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SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やEnterprise2.0を巡る世界の最新動向はどうなっているのか。ERPパッケージ(統合業務パッケージ)を含めた業務アプリケーションの動向に詳しい、米フォレスター・リサーチのレイ・ワン プリンシパル・アナリストに聞いた。(聞き手は中村 建助=日経コンピュータ)

ERPパッケージ(統合業務パッケージ)やSaaSの世界でどういった変化が起きているのか。

米フォレスター・リサーチのレイ・ワン氏
写真●米フォレスター・リサーチのレイ・ワン氏

 企業情報システムの世界には何度か大きな変革が訪れてきた。バッチ処理からオンライン処理、そしてメインフレームからクライアント/サーバー・システムを経てWebコンピューティングへの変化などがそうだ。今、Webコンピューティングが主流となった業務アプリケーションの世界に、これに匹敵する事態が起きている。SaaSとSOA(サービス指向アーキテクチャ)という変革がそうである。

 パッケージ・ソフトと異なり、SaaSは原則としてすぐに利用可能だ。料金も毎月一定の利用料を支払う形式なので、既存のIT部門ではなく、実際に利用する事業部門の責任者が簡単に導入できる。SaaSは、ERPパッケージを中心とした業務アプリケーション市場のルールを変えるものだ。

今後、SaaSへの関心は急速に高まる

 現時点では、SaaSへの関心は大企業の方が高い。SaaSのなかには、1人あたり月額200ドル程度で利用できるようなものがある。こういった大企業であれば、面倒な手続きなしで事業部門の責任者が導入を決めることも可能だからだろう。コスト面を考えると、社員が100~500人程度企業がSaaSの導入に適している。

 多くの子会社を抱える企業の場合、個別にITインフラを持たせることができるのかという問題もある。シェアド・サービスを採用する際にも、SaaSは有効な選択肢になる。

 人事管理やCRM(顧客関係管理)をはじめとしたERPパッケージの分野について、SaaSでの利用が急速に進む可能性がある。特に人事関係のソフトはSaaSとの相性が良いと考える。

 ベンダーにもSaaSを推進する動機がある。SaaSではソフトのバージョンアップの問題がなくなる。ソフト会社にとって、リリースマネジメントに悩む必要がなくなる意味は大きい。片や数千社の企業でバージョンアップが一晩で可能だが、既存のパッケージ・ソフトの場合には数カ月をかけてもこれを実現するのは難しい。

 システムの再構築がピークに達する10年ころには、全体の40%の企業が何らかの形でSaaSを利用する可能性もある。

SaaSはまだ業務アプリケーションに関しては新しい分野だ。有力な企業にはどのようなものがあるのか。

 米セールスフォース・ドットコム、米ネットスイートの2社が最も有力な企業になる。単に自社のサービスを提供しているだけでなく、他社のソフトをSaaSにして提供することができる仕組みを持っている点なども評価できる。これらの企業のSaaSは、ソフトのカスタマイズできるだけでなく、マルチテナントの処理も可能だ。

 現時点ではまだスタートアップの段階だが、米ピープルソフト(2005年に米オラクルが買収)の創設者であるデーブ・ダフィールド氏が新たに設立した米ワークデイも注目に値する企業だ。ワークデイは人事管理のシステムを提供する。SaaSとの相性も良いはずだ。

背景にあるシステム再構築気運の高まり

 実は今、世界的に業務アプリケーションの再構築が活発になり始めている。米国の大企業に対する当社の調査では、07年にIT関連の新規プロジェクトに投じられる予算は、ITコスト全体の33%で06年よりも10ポイント増加している。ヨーロッパではさらにこうした傾向が顕著だ。ビジネス・インテリジェンスの分野に新規に投資しようという企業も増えてきた。

 Windows Vistaの出荷なども関係しているが、西暦2000年問題を契機として2000年までに導入されたシステムがそろそろ寿命を迎えることが、投資の拡大に影響している。手作りのアプリケーションを運用していけば、どうしても保守・運用のコストが膨らんでいく。企業の立場で考えれば、適切なアーキテクチャの上でパッケージ・ソフトを用いるのが最も低コストになるはずだ。

 効率的なシステム開発のためにSOAの考えを導入する企業もどんどん増えている。当社の調査に対して、今後12カ月以内に利用を開始すると答えた企業まで含めれば、北米の大企業の60%がSOAを何らかの形で採用すると答えている。同様の調査の結果はヨーロッパでは63%に達する。まず社内システムから適用が広がっていきそうだ。

エコシステムがERPパッケージには必要

ERPパッケージの将来についてはどう見ているのか。

 ERPパッケージを提供し続けるには、「エコシステム」を構成することが不可欠だ。ハードやミドルウエア、システム・インテグレータなど、1社で企業が望むすべてのものを提供するのは不可能だ。自動車会社を考えて欲しい。米GMであろうとトヨタ自動車であろうと、自動車を一からすべて作っているわけではない。実際には部品メーカーが作った部品を利用して自動車を組み立てているし、実際に売るのは販売会社だ。自動車ローンの会社もある。システム開発の世界もこれと同じことがいえる。

 現時点では、ERPパッケージのエコシステムを構成するうえで重要な要素となっているのはミドルウエアである。自ら中核となってエコシステムを作ることができる企業は米IBMと米オラクル、米マイクロソフト、独SAPの4社だけだろう。

 IBMは自社でERPパッケージを開発していないが、WebSphereという有力なミドルウエアを持っている。マイクロソフト、オラクル、SAPの3社はERPパッケージとミドルウエアの双方を提供している。

 ただ数年後にどうなっているのかは分からない。その頃には、ミドルウエアもコモディティ化していくだろうからだ。特定の製品だけを扱うソフト・ベンダーではなく、自由な立場で製品を選んでシステムを構築する、システム・インテグレータが、エコシステムの中心に位置するようになっているかもしれない。

ユーザー・インタフェースの戦いが始まる

ERPパッケージの選択において今後、ユーザー・インタフェースが重要になっていくと予測していると聞いた。

 その通り、次世代の業務アプリケーションの選択にあたっては、ベンダーがどういったユーザー・インタフェースを提供するかが重要なテーマになってくる。

 Web2.0時代の到来で、Webシステムの操作性を格段に向上させることが可能になった。Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)などによるリッチクライアント技術によって、Webシステムでも一々画面を再生成せずにシステムを利用できる。ドラッグ&ドロップによる操作も可能だ。このことがSaaSやERPパッケージなどのユーザー・インタフェースに大きな影響を与えている。

 SAPやオラクル、マイクロソフトの新製品は、ユーザー・インタフェースが大きく進化するはずだ。ERPベンダーの米ローソン・ソフトウエアやワークデイもユーザー・インタフェースには高い関心を払っている。RSSリーダーやスカイプを組み合わせた製品やサービスを提供する企業も登場してくるだろう。

 ユーザー・インタフェースの変化は、単なるデザインの問題ではない。企業が考えるべきなのは教育のコストだ。30歳以下の人間は普段、GoogleやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のマイスペース、米アマゾン・ドット・コムを使っている。Web2.0を取り入れたものなら、簡単にシステムの利用者を増やすことができる。これがCUI(キャラクタ・ユーザー・インタフェース)による専用端末の場合は、何週間にも及ぶ訓練を施す必要がある。

 それに製品をデモするときに、ユーザー・インタフェースの違いはすぐに見て分かる。10年にかけてシステム再構築プロジェクトが増えるというのはすでに述べた通りだ。再構築を検討している企業への訴求力が高いと考えているのだ。