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 今回,総務省がMVNOの解禁を進めた狙いは,モバイル・ビジネス全体の“オープン化”にある。携帯電話事業者の現在のビジネスモデルは,完全な垂直統合型だ。端末からネットワーク,プラットフォームまでを一括提供するだけでなく,自己資本や提携により,コンテンツ/アプリケーション分野にまで進出している。

 総務省はこの垂直統合型モデルの枠組みを残しつつ,端末やネットワーク,プラットフォーム,コンテンツ/アプリケーションの各レイヤーに様々なプレーヤの参入を認める水平分離型モデルを取り入れた“オープン型”への転換をもくろんでいる。そのためには,MVNOへの携帯電話網の“開放”を進めるだけでは不十分。端末,ネットワーク,コンテンツ/アプリケーションの各レイヤーを明確に分離し,他業種が参入しやすい環境を整える必要がある。

 そこで総務省は1月から「モバイルビジネス研究会」を立ち上げ,MVNOの促進策,認証や課金といったプラットフォーム機能の在り方,販売奨励金とSIMロックを前提とした現行のビジネスモデルの是非,などを議論している。

MVNOの発展は接続料次第

 MVNOの参入障壁は今回のガイドライン改正で大幅に緩和されたものの,課題が一掃されたわけではない。MVNO協議会の幹事会議長を務める日本通信の福田尚久・常務取締役CFOは,「最大の課題はMVNOに料金設定権がないこと」と指摘する。

 携帯電話事業者の接続約款を見ると,現状では「無線部分の料金はあくまでも携帯電話事業者が徴収する仕組みになっている」(同)。コンテンツと通信料金をセットにして,音楽を「1曲200円」,小説を「1冊300円」といった形で販売できるのは携帯電話事業者だけだ。メーカーやコンテンツ・プロバイダでも通信料金を含めた形で販売できれば,「多くの企業がモバイル・ネットワークを活用した製品/サービスを発想,開発,展開できるようになる」(同)。

 携帯電話事業者と網を相互接続した際の精算方法(接続料)も問題だ。携帯電話事業者が高額な接続料を設定すれば,MVNOはサービス提供が困難になる。MVNO事業化ガイドラインでは,接続料について「能率的な経営下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超える場合は総務大臣が接続約款の変更を命令できる」としているが,具体的な基準までは示していない。

一筋縄ではいかない販売奨励金問題

 モバイル・ビジネスのオープン化を進める上で,料金以上に大きな障壁となりそうなのが,販売奨励金とSIMロックだ。販売奨励金とSIMロックを前提とした現行のビジネスモデルは,以下の点で問題があると指摘されている。

 第一は,ユーザー間の公平性や利便性の問題。事業者は販売奨励金の原資をユーザーの基本料や通話料から回収している(図1)。端末を頻繁に買い換えるユーザーが,そうでないユーザーから端末代金の一部の負担を受けている形になり,不公平感がある。SIMロックは,端末に対するユーザーの選択肢を狭めている。

図1 販売奨励金(インセンティブ)とは
図1 販売奨励金(インセンティブ)とは
携帯電話事業者が販売代理店に支払う販売手数料。販売代理店は,ユーザーに端末を安く売るための値引き原資に販売奨励金を使っている。本来は数万円以上する端末をユーザーが安価に購入できるのはこのためだ。
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 第二は,国内の端末メーカーの弱体化につながるという問題。「販売奨励金やSIMロックは,日本の端末メーカーの世界シェアが低い原因の一つ」(長谷川孝明・埼玉大学大学院理工学研究科教授)とする意見は多い。モバイルビジネス研究会の第1回会合では菅義偉総務大臣自らが出席し,「1円など非常に安い値段で携帯電話を買える日本独自のビジネスモデルは国際的には通用せず,日本の端末メーカーが海外でシェアを取れない原因となっている。販売奨励金やSIMロックについて,もう一度基本に立ち返って考える必要があるのではないか」と問題を提起した。

 さらに,販売奨励金は総務省が育てようとしているMVNOの参入を阻む要因にもなっている。MVNOの多くは携帯電話事業者のような資本力を持たない。販売奨励金の投入は難しく,原価に近い価格で端末を販売せざるを得ない。販売奨励金が投入された携帯電話事業者の端末に比べ,価格面で大きく見劣りすることになる。販売奨励金は強固な経営基盤を持つ携帯電話事業者だからこそできるモデルである。

一つ間違えれば負の連鎖

 ただ,NTTドコモやKDDI,ソフトバンクモバイルは,販売奨励金とSIMロックを前提とした現行のビジネスモデルの見直しに慎重だ。NTTドコモはモバイルビジネス研究会の第2回会合で,「ユーザーが年間1000万も増えるような成長期ならともかく,今となっては必ずしも良いモデルではない。ユーザーに不公平感があるのも事実」(伊東則昭・取締役執行役員経営企画部長)と,販売奨励金やSIMロックが時代遅れになっていることを認めるものの,「これに代わる良い案がない。現行モデルが非常にバランスがとれている」と歯切れが悪い。

 確かに「販売奨励金とSIMロックにはメリットもある」(メリルリンチ日本証券の合田泰政シニアアナリスト)。世界最先端と言われる現在の携帯電話市場を支えてきたのは,販売奨励金とSIMロックによるところが大きい。販売奨励金のおかげで,日本のユーザーは高機能な端末を安価に入手できる。端末やサービスの多様化にも少なからず貢献してきた。

 野村総合研究所の北俊一・上級コンサルタントも「現行の販売奨励金モデルが日本の端末メーカーによる海外進出の足かせになったのは事実としても,それを取り除けば問題が解決するかどうかは全く別の話。販売奨励金モデルをやめたからといって,端末メーカーが海外に進出できて国際競争力が向上するわけではない」とビジネスモデルの見直しに慎重だ。

 むしろ,販売奨励金モデルを単純に廃止してしまうと,「端末価格の上昇」→「ユーザーによる買い替えの減少」→「通信事業者やメーカーの収益減少」→「新技術の普及の遅れ」という負の連鎖が予想され,「間違ったドミノを倒すことは絶対に避けなければならない。携帯電話事業者の既得権益を守るわけではないが,携帯電話市場が中長期的に良くなる施策を考えるべき」(同)と主張する。

 このように様々な要素が複雑に絡み合っており,現状は解決の糸口を見い出せないでいる。はたしてどこに着地するのか,総務省には難しい舵取りが要求される。

 なお,販売奨励金とSIMロックの問題に関しては,日経コミュニケーションの2月15日号で改めて徹底リポートする。