「一度に集中する時間」の長短という個性がある。顧客と自分自身について,この時間認識のタイプを知って生かすことが,企画を通すために有効だと前回述べた。ところが,この個性は対顧客だけでなく,開発上の問題解決に生かすことができ,プロジェクト・チームの将来までも左右する。

時間認識のタイプで異なる,問題解決のアプローチ方法

 企画を通す「あと一押し」のため,顧客にプレゼンテーション用サンプルを体験してもらうことがある。また,発注が確実視される場合は,企画段階からプロトタイプ開発に着手することもある。

 それらのサンプル・アプリケーションでは,企画書に記載した機能の可能性を実証しなければならない。プレゼンテーションの場で顧客が操作を希望し,想定外の操作をした場合であってもバグを出すわけにはいかない。顧客のささいな戸惑いも,大きなマイナスポイントにつながりかねないからだ。

 企画書に,独自機能や新技術,未経験の処理がふんだんに盛り込まれていると,いくら基本設計が固まっていても種々の問題が発生する。複数の技術系小規模事業者からなるプロジェクト・チームでは,プログラマだけでなく,プランナー,デザイナー,営業担当者までもが問題解決にあたることがある。コーディング方法の模索とバグフィックスは,時間との戦いだ。

 このテスト開発上の問題解決に,時間認識の差異を生かすことができる。時間認識のタイプの違うメンバーでチームを編成していると,問題解決が早まることがあるのだ。

 具体的に説明しよう。

 例えば,問題の解決案が「A」~「Z」までの26種類考えられるとする。このうち,最善の解決策が「P」,代替案として使えるのが「J」と仮定する。

 まず,時間認識タイプによって,問題へのアプローチ方法が次のように異なる(図1)。一度にとらえる時間の長さが違えば,比較検討する解決案の数が違う。図1では,太枠で,一度にとらえる案を表している。

 当然,最適の方法にいたる過程も異なる。検討方法と,テスト(実装・動作確認)や判断に要する時間が違うのだ。

図1●各タイプが一度に把握する解決案と,検討・テスト方法
図1●各タイプが一度に把握する解決案と,検討・テスト方法
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(1)標準タイプ
 「ABCDEF」「GHIJKL」…のように何段階かに分けて検討する。まず,「A~F」までの中で可能性がある案をテストして,結果が妥当でなければ,原因を探ったうえで,今度は「G~L」の中で可能性の高いと思われる案をテストする。それ相応の時間が必要だが,確実な結果をフィードバックしながら進めるため,途中で次点の代替案を導きだすことがある。

(2)時間認識の長いタイプ(長期的視野の予測型。以下「長期タイプ」)
 「A~Z」までのすべての解決案のアウトラインを見通して,消去法で絞り込んだ案に対してさらに深く細かく検討していく。その後,ただ一つの方法に狙いを定めてようやくテストに着手する。テストも慎重で時間がかかる。演繹的な姿勢で,解決策にいたった根拠を詳しく説明できる。

(3)時間認識の短いタイプ(短期的視野の直感型。以下「短期タイプ」)
 「A」「B」「C」~「Z」までの各案を,すべて独立したものとしてとらえ,思いつくままランダムにトライ&エラーを繰り返す。一連の作業に集中する時間が短く,猛スピードでテストするので,他の2タイプに比べると作業は圧倒的に速い。さらに,「A」案のテスト完了を待たずに妥当かどうかを直感で判断し,「C」案のテストに移るといった,離れ業を見せる。根拠はさておき,正常に動作したものが答えだ,という帰納的な姿勢を持つ。

 一言で言えば,標準タイプは「段階的なテストとフィードバックで解決策を導き出す」,長期タイプは「すべての案を走査して解決策を発見する」,短期タイプは「トライ&エラーを繰り返して,解決策にたどり着く」わけだ。

すべてのタイプが協力すれば,チャンスが生まれ,リスクも回避できる

 図1からも明らかなように,一つの可能性に賭ける長期タイプのみ,あるいは,テストを端折りがちな短期タイプのみからなるチーム編成は,リスクが大きい。

 それに比べ標準タイプは,複数案に対してテストを行うので,最初のうちはベストの案を見つけられなくても,実開発段階で最善案にたどりつく可能性が高い。つまり,標準タイプのメンバーで固めたほうがリスクは少なく,チームの運営も安定する。

 ところが,安全策はそれ以上の成果を約束するものではない。資本もネームバリューもない小規模事業者の集団にとって,安全策をとり続けるだけでは,実績や資本力に勝る企業には太刀打ちできないことがある。一打逆転のホームランを放つには,異なるタイプの力が必要だ。リスクは大きいが,逆に当たれば大きい。個性が,チャンスを作るのだ。

 図2の「長期タイプと,短期タイプが,協力した場合」を見てほしい。長期タイプが,すべての方法を見通して案を絞り込む。そのうえで,短期タイプが機動力を生かしてテストを行い,直感で正否を判断する。標準タイプのメンバーのみの場合に比べ,長期タイプと短期タイプが協力し合えば,一足先に解決策にいたる可能性がある。

図2●長期タイプと短期タイプの協力体制が,問題解決を早める
図2●長期タイプと短期タイプの協力体制が,問題解決を早める

 さらに,標準タイプも協力して代替案を用意しておくようにすれば,万が一のリスクも回避できる(3)。三者の,予測と直感と実践という個性を生かした協力体制が実現する。

図3●すべてのタイプの協力体制は,問題解決を早め,かつリスクを回避する
図3●すべてのタイプの協力体制は,問題解決を早め,かつリスクを回避する

 ただし,断っておくが,筆者は工期短縮による価格競争で「一時的な利益」を上げることを勧めているわけではない。問題を早く解決できれば,その分精神的な余裕が生まれ,クオリティを高めることができるのではないかと思っている。

チームとしての機能は「スキルアップ」と「コミュニケーション」あればこそ

 筆者が考えるに,最強のプロジェクト・チームとは,長期タイプが一人,短期タイプが二人,標準タイプが三人以上の編成だ。だが,最強のチーム編成であっても,協力体制が機能するまでには,二つの大きなハードルを越えなければならない。

 一つ目は,「スキルアップ」というハードルだ。

 異なる個性が生きるのも,技術と知識と問題解決の経験という裏付けがあればこそだ。それらが未熟であると,長期タイプは不毛な検討を繰り返すだけで一度のテストも実施できず,短期タイプは試行錯誤して失敗を繰り返すだけに終わる。標準タイプは両者の管理に手一杯で代替案を考えることすらできなくなる。個々のメンバーにスキルアップを図る意欲がなければ,協力体制は絵に描いた餅に終わる。

 二つ目は,「コミュニケーション」というハードルだ。

 前回述べた通り,時間認識の長短が離れるほど,意志疎通には努力が必要だ。チームに参加するすべての事業者が他のメンバーのタイプを個性として尊重し,歩み寄る姿勢を持たなければ,内部分裂を引き起こしかねない。

 各々が,自分の方法だけが唯一の正解だと過信して,他のタイプのメンバーの方法を批判したり口出しをすることからは,何の解決策も生まれない。そのことを肝に銘じて,各々の言動を自制する必要がある。

 例えば長期タイプは,すべての案を検討している間は1行のコードも書かず,まるでフリーズしているようにしか見えないことがある。「早くコードを書いてテストすればいいのに」と短期タイプが我慢できずに急かしてしまうと,フル回転している長期タイプの思考を中断させてしまうことになる。これでは良い結果は得られない。長期タイプは,他の2タイプが気づくことのない可能性(先の例でいえば「A~Z」外の可能性)までも検討しているかもしれないからだ。

 一方,短期タイプの,テストの完了を待たずに可否を判断するや,すぐに次の案を試す慌しい展開は,他のタイプにとっては場当たり的に映る。標準タイプは一定の距離を保って静観するが,長期タイプはなぜ可能性の薄い方法を試すのかと問い詰めて,短期タイプの意欲を削いでしまいがちになる。だが,通常ならスルーしてしまう案もすべて試す行為は,時に誰も考えつかないようなTips & Tricksにつながる。短期タイプの常識にとらわれない行動は,八方塞がりの状況を打破する力を秘めている。

 各メンバーが,互いの方法を尊重し,自分の得意とする方法で問題に取り組んでみよう。そして,解決策に最も早く気づいた者が声をかけ,それから全員で取り組めばよい。その際,先に声をかけた者はできるだけ詳しく,気づきの過程と根拠を説明しよう。メンバー全員が理解しないまでも納得できなければ,方向性が定まらず,チームとして機能しないからだ。

 なお,注意しなければならない危険なチーム編成が二つある。

 一つは,専門分野を同じくする長期タイプが複数いる編成。その予測の当たる確率は,人生経験や業務経験,それ以外のデータベースの量と質,処理能力に左右される。複数のメンバーが自分の予測の正しさを主張し始めると,調整が難航する。また,短期タイプの人数が標準タイプより多い編成も危険だ。何人もが試行錯誤を中断しては次の案を試すものだから,テスト結果の管理に手間取ることになる。

多様な人材を包み込む度量のある組織にこそ,可能性がある

 このように,多様な個性は,一つの問題について多方面からのアプローチを可能にする。

 標準から離れたタイプは,チームの和を乱す,無用の存在に思われがちだ。しかし,一人ひとりの顧客やユーザーが主役となる,カスタマイズと差別化の時代には,標準タイプのみの集団よりも,異質なものを内包している集団のほうが将来性があるのではないだろうか。一人の人間が,脳や心臓や消化器といった,各部の協力とバランスで成り立っているように,プロジェクト・チームも,構成員のバランスで成り立っている。決して皮膚が内臓より偉いわけでも,骨が血管より偉いわけでもない。単なる役割分担だ。

 メンバーの個性を生かすノウハウこそが,集団が生き残るためのブレイクスルーとなる。生態系と同様,多様性を尊重できる度量のある組織には,底力がある。これは,複数の小規模事業者によるプロジェクト・チームだけでなく,どんな集団についても当てはまるような気がする。

 以上は,筆者の体験から導き出した傾向であって,任意のタイプの人が皆,必ずしも100%同じ行動をとると断言することはできない。しかし,時間認識方法の差異に気づけば,異なるタイプを尊重して受容できるようになる。残念ながら筆者は,そうなるまで膨大な歳月を要してしまった。読者の皆さんは,本稿を読んだ数分間でもう十分だ。本稿が,時間認識のタイプという個性に気づき,企画―開発の実務に生かす契機になればと思う。