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顧客やビジネス・パートナーと会食することがある。セッティングを任された人,同席する人,色々と配慮すべき点がある。接待のような“正式”な食事会には無縁だとしても,仕事仲間と一緒に飲みに行く機会は誰にでもあるだろう。仕事後のリラックスした場面ではあっても気をつけなければならないことはある。

田中 淳子/グローバル ナレッジ ネットワーク 人材教育コンサルタント

 食事を共にすることで,普段はできない会話をし,互いの人となりを理解し合え,結果的により強固な人間関係を築けるメリットがある。食事や少々のお酒を介在させると,リラックスするので,会話も弾む。社内外の人と親交を深めるための会食は,大切なコミュニケーションの場である。

 とはいえ,うまく準備をしないと気まずい空気が流れてしまうことになりかねない。

 以前,ある企業の方から食事に招かれた。その方々とは初めての会食だった。このとき,先方の担当者から,事前に「都合のよい日時と場所」以外に「食べ物についての好き嫌い」について尋ねられ,当社側の窓口だった私が,参加するメンバーに「日時や場所」と「好き嫌い」を確認して先方に伝えた。「好き嫌いまで配慮するとは気配りが行き届いている」と感心したものだ。会食を企画する幹事は,ぜひここまで気を配りたい。

 好き嫌いを事前に確かめておかないと,気まずい会食になりかねない。例えば,こんな話を聞いたことがある。知人が出張先で「とっておきのお店にお連れしますよ」と食事に誘われた。「どんな店だろう?」とワクワクしてついていったところ,その店はタンシチュー専門店だった。しかし彼の唯一苦手なものがタンだった。彼は「食べるのを断るわけにもいかず,噛まずに飲み込んだ」と苦笑いしながら,「事前に『タンは大丈夫ですか?』」と確認してくれていたら」と残念がっていた。

自分の話ばかりしない

 さて,会食当日。幹事はできれば,一足先に会場に到着しておきたい。誰がどこに座ればよいかなども確認しておく。それが接待の場であれば,招く相手と自分たちが座る位置も決めておく必要がある。座る位置については迷うところだ。一般的に,ドアより遠い席や奥側の席,和室なら床の間を背にした位置が,招く相手が座る「上座」と言われている。

 ただし夜景が美しい場合は,それが手前の席であろうと,あえて夜景が見える側を相手に勧める場合もある。「夜景が見える側におかけになりませんか?」と断れば,礼を失することもない。店によってはどこが上座か分からないときもある。こんなときは,店の担当者に確認すればよい。そのためにも,幹事が早く到着しておくことに意味があるのだ。

 いよいよ食事が始まる。会食中の会話がまた難しい。それほど親しくない間柄では,共通の話題を見つけ出すのが一苦労だからだ。

 そこで,仕事の話できっかけを作る。すると,仕事の話題ばかりになってしまうことがある。だが,懇親を目的とした食事の場合,これではリラックスすることができない。だからといって,プライベートに踏み込みすぎては不快な気持ちを抱く人もいる。「お正月はどんな風にお過ごしでしたか?」,「夏休みはもうお取りになりましたか?」といった季節にかかわる話題から入るのが無難だろう。

 会食では,ときどき自分の話ばかりしている人がいるので,幹事は発言回数のバランスにも気を配りたい。もし同席している身内が自分の話ばかりしていることに気づいたら,「ところで,○○さんは…」と,招いた相手に話題を振るようにしたい。

 会食に参加するメンバーは,「あなたを知りたい」という気持ちで会話に臨もう。「自分が知りたい」ことに集中しすぎると,「私の場合は」などと自分の話題に移っていき,自分のことばかり話していることになりかねない。結果的に,相手をよく理解できないまま,会食が終わってしまうことがある。そこで,とにかく相手を理解するために質問をし,相手の話に耳を傾ける。そうすれば話の腰を折ったり,自分で話題を持っていってしまったりすることを防げる。めったにない会食の場では「相手をよく理解する」ことを心掛けよう(図1)。

図1●食事中の会話のマナー
図1●食事中の会話のマナー
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若手の失礼な言動を注意する

 読者にとってより頻度が高いのは,社内の宴会や食事会だろう。この場合にもマナーはある。

 例えば,上司や先輩に飲食に誘われておごってもらったときは,翌日速やかに礼を言う。この時,他の人にも聞こえるように「昨日はご馳走さまでした」などと言うとまずい場合がある。聞いていた人に妙に勘繰られたりする可能性があるからだ。こういう場合のスマートな表現は,ただ一言「昨日はありがとうございました」である。

 宴会に関しては,若手が徐々に調子に乗り出して「いくらなんでもそれは失礼だ」と思う言動に及ぶことがある。「無礼講」とは言え,やはり限度を超えればマナー違反だ。

 こんなときに,「注意して座が白けてもいけないし,酔っぱらいに注意してもしょうがない」と考えて,苦々しく思いつつ,押し黙ってしまう上司や先輩は多いようだ。しかし本来は,すぐその場で誰かがびしっと注意すべきだろう。「いくら宴会とは言え,それは失礼だろう!」と,座が静まるほどきっぱりと言えば,若手の胸にも響くはずである。宴会が白けたまま解散することになっても「駄目なことは駄目」と教えることに意味がある。

今月のポイント
1. 社外の人を食事に招く場合は,「日時や場所」のほかに「好き嫌い」も確認しておく。
2. 会食では「あなたを知りたい」と思い,相手を理解しようという気持ちで会話を進める。
3. 社内の宴会でも,最低限の礼儀は守る。

もしも宮中晩餐会に招かれたら――至高のマナー学   今月のお薦め本:
もしも宮中晩餐会に招かれたら
――至高のマナー学
渡辺 誠著
角川Oneテーマ21 600円

東宮御所で主厨を務めていた著者が宮中晩餐会を紙上で再現。それ自体は,庶民に無縁のものであるが,「食事そのものを愉しむ,食事をともにする人たちとのコミュニケーションを愉しむことができてこそ,真のマナーである」というメッセージは,私たちにも役立つ。

田中 淳子(たなか じゅんこ)
1986年,上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て,現在はグローバル ナレッジ ネットワークでコミュニケーション,リーダーシップ,トレーニングスキルなどの研修企画,開発,実施に当たっている。著書に「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社),「速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック」(日経BP社),「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)がある。ブログ「ヒューマン・スキルの道具箱 ~ タナカ La ジュンコ ~」を連載中。