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問題解決の第1ステップは,問題把握のための情報収集だ。客観的に漏れなく問題をとらえるためには,「MECE(ミーシー)」の考え方が必須である。

土井 哲/インヴィニオ 代表取締役

 前回は問題解決のプロセスを,7つのステップに分けて説明した。今回からは顧客企業の問題の本質をとらえ,抜本的に解決するためのソリューションを提案する,という流れを具体的に示す。実際にどのように進めていけばよいのか,事例を取り上げながらステップバイステップで解説することにしたい。

 第1ステップの「問題の認識」では,特に重要になる,現状を正確に把握する情報収集の具体的なやり方を考えてみよう。

 ここではシステム・インテグレータで働き,顧客への提案力を高めたいと思っている30歳のSE麻田君と,麻田君の上司である悠木部長に登場してもらい,麻田君と悠木部長のやり取りを通して問題解決のプロセスを解説する。悠木部長は最近経営コンサルティング会社から麻田君の会社に転職し,部下の育成に力を注ぎながらソリューション提案力を高めることに注力している。麻田君の行動を読んでいただき,その行動に問題点はないか,自分ならどうするか,みなさんも考えながら読んでほしい。

最初の計画は穴だらけ

 ある朝のこと。麻田君は,担当している機械メーカーX社について,悠木部長に相談した。

麻田:部長,現在私が取り組んでいるX社の会計システム構築の打ち合わせで,先週X社を訪問した折に,経理部長が「在庫が多くて困っているんだ」とこぼしているのを小耳に挟みました。当社の在庫管理パッケージを提案できないでしょうか。

部長:それは良いことを聞いてきたね。提案の基本は情報収集だよ。まずどのような情報を集めたらよいか,自分なりに計画を立ててごらん。

麻田:分かりました。

 悠木部長は,麻田君の情報収集能力を知るために,まず彼自身に計画を立てさせることにした。

 ところで,在庫の問題がなぜ企業にとって重要なのか,改めて理解しておこう。メーカーが商品を作る際には,たいてい欠品にならないように,需要を予測してそれに合わせて十分な量を作る。

 ただしあまり作りすぎてしまうと,万一売れなかったときには,商品が余ってしまって処分に苦しむことになる。どう処分するかということだけでなく,在庫がたまってしまうということは企業にとって大きな問題をもたらす。なぜなら在庫は財務的に見ると,自分の会社のお金を使って自分の会社の商品を購入することにほかならず,在庫が増えるとその代金としてキャッシュが減るからだ。

 詳しい説明は省略するが,キャッシュの減少は企業価値の減少,つまり株価の下落につながり,企業にとっては由々しき問題である。だからX社の経理部長は頭を痛めていたのである。

 翌日麻田君は,情報収集の計画書を持って悠木部長のところにやってきた(図1)。みなさんはこの計画書を見て,どう思うだろうか?

図1●部長に問題点を指摘された計画書
図1●部長に問題点を指摘された計画書
SEの麻田君が顧客企業X社の在庫の問題について情報を収集しようとして計画書を作成したが,十分でなかった
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麻田:部長,計画書を作ってみました。いかがでしょうか?

部長:麻田君,せっかく計画を作ってくれたのに申し訳ないが,これでは,あまりよい情報収集はできないと思うよ。まず第一に仮説が見えない。第二に情報収集の幅が狭い。第三に,このインタビュー項目では問題の全体像がつかめない。

麻田:部長,ちょっと待ってください。そんなにいっぺんに言われてもよく分かりません。

 悲鳴をあげた麻田君に対して,悠木部長は一つずつ丁寧に説明することにした。

仮説を作り主観を排する

部長:まず第一の「仮説が見えない」という点についてだが,この計画書を見ると,君は経理部長と部長補佐の2人に会って,彼らから情報を聞こうとしている。在庫の金額や過去の推移など定量的なデータを集めるのはよいことだ。しかし,彼らがこの問題をどう見ているかを調べるだけで,君自身がX社の在庫問題を主体的にとらえようとする姿勢が伝わってこない。君は在庫問題には詳しいの?

麻田:いえ,取り組むのは今回が初めてです。

部長:それなら,なおさらまず勉強しなくちゃ。ある程度,在庫問題について自分でも調べて「たぶんX社でこういう事態になっているのではないか」,「こういうメカニズムが働いているのではないか」という仮説を準備すべきだ。それからインタビューに臨まないとね。

麻田:はあ。でも,金額や推移,それに2人から原因を聞きだし,そこから質問を広げていけばよいのではないですか?

 麻田君の考えももっともに聞こえる。しかし,悠木部長は非常に大切なことを言っているのを見逃してはならない。仮説を用意しておかないと,結局インタビュー相手の2人だけの意見,別の言い方をすればその2人から見える問題だけを拾い上げることになりかねない。主観的な思いを聞いてくるだけで終わってしまっては,問題の全体観が得られない。

 それに,事前によく勉強して仮説を持ってインタビューに臨み,「こんなことはありませんか,こんなことは考えられませんか」と質問をぶつけていけば,相手が「ずいぶん在庫のことを知っているなあ」という気持ちになる。信頼感が生まれ,真剣にいろいろと話してくれるものだ。

ユーザーは一側面しか語らない

部長:2番目の「情報収集の幅が狭い」という問題だけど,私の経験では,問題がなぜ起こっているか,多角的に分析して外部の人に分かりやすく説明してくれる人なんていないものだよ。1人の人間に見えている問題は,たいていの場合,問題の一側面に過ぎない。残念ながら経理部長は経理部長の立場からしかものを見ていない可能性が高いんだよ。

麻田:だから1人の情報に頼るのではなく,社内のいろいろな人に会って,情報を多角的に集めなければ問題の全体像が見えてこないのですね。

部長:そうだ。分かってきたじゃないか。それから「現地・現物主義」という言葉を知っているかい? 自分の目で確かめると,単に人から聞くのとは違って現場の様子がよく分かる。問題解決に取り組む姿勢として非常に重要なのは,先入観や誤解,独断を排除して,まずはありのままの姿を直視することだ。現場に行って自分の目で現物を確かめておくと,「肌感覚」で問題をとらえることができ,問題の原因を考えたり解決策を考えるときにとっても役立つんだ。

 ここで情報収集の方法について簡単に整理をしておこう。情報収集の方法は,文献調査,アンケート,インタビューの3つがある。以下,順に説明していこう。